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stars  作者: 二皿くも
37/62

第五話 シリウス 2

 僕は「奪う」と言ったあと、奪う以前の問題だと思った。


「残念だけど、あのひとは、僕のこと嫌いになったかもしれない」


「何でだよ、テル、あのひとに何かしたのか?」


 僕は、「何か」を思い返す。


 ……昨日の夜、彼女の手を握り、告白をしてしまった。


 彼女は涙をこぼし、僕の手を振り払って家に入っていった。


「……泣くほど、嫌だったのかな」


「テル、謝れ! 女の子を泣かしたら、すぐに謝らないとって、小さいときからネエが言ってたぞ!」


 顔色を変えた井口が言い、お姉さんたちの教育が行き届いてるなと思う。


「謝って、それでいいのかな」


「とりあえず謝れ、それからご機嫌を伺えって、ネエ達が言ってた」


「ご機嫌を伺うって、どうやって」


「甘いモノとか欲しいモノあげるとか、行きたいところに連れていくとか、言ってた気がする」


 「待ってろ」と、井口は食卓の漫画をめくり、僕は彼女のことを思い返す。


 ……好きな食べ物、嫌いな食べ物、欲しいモノ、行きたいところ。


 僕は、彼女のことを何も知らないと気づいた。


「あ、これだ。『勝手な思い込みで色々されても迷惑、ちゃんと聞いてよ!』」


 漫画のセリフを言った井口に、「分かった」と僕は席を立ち、家を出た。


 早足で向かい、雲ひとつない青空の下でも、おばけ屋敷に見える建物に着き。中から人が出てくるのが見えた。

 ジャケットを片手に、電信柱の陰に隠れた僕に気づかず金剛寺は行ってしまった。


 ……仕事じゃなくて、……ふたりで居るために、挨拶にきたのか。


 そんな考えが浮かんでしまい、左右に頭を振る。あいつは、そんな事しない。そう思ったとき、金剛寺は銀色の車で僕の横を通っていった。


 ほっと息を吐き、自分は本当に小さいなと思ったとき。


「輝君、そんなところで何してるの?」


 後ろから聞こえた声に、びくりと全身が震えた。


「あははっ、いきなり声かけられた野良猫みたい」


 振り向く前に、彼女が僕の前に立つ。胸より下をゆるくウェーブした黒髪。両腕がむきだしの、ふんわりした足首まである白いワンピース。ヒールがぺたんこの茶色いサンダル。


 日の下で初めて見る、薄く化粧した彼女の顔は白くてつるりと光り。


 ……昨日は見られた表情が、笑みで見えない。


「どうしたの。私が、みにくくて、気分が悪くなった?」


 ふふっと笑う彼女に、僕は胸がぎゅっと痛くなり、口を開く。


「……あの、昨日は、ごめんなさい」


「昨日、私、何か謝られるようなことされた?」


 首を傾げる彼女に、僕はショックを受けた。

 自分でも驚いた初めての告白。伝わってなかったのか。それとも、知らんふりしたいのか。分からない僕に、彼女が言った。


「じゃあ、私のお願い、聞いてくれるかな?」


   *


 この間、金剛寺に言われ、ひとり病院に行ったときは思わなかったのに。

 彼女とタクシーに乗っていると、運転主の人に僕はどう思われてるのか凄く気になる。

 淀川とJR福島駅を超えて中之島にある大阪市立科学館に着き。彼女がさっと料金を支払って出て、格好悪いなと思いながら外に出る。


「輝君、来たことある? 私、初めてなんだよね」


 楕円形で四階建ての大きな建物を見上げ、まぶしそうに目を細める彼女が言った。


「大阪に住んでると、遠足で来ますから」


「そっか。私の実家は、輝君のお家と近くて、もうないけど宝塚の動物園だったなあ」


 外の日の下、彼女が自分のことを話してくれる。なぜか、僕は泣きそうになって、口を開いた。


「どうして、今日は、ここに来たんですか」


「回覧板に、今やってるプログラムが書いてあったの。我慢出来なくて。プラネタリウム、好きなの」


 好きなものは、プラネタリウムと覚え。僕は遠足で何度か来ていて良かったと思い、彼女と化学館の中に入った。


「夏休みだねえ。あ、地下でチケット売ってるみたいだね」


 彼女が感心の声を上げた通り、館内は家族連れでごった返していた。

 科学館の中、プラネタリウムは地下の一階で、一階から四階までが展示場になっている。エスカレーターで地下に降りると、チケットの列が長く続いていた。

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