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stars  作者: 二皿くも
38/62

第五話 シリウス 3

「今からだと、三時の回に間に合いそうだね」


 ワンピースのポケットから、スマホを取り出し彼女が言う。僕らは並んで列に並び、隣に立つ彼女に聞いた。


「スマホ、持ってたんですね」


「うん、本当は持ちたくないんだけど、せいちゃんがうるさくて」


「……さっき、……金剛寺、良かったんですか」


 つい、余計な事まで聞いてしまうと、彼女がこちらを見上げて言った。


「うん、衣笠さんと一緒に行くみたいだから、大丈夫だと思う。朝、ひとりでお墓参り行ったの、怒られちゃった」


 「ルミ子さんのですか」と、少し考えれば分かることを聞いてしまった。


「うん、黒い服のがいいかなと思ったんだけど、このワンピースよく似合うって言ってくれたから。あとね、面倒でも最低限のお化粧はしなさいって、いつも言われてた」


 えへへっと笑った顔に、胸が痛くなり。そのあとは、おかしなことを言いたくなくて、黙って列に並んでいた。


「時間まで少しあるから、喉渇いたし、一階にあったカフェに行こうか」


 チケット代を出させてもらえなかった僕は、「次は出します」と強く言った。

 一階の出入り口からすぐ、フードコートを思わせる混んだカフェに入り、隅の空いていた二人席に座る。

 彼女はアイスミルクティーを頼み、僕はアイスコーヒーを頼む。


「飲めるの凄いねえ。私、コーヒー苦くて飲めないんだよね、匂いは好きなんだけど」


 また、彼女のことを教えてもらい、僕は覚えた。


「こんな人が居るところ久しぶり、家と近所から出たのも」


 ざわざわ騒がしい辺りを見て、彼女は目を細める。


「私、ここに居るひとたちの、不快なものになってないかな」


 否定をする前に、グラスがそれぞれの前に置かれた。


「はい。なんか、私飲めるひとみたいに思われて。嬉しい」


 逆に置かれたグラスを交換し、僕はコーヒーが飲めない子供に見えたのかと思う。


「輝君、ペルセウス座流星群って知ってる?」


 彼女の「不快」を否定する前に言われ、僕は「知りません」と素直に言った。


「八月十三日の深夜から十四日の朝方に見られる流星群なの。お盆にご実家に帰ったときに見られるよ。あの辺りは山が近くて、民家の灯りに邪魔されないから」


「うちの、二階からは見られないんですか」


 おばけ屋敷を「うち」と言った僕に、彼女は楽しそうなまま続ける。


「比べると少ないかもだけど、見られると思うよ。私は、見られないけど」


 多分、星が好きなんだろう彼女が言い、「どうしてですか」と聞いた。


「生活リズムを崩さない様にしてるの。一年前、しばらくぐちゃぐちゃで。今は通院にお薬と、厳しいせいちゃんのお陰でなんとか保ってる」


 彼女を知れるのは嬉しいけれど、言葉に胸が痛くなった。


「嘘、見栄はっちゃった。高校卒業して一人暮らし始めてから、ずっと、ぐちゃぐちゃだったよ」


 そう言って、彼女はミルクとシロップを入れたアイスティーを飲む。僕は見栄をはり、ブラックコーヒーを我慢して飲んだ。


「ぐちゃぐちゃだと、もっと悲しくなるからダメだって。ルミ子さんに言われてたんだけど」


 ストローから口を離し、彼女は僕の向こうを見て言った。


「ぐちゃぐちゃじゃなくても、一年経っても、痛いままだったよ」


 どう言葉をかけていいか分からず、彼女は「行こうか」と席を立つ。会計をしたあと、僕は彼女の手を握った。


「どうしたの、私、こう見えても大人だから迷子にはならないよ」


 彼女の笑んだ顔に、僕は泣きそうになって、手を繋いだままエスカレーターで降りた。


「ごめん、離してもらっていいかな」


 地下に着くと言われ、「お手洗いだよ」と彼女は離れていった。僕も済まし、手を洗いながら思う。


 ……今日の彼女は、いつもよりよく話し。……いつもより、更に危なっかしく見える。


 思わず手を握ってしまうぐらい。ふらりとどこかに行って、消えてしまいそうに見える。

 ぞっと背中が冷たくなり、慌ててトイレをあとにした。


「そんな急いで出て来なくても。まだ、時間に余裕あるよ」


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