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stars  作者: 二皿くも
31/62

第四話 ポラリス 6

「もう関わることはないと思っていたのに、数日後、ルミ子さんに助けられた。顧客の十三の病院を出て駅に向かう途中、俺は倒れた。侵襲性髄膜炎菌感染症(しんしゅうせいずいまくえんきんかんせんしょう)、聞いたことないだろう、俺も病院で意識を取り戻してから知った。発症してほっとけば、二日ほどで命に関わる状態になるらしい。けいれんを起こし、意識障害を起こしたとき、俺は正午前の住宅街の路地に居た。昼飯どきで人はいない、自力で救急車を呼べない、ルミ子さんが通りかかった。救急車を呼んでもらったから大丈夫、助かる。そう、ずっと話しかけてこられた。正直、うるさいし、若い美人に見つけられたかったと思った」


 「お前、本当に」と言うと、「分かるだろ」と言われ、うなずいた。


「入院は一週間ほどだったが、俺は解雇された。俺の病気は空気感染するもので、その日のクライアントは病院の医院長で、院内で打ち合わせをしていた。俺は無意識のバイオテロリストだった。病院から大クレームを受けて、土下座して、家の人間にもした。親と親族から、前代未聞の不祥事だと犯罪者のように言われ、しばらく家に居るよう言われた」


「お前の家、おかしいよ。病気になりたくてなった訳じゃないのに」


 看護師の母さんの口癖だった。病気になりたくてなった人なんかいない、だから、病気になった人には、いつもより優しくしてあげないといけない。


 僕もそう思う。だから、金剛寺の家族はおかしいと思うし。すごくムカつく。


「お前、ルミ子さんと同じこと言うのな」


 当事者の金剛寺は、なぜか、笑みを浮かべて続けた。


「退院して、言う通り家に居たら、ルミ子さんが訪ねてきた。会わせようとしない家の人間に、玄関で、さっきのお前と同じようなことでっかい声で言ってた。家の人間が警察呼ぶって言い始めたから、俺はルミ子さん連れて出た。元気そうで良かったって言われて、やっぱり、若い美人なら良かったと思った」


「金剛寺って、意外と、普通なんだな」


「俺は、普通で、弱い凡人だ」


 ふっと笑う顔に、そんなことないと思う。


 金剛寺は、子供の僕なんかに、自分の格好悪いところ弱いところを話して見せてくれる。


 ……それは、強いからだと思う。


 僕みたいな、本当に普通で弱い凡人は、金剛寺みたいに自分のことを話せず見せられない。


「弱いから、ルリ子さんにそそのかされるまま家出て、所長のところで働くことになった」


 僕が否定を返す間もなく、金剛寺は続ける。


「ルミ子さんに頼まれたリフォーム業者を見つけて、話を聞いた。実家の為の理由を聞いて、ルミ子さんは更に金を渡した。何年かかっても返すと、リフォーム業者は直接謝り、ルミ子さんは断ったが内装だけでもとリフォームをした。所長にこき使われて、ルミ子さんのとこで飯を食べさせてもらって、今まで、自分は狭い世界に居たんだなと分かった。嫌悪していたくせに、そこに居ることに優越感と執着をしていたことも。一年経って、自分がどんな弁護士になりたいか分かってきた頃、ルミ子さんはあいつを拾ってきた。一目で、生理的に無理な人間だと思った」


 金剛寺は、腕時計を見て「あと十分か」と言ったあと、続けた。


「俺は、努力してやっと褒められるが、あいつは違う。学生時代から、そういうヤツは学年にひとりは居て、俺は憎くて仕方なかった。だから、一目見て分かった。何を言われても気にせず、何にも影響されず何でもこなせる、俺がなりたかった化け物だって」


『私、お母さんが死んだときに、妹から言われたの。お姉ちゃんは、人間の感情が分からない、周りの人間を不幸にする化け物だって』


 彼女が言っていたのと同じ「化け物」という言葉だけど、金剛寺からはネガティブな感じを受けないと思った。


「あいつは口が聞けなくて、家事能力がなくて、間抜けなことばかりしていたけれど、俺は敵視していた。追い出したほうがいいと何度も説得したのに、ルリ子さんがあいつに家と店を譲ると聞いて、腹が立った。恥ずかしい話だが、あいつを嫌悪していたのは、ルミ子さんがとても肩入れしていたからもあった。本意ではないが、相続の件をあいつに話して、ここに来るまでの事情を聞いた。その時、PCに、あいつひと言だけ打ち込んだんだ」


 「分かるか?」と聞かれ、首を左右に振る。


「消える。って、どういう意味だって聞いたら、包丁で自分の首を切ろうとした」


 「てか、少し切った」と続き、僕は、やはり分かるわけないと思った。


「あいつは、俺の嫌いな気配は見せてたが、そういうのは一切見せてなかったんだ。ルミ子さんの余命を聞いて、すごく動揺していたことも。あいつの首のケガが治って、凶器を全部隠して、話をもう一度した。あいつは、PCに今までの自分と本心をぶちまけて、最後、消えると打った」


 金剛寺は、パンツのポケットから取り出したUSBメモリを僕に渡す。


「今日は、もう帰って俺の部屋に泊れ。読みたければ読んでいいが、楽しいことはひとつも書いてない。あいつに幻滅するだけだろう」


 寝室のPCのパスワードを教えてくれ、金剛寺が言った。


「休憩しながら読めよ。いい子のお前には、かなりキツいと思う」

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