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stars  作者: 二皿くも
39/62

第五話 シリウス 4

 出るとすぐ居た、彼女が笑顔で言った。


 僕はほっとし、手はつながず列に並び、プラネタリウムの中へ入った。


 映画館に似た、天井が白いドーム型で椅子が並ぶホール。彼女と並んで座り、席が埋まっていき、注意事項のあとで徐々に暗くなっていった。

 天井に夕暮れの大阪の景色が写され、日が暮れ、星空へ変わっていく。背をもたれると、ほとんど仰向けになり、ぐるりと辺りが見渡せた。


【今、大阪市内でも見頃なのが、夏の大三角です。はくちょう座のデネブ、わし座のアルタイル、こと座のベガ、みっつの星を結んだものになります。ベガとアルタイルは、七夕の伝説における織り姫と彦星です。ふたつの星の真ん中には、天の川が流れています】


 天井の星が説明に合わせて光り、形を見せる。偽物と分かってるけれど、本当に星空を見上げているようだ。


【これから上映するプログラムは、流星群についてのものです。もうすぐ見頃のペルセウス座流星群を、もっと、見たくなって頂ければ幸いです】


 そう説明があったあと、壁に写されたアニメが始まった。

 男の子が流星を観察していると、大人の男性が現れ、男の子を空の旅へ連れていく。流星の正体を、男の子はどんどん上昇しながら探していく。


 ふたりに合わせ、僕の身体も浮く感覚に包まれ、降る流星に包まれる。地球を出て宇宙に着き、僕は右手に冷たさを感じた。


 僕は彼女の手を強く握り返し、流星の正体はどうでも良くなってしまった。


 偽物の宇宙、偽物の星空の下で、彼女の温度が僕と一緒になっていく。


 ……このまま、時間が止まればいい。


 そんなこと起こる訳はなくて、僕は、今の時間をずっと忘れない様にしようと思った。


 ……今、彼女に、必要とされていると感じた時間を。


    *


 プラネタリウムの上映が終わり、お礼を言ったあと。彼女は、必要最低限しか話さなくなった。

 科学館を出てタクシーに乗り、どうしてか聞けず、僕らはうちの前に着いてしまった。


「今日は、付き合ってくれてありがとう。明日の夜には戻って来るんだよね、夕飯、何がいいかな?」


 ぼんやりしていた顔に、笑顔を貼り付けた彼女が言い。僕は、「大丈夫ですか」と聞けず、「何でもいいです」と返した。


「あー、それが一番困るんだよ、ちゃんと言って」


 彼女が正面から近づき、鼻と鼻がくっつくぐらいで止まった。もう少しでキスが出来るだろう距離に、僕は何も感じない。


 ……さっき、プラネタリウムで手をつないでいたときは、あんなに近かったのに。


 今、彼女はとても近くに居るのに、とても遠いと思ったとき。


「輝君、もしかして、熱中症ぶり返しちゃった?」


 笑みを消した、本当に心配してくれているだろう彼女の顔に、胸がとても苦しくなり。

 僕は、両腕に収めてしまいたくなったけれど、我慢した。


「……大丈夫です。……大丈夫ですか」


 僕は顔を下に向け、聞きたいことを全部は聞けなかった。


「私は引きこもりだけど、筋トレ毎日欠かさずしてるから。結構体力あるんだよ。せいちゃん、うるさいからね」


 金剛寺の名前に、ちりっと、こめかみが熱くなり。顔を上げ、彼女に手を伸ばした。

 そっとひとさし指で触れると、想像していたより彼女の頬は柔らかかった。


 「何か、ついてる?」と、なでしこさんに戻っている彼女が言い。胸が強くしめつけられて、泣きそうになり。涙がこぼれないように、狭い喉から小さく声を上げた。


「……明日、戻りますけど。何かあったら、電話してくれますか」


 「番号、言って?」と言われ、僕は彼女から手を離して自分の番号を言った。


「今日のこと、せいちゃんには秘密ね、約束」


 彼女に小指を出されて、僕は小指を絡ませる。


「ふふっ、バレても怒られるだけなんだけど。なんか、ワクワクするね」


 今、彼女から金剛寺のことを聞くと、とてもイライラする。口を開けば、余計なことを言いそうで。なでしこさんの楽しそうな顔を見つめるしか出来ない。


「さっきの星空。輝君とだけ、ふたりだけで覚えておきたい」


 そう、彼女が両目をとても細めて言ったあと。僕は、とても嬉しいのと同時に、胸の苦しさを感じた。


「本物、一緒に見られたら良かったね」


 そう言ったあと、絡めた小指を離して彼女は僕から離れていき。背中を向けて、玄関に入り扉を閉めた。


 いつものように、「いってらっしゃい」の言葉と笑みをくれなかった。

 僕はどうしてだろうと考えながら、井口の家に戻り。


「おかえり、急に出ていったからびっくりするじゃんかよ」


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