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stars  作者: 二皿くも
51/62

第七話 アステリズム 2

「……一昨日か。なんかすごい前みたいだけど、寂しいって言った」


『クソ女に絡まれて、あんな修羅場見せられたほうが良かったか』


 『後悔してないか』と言われて、思ったままを言った。


「後悔はしてないけど、手の震えが治まらない」


 金剛寺が『ごめん』と言い、僕は思うままを続けた。


「当たり前なんだろ。怖いよ。でもさ、今日の、全部、見られて良かった」


『お前、ホラーが好きなヤツだったのか』


 「ホラー」の言葉に、そのとおりと思い、少し笑う。


「どっちかと言えば嫌いだよ、得体が知れないものって嫌だよ」


『なのに、見られて良かったのはどうしてだ』


「簡潔に答えないと、ダメかな」


 『ゆっくりでいい』と言われ、二本目のスポーツ飲料を飲みながら考え、答えた。


「僕は、あのひとのことを、どんなことでも知りたいと思うから」


『お前、ホラー絶対好きだろ、あいつのことそこまで好きか』


「おばけ屋敷に住んでるって、ホラーになるのか」


『そこかよ。包丁で首切った姿前にしたら、好きな女だったとしても普通はドン引くもんだぞ』


「金剛寺も、ひいてないじゃん」


『何だよ、高校生みたいな言い方しやがって』


「いや高校生だし、金剛寺もあのひとのこと相当好きだし」


『うるせえよ、目上の人間に対して何だその言い方は。改めて、礼儀を教えてやらないとダメみたいだな』


 言葉と違い、金剛寺の声色は明るく軽い。ほっとする。


「教えてもらってもいいよ。僕、これからどうしたらいい」


 思ったままを言うと、金剛寺が声色を変えて言った。


『包丁、誰にも見つからない様にしろよ。電話切ったら、すぐメッセージで所在を送るから、事務所に向かえ』


   *


 学校を出て、制服を着た生徒とすれ違うと、全身がびくりと震えてしまった。


 ……トートバッグの中身が分かるはずはない。……大丈夫。


 自分に言い聞かせながら信号を渡り、176号線の高架沿いに進む。公園を過ぎて、商店街のアーケードを横切り、『だいあんさす』の軒先が見えたとき。


「おおーい! ひかりん、ここだぞ!」


 聞こえた上を向くと、窓から身を乗り出し手を振る衣笠さんが見えた。

高架下の『だいあんさす』と道路を挟んだ向いの雑居ビル。階段で三階に上がって、薄暗い廊下を進み、

 『きぬがさ法律事務所』と書かれたガラスの戸を開いたと同時。


「ようこそ! 我が、きぬがさ法律事務所へ!」


 大きな声と、ぱあんっと乾いた音に、僕は腰を抜かしてしまった。


「ありゃ、サンライズが過ぎたかな」


 そう言って、片手にクラッカーを持つ衣笠さんが、僕を片手で立たせてくれた。


「それ、重いだろうから。おっちゃんに渡しなさい」


 僕は、大して重くないはずなのに、そのとおりのトートバッグを渡す。


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