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stars  作者: 二皿くも
40/62

第五話 シリウス 5

 答えは出ず、「ごめん」と謝って食卓に着く。


「すぐに謝ったほうがいいって教えてもらったから、謝ってきた。あ、モノはあげれてない」


「まじかよ。今日、予備校休みだろ。なのに、会える関係なのかよ」


 お茶のグラスを前に置いてくれ、井口が僕の言葉を待っている。


「好きなところには一緒に行った。そのことは、彼氏ぽいひとには秘密だって、ふたりだけで覚えておきたいって言われた」


 「ふあーっ!」と声を上げ、井口が両手で顔を隠す。


「なんなんそれ! お前、そんなんじゃん! もう、大人の階段上ってるじゃん!」


 興奮してる井口に、「そうかな」と返すと、隠していた赤い顔で「そうだよ!」と言う。


「ふたりだけの秘密とか、うらやましいわ!」


 「そうかな」ともう一度返すと、興奮していた井口が落ち着いていく。


「なんなんだよ、なんか、やっぱり訳ありなのか」


「十歳年上で、いつも笑ってる」


「ほう、二十六歳ってことは女子大生じゃないのか」


「笑ってるけど、本当は笑ってない。でも、僕の心配は本当にしてくれる」


 「どういうこと」と井口が首を傾げて、僕はどこかから溢れる言葉を吐いた。


「どういうことか、僕も分かってないけど。僕は、好きで、一緒に居たいと思うんだ」


「……うわー、……本当に、テルは先に行っちゃったんだなあ」


 井口が真面目な顔で言い、続ける。


「テルは、本当に、あのひとが好きなんだな」


 「うん」と、照れることなく返す。


「あのひとはさ、テルのこと好きなんか」


「いちごちゃんぐらいには、好きだと思うけど」


「何で、いちごちゃん」


「あのひとと、井口は会ったことあるよ」


 「おばけ屋敷で」と続けると、井口が固まる。


「まじか。えー、まあ、確かに、黒くて長い髪の毛で、えー、歳上で、えー、確かに、友達いなさそう」


 とても動揺している井口に、普通の僕は言った。


「夏休みの前日、僕を助けてくれたのはあのひとで。目が覚めて、好きになった」


 彼女の顔を一目見てから、僕は好きになったと思う。

 現実、テレビ、ネット、今まで見てきたどの女の人より、綺麗だったから。

 

 ……僕は、ずっと、このひとを見ていたいと思ったのだ。


「一緒に住んで、一緒にごはん食べて、そばに居て、知っていって。気持ちが、どんどん大きくなって。本人に言いたくなるぐらい、好きになった」


 僕は、自分の気持ちを言葉にしながら確認していき。


「あのひとに、本当に、笑ってほしい。僕を、ちゃんと、見て欲しいと思ってる」


 願望を言ったあと、恋は、バカになって自分勝手になることだと思った。


「まじかよ、めちゃくちゃ好きじゃんか。テルが、そこまで好きになるぐらいだから、美人なんだろうな。俺、顔見せてもらってないからな」


 「見てえー」と井口が大きく言い、ひょっとしてと、僕はスマホで検索してみる。

 彼女のペンネーム【森いろは】。画像検索の結果、原作漫画とアニメの画像が出てきた。本当だったんだなとスクロールしていくと、それ以外の画像があった。


「おっ、そのアイドルに似てるのか。なんか、テルのタイプとは真逆って感じだな」


 画像をマホの画面いっぱいに広げると、覗き込んできた井口が言った。

 言うとおり、金髪巻き髪で化粧の濃い、彼女と正反対の女の子の写真の下には、


 【アイドル森はずき。人気ネット小説家、森いろはの妹と公言。】


 そう、書かれていて、


【妹は大学を途中で辞めた。アイドルになると言っていた。】


 そう、彼女の過去にあったのを思い出す。


「髪の毛の下はこんな感じなんだな、あ、この子、この間炎上してたわ」


 そう言ったあと、井口は自分のスマホを取り出して、下世話なニュースばかりのネットサイトを見せる。


「違約金を不当に払えって言われてるって、事務所批判の動画配信した直後。ファンと付き合ってたからって、事務所が声明出して、ファンが怒って炎上。ファンに殺害予告されて、今、活動休止中」


 読む前に説明され「詳しいな」と返すと、井口はドヤ顔で言った。


「部活が忙しくて、恋愛出来ないからさ。中二ぐらいから、結構、アイドルには詳しいぜ!」


 僕が色々あったとき、井口がそんなことになっているとは知らなかった。


「この、森はずきって、有名なのか」


「三年前くらいかな、デビューしたての頃は事務所に推されてたからよく見たけど、最近は見てないな」


 「おされてた」とつぶやくと、井口が説明してくれる。


「アイドルってのは、たくさん顔を見てもらう職業なんだよ。事務所に推されてるときは色んなところで顔を見ることになって、推されなくなると」


 「消える」と井口が言い、どきりとする。


「卒業って言葉、俺嫌い、ファンからすれば消えちゃうんだよ!」


 「そもそも」と、井口がアイドルのことを話始めると同時。大きな音とともに部屋が揺れた。


「びっくりしたあ。花火大会の辺りは、多いもんなあ」


 そう、井口が言ったあと、もう一度雷の大きな音が部屋を揺らした。リビングの左は全て窓で、見える外はまだ六時前なのに真っ暗。河川敷と淀川の向こう、JR大阪駅周辺の高いビル群の上、黒い空に閃光が走った。


「こりゃ、今日の夜は荒れそうだな、テル、ベランダのもの入れるの手伝って」


 井口とベランダを片付けたあと、窓の外、河川敷が見えなくなるぐらい雨が降り出して。

 彼女から電話があったのは、日が変わる頃だった。

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