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stars  作者: 二皿くも
49/62

第六話 レグルス 6

「……消えたら、嫌って言いましたよね」


 「馬鹿」と言うと、両目を大きくした彼女。

 赤い手から赤い包丁を床に落として、僕は頭から布団をかぶせる。


「……今度は、僕が助けます」


 両足を両脇に固定し、身体を背中に負う。彼女は自分の重さを僕の背中に預けてくれた。

 「よくやった」と部屋に入って来た金剛寺が言い、上がっている息で続ける。


「警察が来る前に、走れ。あとは何とかする。おい、会話は全部録音してるから、お前は行けねえぞ」


 金剛寺は床に尻餅をついている男に言ったあと、彼女の血がついた包丁をバスタオルにくるみ、トートバックに入れて僕の肩にかける。

 「行け」と肩を叩かれ、僕は、なるべく早足で進み始めた。


 まだ従業員が集まってない廊下を進み、階段を降り外に出て、辺りを見回しながらホテルを離れていった。

 今日は曇りで良かった。だが、背中に布団を背負っている。脇はぐっしょり濡れて、額からの汗が目に入ってくる。ぬぐえず、顔を振りながら急いだ。


 「ごめんなさい」とずっとつぶやいている背中の彼女に、僕はずっと返しながら進む。


「……謝らないでいいです、消えないで良かった」


 「ごめんなさい」と「大丈夫です」を何度も言い合い。熱さで頭がぼんやりするが、足を止めず。とても遠く感じた学校に着き、校門をくぐるとすぐ担任に名前を呼ばれた。


 金剛寺から話は聞いている、自分が緊急病院に連れて行く。そう言い、担任は車のうしろの席に彼女を乗せるのを手伝ってくれた。


 「扉、閉めますね」と言ったあと、布団から、ところどころ赤い白い手が伸びてきた。


 僕は、しっかりと繋ぎ、


「あなたが、消えなくて。本当に良かった」


 彼女の熱さを感じながら、同じくらい熱い息で言った。


『第六話 レグルス』了



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