第一話 アルタイル 4
お腹が大きく返事をし、熱い顔で言われたことを復唱して、イケメンに連れられ部屋を出た。
寝ていた部屋より少し小さく、開けっぱなしの扉の向こうに台所が見える。
先ほどの部屋と同じ、白い壁と天井に青い畳。明るい空間。畳の上には丸く低いちゃぶ台があり、並べられたお皿達にまた大きくお腹が鳴ってしまった。
「口に合わないかもだけど、たくさん食べてね」
僕をちゃぶ台の前に座らせ、イケメンは右の障子の前に座り。「いただきます」と両手を合わせ食べ始めた。
「どうぞ、食べてね」と正面に座り言ってくれた、なでしこさん。
長い髪の毛を後ろでひとつにしているが、真っ黒のサングラスとマスクで表情は分からない。
なでしこさんとイケメン。今の僕の状況。訳が分からないが、僕は我慢が出来ず「いただきます」と言い、目の前に置かれた箸とお茶碗を両手にする。
ほかほかと湯気を立てる、白い光に照らされた白いご飯。一口食べ、ご飯ってこんなにおいしかったかと驚き、確かめる様にどんどん口に運んでいく。
「おかずも食べてね。嫌いなものがあったら、食べなくていいからね」
「おい、そうやって最初に甘やかすと、どんどんわがままになっていくだけだぞ」
「えー、でも、ルミ子さんも、言ってくれたもん」
「だから、なでしこは、わがままなんだろうが」
「ひどーい」と自分は食べていないなでしこさんが言い。イケメンは眉間にシワを深く寄せて、味噌汁をすすった。
「せいちゃんはねえ、弁護士のくせに口が本当に悪いんだよ」
そう明るく言ったあと、僕の空になったお茶腕を受け取り。台所に行って、戻ってきたなでしこさんは、大盛りのおかわりを渡してくれた。
「弁護士だからだろ、口が立たないと仕事にならないからな」
「えー、衣笠さんは、口悪くないよ」
「所長は、なでしこには甘いんだ。界隈では、マムシの衣笠って恐れられてんだぞ」
「えー」と言いながら、イケメンから茶碗を受け取り。なでしこさんは僕にしてくれたように、大盛にしたものを渡す。
「あ、ゴーヤは篠原のおじいちゃんから、きゅうりは吉田のおばあちゃんからもらったの。あ、輝君って呼んでいいかな。ゴーヤ、せいちゃん苦手だったんだけど、それなら食べられるんだけど」
「良かったら」と、ゴーヤチャンプルーだろう皿を手で指され。僕も苦手だけれど、少し口にする。驚き、確かめる為に何度も口にする。
「おいしい」ともらすと、「本当?」と、なでしこさんが身を乗り出してきた。
「……はい、…あんまり苦くなくて」
「ゴーヤの苦み抜きに砂糖を使ってるの、そうしたら苦みが抑えられるから」
なでしこさんの表情は分からないけれど、声は明るく弾んでいるのが分かる。彼女からは温度を感じる。
……目の前に居る。僕を助けてくれたなでしこさんは、おばけなんかじゃない。
「……あの、……助けてもらったのに、……おばけって言ってごめんなさい」
僕が箸とお茶碗を置いて言うと、なでしこさんは座り直して言った。
「謝らないでいいよ、私、本当に化け物だから」
どういう意味が聞く前に、「ごちそうさま」とイケメンが言った。
「なでしこ、俺は、このガキを預かるのは反対だ。これまで拾ってきた動物たちとは違うんだ。こいつはまだガキだが人間の男で、お前はルミ子さんとは違う」
イケメンはなでしこさんをまっすぐに見て、真面目な声で続ける。
「自分の面倒も見られない、お前には無理だ」
「そうだね、せいちゃんの言うことが正しいよ」
「でも」と、なでしこさんは僕に向いて言った。
「約束したの、おうちに帰れないなら、好きなだけここに居ていいって。ルミ子さんは一度した約束は絶対って言ってた」
そう言ったあと、なでしこさんは「輝君」と呼んだ。なぜか、自分の名前が特別に聞こえ、ドキリと心臓が高鳴った。
「君は、ここに居たいんだよね」
少ししてから、僕はうなずいた。




