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stars  作者: 二皿くも
53/62

第七話 アステリズム 4


  *


 実家に戻ってから、僕は予備校と家を往復する日々を過ごした。

 両親とは当たり障りのない会話をして、二歳近くなった弟に何も思わない。泣けばなんとかしようと思うし、母さんが世話で忙しいならオムツを買いにいく。


 義父さんが休みの日に誘われるが、勉強が忙しいからと三人で行ってもらう。ひとりで赤ちゃんの匂いがする家に居ても、少しも何も思わない。


 ……こんな、臭い家嫌だ。


 そう、弟が産まれたてのとき、僕はひどいことを言った。

 じゃあ、お掃除ちゃんとするねと、笑みを浮かべて言った母さん。怒られたほうがマシだった。


 それから、僕は新しい家がとても居心地が悪くなった。自分が居ないほうがいいと思う様になった。そうして家を出て、戻って、僕はとても子供だったなと思った。

 中三だったのだから、当たり前なんだけど。僕は、母さんとずっとふたり暮らしで、自分は同級生男子より苦労しているぶん大人だと思っていた。


 ……けれど、僕は、単なる子供だったのだ。


 家に戻って一週間、僕は色々気づき、彼女の退院の日になった。

 連絡を取ったり、会いに行く事は出来ない。僕からふたりに近づけば、両親に全て話すと衣笠さんに言われているから。


 金剛寺が居るから大丈夫だろう、衣笠さんがふたりにひどいことをしなければいい。


 ……一分でも、十秒でもいいから、彼女の声が聞きたい。


 そう思うが、出来ない。衣笠さんが、やっぱり怖いひとだったからだ。

 予備校終わり、衝動的におばけ屋敷に向かっていると、衣笠さんに声を掛けられかき氷屋さんに連れて行かれてしまった。


 衣笠さんは彼女の無事を教えてくれたけれど、おばけ屋敷に行くこと連絡をとることはダメだとキツく言い。彼女と直接関われないまま、予備校の盆休みが始まってしまった。


 休みの初日、勉強があるからと出かけるのを断った僕は、家でひとり。昼ご飯のあとリビングのソファに寝そべり、スマホをにらんでいるとインターホンが鳴った。


「おす。西宮って田んぼばっかりなんだな、お邪魔しまーす」


 扉を開くと同時、井口が元気よく玄関に入ってきた。


「……来るなら、連絡してからに……」 


「部活、今日から盆休みだから、遊んでくれって。三日前から、メッセージ送り続けて電話もしてたからな。うわー、リビング広っ!」


 勝手に上がってリビングに入り、井口が頭をぐるぐる動かしながら言った。


「お前と連絡つかないから、おばさんに連絡しといたし。おばさんから言ってもらう様に言ってたけど」


 そういえば、今日の朝食のときに聞いた様な気もしないでもない。


「あれ、スマホあんじゃん。おばさんが、もしかしたらスマホ落としちゃって、言いにくいのかもって」


 井口はソファに勝手に座り、電源の入ってない僕のスマホを手にする。


「なあー、この辺コンビニも自販機もなくてさー、喉かわいたー」


 僕は台所に向かい、麦茶を注いだグラスを両手に戻る。


「てかさ、赤ちゃんの匂い懐かしいわー。弟、二歳まだなってねえんだろ。言葉しっかり話す前が一番かわいいぞお」


 僕からグラスを受け取り、両目を垂らす井口が一気に空ける。隣に座り、一口飲んでから聞いた。


「……井口はさ、弟のこと、最初からかわいかったか」


「何だよ、テルは、弟のことかわいくねーんか」


 僕のグラスを取り井口が空けたあと、「分からない」と答えた。


「まあなー、片方親が違う兄弟って最初は戸惑うって、ネエふたりが言ってたな」


 「おかわり」と井口が言い、台所で冷蔵庫を開くと聞こえた。


「俺さ、ネエ達と母親が違うんよ」


 麦茶のポッドを手に戻ると、井口がグラスに注ぎながら言った。


「テルんところと逆な。俺が出来て、母ちゃんと奥さん亡くなった父ちゃんが結婚したのよ」


 「座れよ」と言われ、言うとおりにすると、前のローテーブルに麦茶が注がれたグラスを置かれた。


「今まで言わなかったのは、隠してたわけじゃないぞ」


「……お前、隠しごと出来ないだろ」


 「そうそう」と言ったあと、井口は真面目な顔で言った。


「ネエふたりともさ、いい意味でも悪い意味でも俺に遠慮ないってか。親ふたり仕事で忙しいからさ、すげえ面倒見てかまってくれて、厳しいじゃんか。だからさ、半分しか血はつながってないけど、普通に家族で。テルは、大丈夫かなって」


 井口が早口で話すときは照れているときだ。素直で隠しごとが出来なくて、いつも笑顔で、いつも僕を心配してくれる。


「……なんか、井口は、僕なんかよりずっと大人だな」


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