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stars  作者: 二皿くも
32/62

第四話 ポラリス 7


  *


 冷房がよく効いた部屋に戻り、カーテンを開くと夕暮れの赤い光が部屋の中を満たした。


 いちごちゃんは置いていけと言われた。アパートを出てから、僕は、初めてひとりだ。そう思うととても寒くなり、エアコンを切った。


 窓を開くと、みーんみーんと、七時前なのにセミの鳴き声が聞こえる。風はなく、身体はすぐ熱くなり、僕はリビングから隣の部屋へ入った。


 十畳ほどのリビングの半分の広さ。左の壁にベッド、右の壁にPCの乗った机と本棚。ベッドの足下の壁は全面がクローゼット。リビングと同じ様にきれいで、少しだけ生活感を感じる。


 ベッドの横のカーテンを開き、窓を開く。やはり、風は入ってこなかった。セミの声とどこからか香る夕飯の匂い。夏の盛りの香り、草みたいな匂いを大きく吸い込み大きく吐いた。


 PCだけ置かれた机に持たされたお茶のペットボトルを置き、椅子に座る。電源を入れ、教えてもらったパスワードを打ち、金剛寺に渡されたUSBメモリをポートにさす。


 メモリの中にひとつあった、“iroka”のwordファイルを開くと、横書きで2ページぎっしり文字が並ぶ。


 僕は、ごくごくとペットボトルのままお茶を飲み、読み始めた。


    ***


【私の名前は森山彩映。もりやまいろは。二十五歳。

 今は住所と職業はない。前は、小説を書いてお金をもらってた。

 ペンネームは森いろは。軽く読めるファンタジーを主に書いてた。高校のときに文芸部で、みんなで小説をネットに公開した。出版社の人から連絡があって、本にしませんかと言われて一度断ったけれど、高校卒業後の職がないから頼んだ。

 それから七年、小説を書いてお金を稼いでた。読者さんが読みたいもの、編集さんが言うまま小説を書いた。売れる要素を詰め込んだだけ、薄っぺらい、原作漫画とアニメのお陰で売れた作家。他の作家さんや編集さんが言ってると、誰かがいつも教えてくれる通りの小説を書いていた。

お金が稼げるなら、自分ひとりの面倒が見られるなら、それで良かった。小説を書く仕事は、私にとても合ってると思った。

 編集さんとのやりとり以外、誰とも関わらなくて済む。物心ついた時から、私はひとをおかしくさせていたから。

 何でも出来て、何でも持っていて、偉そうに周りを見下している。そういう態度を、私がしているらしいから。

仕方ないと思った。私は思ってないけれど、ひとは私じゃないから、否定も肯定も出来ない。

 女の子は仲間に入れてはくれない、男の子は優しかった。男の子は、大人の男の人になるから嫌い。

大人の男の人は大嫌い。妹が怒るから。奪われるのに怒らない私に、怒るから。私を誘拐しようとしたから。

誘拐は、妹のお陰でされなかった。誘拐は小学五年生のときの話。中学三年生の時、それが原因で妹が引きこもった。

 部でのいじめが原因とお母さんから聞いて、妹が所属する吹奏楽部に行った。

 妹さんの妄想ですって言われたから、部長の首をしめた。まわりにいた子が話した。私が告白を断った男子を、部長が好きだった。

 腹いせに、私の恥ずかしい写真を妹に撮らせてきて、ネットで拡散しようとした。妹は断り、部長は私を調べて、誘拐はされてないが妹と私は奪われているとデマを流して、妹をいじめた。

 そこまで聞いて、先生達に押さえられるまでの記憶がない。私は、妹を傷つけた奴らを傷つけただけなのに、警察で取り調べを受けた。

 施設には入れられなかったけれど、中高一貫校に転校して、寮に入ることになった。

妹は別の学校で、良かったと思った。妹が大好きだから、私とは離れたほうがいい。それから家には戻らなかった。

 大学の推薦が決まって、妹が会いに来てくれてすごく嬉しかった。

 妹は、お父さんの不動産業が上手くいってないことを教えてくれた。妹は、今通う一環校の大学に行きたいと言った。お姉ちゃんに学歴はいらないでしょと言われて、大学に行くのを辞めた。小説を書いてお金を稼いだ。妹の言う通りだった。

 私の書く内容が恥ずかしいから、家には寄らないでと言われた。忙しさもあって、言う通りにしていた。

妹は、たまに遊びに来てくれた。お父さんの仕事は芳しくなくて、出来る限りのお金を渡した。趣味はなく、友達もなく、仕事だけの私には絶対なりたくないと言われた。正反対に生きてと言ったら怒られた。

 妹は大学を途中で辞めた。アイドルになると言っていた。自分は家を出るが、帰ってこないでと言われた。言う通りにした。

 今年の一月、久しぶりに連絡があった。お母さんが、末期の脳のガンで入院していると教えてくれた。

 病院に向かうと、お母さんは私のことが分からなくなっていた。延命治療をするか、緩和ケアをするか選ぶことになった。   

 妹とは連絡が取れなかった。お父さんと緩和ケアを選んだ。

仕事を全て止めて、家を引き払った。近くのマンスリーマンションを借りて、病院に通った。

 お母さんは、三月に入ってすぐに亡くなった。息を引き取ってすぐ、妹が病室に入ってきた。

 どうして延命にしなかったのか聞かれて、その選択肢はなかったって答えた。

 妹は、怒って、泣きながら言った。

 お姉ちゃんは、人間の感情が分からない、周りの人間を不幸にする化け物だ。早く、消えろ。

 妹が気づかせてくれた。病室を出て、どうやって消えようか考えるうち、ここに着いた。

 ルミ子さんは私のことを分かってしまう。消えようとすると分かってしまう。

 なんで、ルミ子さんが消えなくちゃいけないの。

なんで、私じゃないの。ずっと、他人を不幸にしてきた罰なの。

 罰なら、私をすぐに消せばいい。私のぶんまで、ルミ子さんを生かせばいい。

 神様ってバカなの。バカだ。

 何で、ルミ子さんのそばに化け物を近づけたの。

 バカか。お前が死ね。私が消えるから、ルミ子さんを生かしてよ。

 無理なら、ルミ子さんより先に消えたい。

 ルミ子さんがいなくなった家や店なんていらない。

 あなたにあげるから、あなたも、私も大嫌いな私を今すぐ消して。

 もう、私は、消える。消える。消える。消える。】


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