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stars  作者: 二皿くも
34/62

第四話 ポラリス 9

 「分かった」と、見学を忘れていたことは言わなかった。


『今、帰りか。戻ったら、あいつ引きこもってると思うから、構わずに家出ろよ。花火、楽しんでこい』


 今日は淀川の花火大会。予備校近くの十三の駅前は、一年に一度のすごい人混みだ。

 まだ夕方だが、盛り上がっている浴衣姿の女子の集団がそばを過ぎて、「具合、悪いのか」と返した。


『今日、幼なじみから誘われてるんだろ。気にせず行ってこい』


 「大丈夫なのか」と返すと、金剛寺は早口で言った。


『幼なじみのところに泊まってもいいし、俺の部屋でもいいし、今日は帰るな。俺が明日の夜には戻るから、月曜の朝に戻ればいい。輝は、気にせずに、花火を楽しめ』 


 「無理だから」と返すと、大きく息を吐いたあとで金剛寺が言った。


『明日は、ルミ子さんのいなくなった日なんだ。だから、一人にしてやってくれ』


 止まると、肩が誰かにぶつかり、「気をつけろ」と言われた。


『あいつは、ルミ子さんの言う通り、普段は思い出さないようにしてる。でも、今日は無理だろ』


「……分かってるのに、……何で、高知なんか行くんだよ!」


 大きい声を上げると、辺りから不審な目を向けられる。


『所長の顧客の生死がかかってるからだ。会社が傾いて、金持ち出して消えて、新地で無茶な遊びして、高知に行ったのが分かった。新地のホステスから、遺書が送られてきたの聞いて、今から連れ戻しに行くんだ』


 『じゃなきゃ』と言い、金剛寺は少し黙ってから続けた。


『大丈夫だ、まだちゃんと笑えない、幸せになってないから消えない』


 【幸せになるまではダメって、ルミ子さんとの最後の約束は守ります】


 そう言っていた、笑んだなでしこさんを思い返して、ぎゅっと痛くなった胸をつかんだ。


『輝、あいつが捕まるのが嫌なら、ほおっておいてやれ』


 僕のせいで彼女に起こるかもしれないことを思い出すと、金剛寺が声色を変えて続けた。


『ごめんな、お前を巻き込んで。あいつだけじゃなくて、俺も迷惑をかけてるな』


「……そんなこと言うな、寂しいだろ」


 思ったそのまま言ってしまい、かあっと顔が熱くなる。


『今日は、幼なじみのところに泊まらせてもらえよ。お土産、甘いのと辛いのどっちがいい、幼なじみのところにも買って帰るからな』


 いきなり、夜勤に行く母さんみたいになった金剛寺に、僕は笑った。


『何だよ、からかったのか』


「からかってない。迷惑かけてよ。金剛寺さ、ひとに気を使いすぎじゃないか」


『目上の人間にその言い方はなんだ。それに、お前に言われたくないしな』


「僕は、わがままばっかりだろ」


『本当にわがままなヤツはな、自覚がないんだ。自分のことかわいいって言う女子、かわいいと思うのか』


「僕は、そういう、女子から嫌われる女子のが好きだよ」


『まじか、お前とは趣味が合わないな。もうそろそろ飛行機の時間だ、じゃあ、日曜の晩にな』


 金剛寺が通話を切ってすぐ、井口から着信があり、のんびりした声が聞こえてきた。


『テル、今どこだ? そうめん茹でるから、うち来るの何時になるか教えて』


 きゃあきゃあと弟達の声が後ろで聞こえ、「今、何時だ」と聞く。


『五時前だ、花火、七時半からだから急げよ』


「急がなくても、予備校の帰りだから」


『そっか。あ、いちごちゃんと、あの恥ずかしがり屋の女の人、うちに連れてきてもいいぞ』


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