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stars  作者: 二皿くも
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第六話 レグルス 1

第六話 レグルス


   *


「あんた、何? 成人してないよね? 高校生だよね、何年生?」


 上半身を起こし、今が、夢か現実か分からない僕は返せない。


「名前は? どこの高校行ってんの? どうして、この家でひとり寝てんの?」


 黒いキャスケットから垂れる胸までの髪の毛は金色、大きな真っ黒のサングラス、上下黒のタイトなジャージ、まとう強い香水。

 たまに井口と行く、阪急東通り商店街の入り口にあるドンキ・ホーテ。店内によく居る女の人が、僕に質問を続ける。


「お姉ちゃんと、どういう関係? まさか、彼氏じゃないよね?」


 「違います!」と大きく言い、「お姉ちゃん」の言葉に思い返す。


「……君、森はずき?」


 「呼び捨てにすんな!」と言ったあと、舌打ちをして、彼女の妹はサングラスと帽子をとった。

 スマホで見た画像のとおり、森はずきの濃い化粧は間近で見るととても迫力があった。


「何で、私のこと知ってるの、お姉ちゃんから教えてもらったの? あのさあ、ひとのことじろじろ見てないで、答えろよ!」


 長いカラフルな爪に眉間を押さえられ、あれ、と思う。


「……あの、僕ひとりって、なでしこさんは……」


「先に質問してんのは、こっち! 私の前で、その名前を言わないで!」


 ぴんっと額をはじかれた痛みで、現実で目覚めたのが分かった。

 布団から出て辺りを見回す。薄い暗闇ではなく、白い光りに包まれた部屋。戸が全て開け放されていて、隣のちゃぶ台の部屋と台所、廊下、玄関まで見渡せる。彼女の姿は見えない。

 僕が二階へと足を動かすと、止まる。


「だから! 私の質問に答えろ!」


 強く僕の腕をつかみ、森はずきはちゃぶ台の前に座らせた。


「……あの、君は、どうしてここに居るの」


 向いに座った森はずきは、僕をぎろりとにらんで言った。


「だから! それ! 私のセリフだから! あんた、どうしてここに居るの!」


「……昨日の夜、呼んでもらったから」


「はあ? 待って、まじでお姉ちゃん、あんたみたいな子供たぶらかしてんの?」


 森はずきが右眉を上げて言った言葉に、かあっと、身体のどこかが熱くなり。


「あのひとのことを、そんな風に言うな」


 はっきり言うと、目の前の長すぎるまつげをつけた目が大きくなり、細くなる。


「あんた、うちのお姉ちゃんのこと好きなんだ?」


 「へー」とじろじろ見てくる視線に、僕は下を向いて返した。


「……君のお姉さんに。僕は助けてもらって、お世話になってるだけだ」


「あのひと、誰にでも優しいから。誤解しないほうがいいよ」


 「知ってる」と首をもたげると、森はずきは僕の向こうを見て言った。


「誰にでも優しいって、誰にでも興味がないってことと一緒。誤解させない様にしなよって、ずっと言ってきたよね」


「うん、ごめんね。お姉ちゃん忘れてた」


 後ろを向くと、玄関に立つ彼女が居た。


「忘れてたじゃないでしょ。こんな子供まで誤解させて、親に訴えられたら刑事事件になるんだよ。身内から逮捕者が出たなんて、私の芸能生活の足引っ張らないでよね」


 かあっと全身が熱くなり、口を開く前。


「うん、ごめんね。お姉ちゃんのせいで迷惑かけないから」


 彼女は僕に視線を向けることなくまっすぐに進み、森はずきの隣に座った。


「本当に大丈夫なんだよね。お姉ちゃんの布団に寝てたみたいだけど、何もしてないんだよね」


「昨日、体調が悪くなって、看病してもらっただけだよ」


「何で、こんな子供呼び出したの。金剛寺さんは」


「誠志郎君には、頼らない様にしてるの」


「何で、こんな子供より、金剛寺さんのが頼りになるでしょ」


 目の前の会話に拳を握って我慢していると、彼女が言った。


「うん、ごめんね。誠志郎君より、お姉ちゃんはすごく頼りになるんだ」


 森はずきを見つめる横顔は、とてもしっかりして見える。言葉が嬉しくて、じんわり、目に水が溢れてしまったとき。


「やめてよ。実際何もなかったとしても、そんなこと言ってると周りに誤解されるんだよ。さっき言ったよね、また、私に迷惑かける気なの」


「はずきちゃんには、もう迷惑かけないよ」


 「じゃあ」と、森はずきは僕をじろりと見て言った。


「あの子供を、この家に入れないって。もう会わないって約束してよ」


「はずきちゃん、夏休みの間、この家に居る約束をしてるの」


 ずっとじゃないんだと彼女の言葉に思うと、森はずきが僕をにらむ。


「あんた、高校生でしょ。親はここで暮らしてること知ってるの?」


 親と担任は、金剛寺の家に居ると思っている。そう言えずにいると、森はずきは彼女に向いて言った。


「どこが、私に迷惑かけてないの! お姉ちゃんの嘘つき!」


 横顔でも分かる、つり上がっている目。森はずきににらまれ怒鳴られ、彼女は言った。


「うん、ごめんね。お姉ちゃんは嘘つきだね」


 ぱあんっと乾いた音がし、僕は思わず目を閉じてしまった。


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