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stars  作者: 二皿くも
3/62

第一話 アルタイル 3

 そう言ったあと、おばけの髪の毛の真ん中が少し割れ、左右に上がった口が見えた。


 僕は、何も返せず、蛇ににらまれた蛙という言葉が頭に浮かんだ。


「じゃあ、ご飯用意するから、待っててね」


 おばけは明るい声で言って、足下の横開きの扉の外へ出て行った。


 僕は、部屋にひとり残され、どうしようと思う。とりあえず、ここどこだ。寝かされている、見知らぬ部屋の景色を見回す。


 白い天井と壁と扉にはシミひとつなく、寝ている布団が敷かれた青い畳からは草の匂いがする。右の壁には押し入の扉があり、左の障子とすりガラスの扉越しに白い光が差し込んでいる。


 おかしい。井口と何作か見た映画の中、おばけはこんな所に住んでなかった。こんな明るい所に。


 僕が寝かされている、少し濡らしてしまった敷き布団は柔らかく。掛けられている布団は軽い。  

 久しぶり。ちゃんと干して、シーツを洗っているだろう布団。母さんと居たとき以来だ。


 日当たりが悪く、布団を干すベランダがない。狭くてジメジメした昨日まで住んでいたアパート。


 何で、生きている僕より、おばけがいいところに住んでいるんだと思ったとき。


「おい、ガキ、目が覚めたのか」


 足下の扉が開いて、見えた姿に驚く。スーツ姿で背が高く足が長い男性。

 母さんがテレビを見て騒ぐ、塩顔イケメンが目の前に居る。


 先ほどのおばけとイケメン、ふたりともテレビの住人だ。やはり、これは夢だろう。


「おい、目え閉じんな。今は、夢じゃねえぞ。菅原輝」


 イケメンは僕の学校名とクラス出席番号を言い。

 寝たままの僕のそばに近づき、見下ろして続けた。


「ここは、お前みたいな恵まれたガキが居る場所じゃない。朝メシ食べたら帰れ」


 切れ長の目ににらまれながら言われ、かあっと、身体のどこかから熱が上がる。


「……何も知らないくせに、……馬鹿野郎」


 大家のおじいさんには言えなかったセリフを言ってしまい、


「体調管理も出来ず、助けてくれた人間をおばけ呼ばわりする、お前こそ馬鹿野郎だ」


 そう言ったあと、イケメンは僕の片腕をつかんで布団の上に立たせ、僕をにらみながら続けた。


「何も知らないのはお前のほうだ、ガキ。今すぐ家に帰れ」


 「離せ」と小さい声しか出せず、つかまれている腕を払おうとしたが無理だった。


「まだ、体調悪いんだろう。家まで送ってやるから、その代わり、今すぐ言え」


 僕は、「何を」と熱い息で返す。


「なでしこは、僕を誘拐なんかしていません、僕が熱中症で倒れたのを助けてくれたいい人です」


 「なでしこ」と、おばけの名前だろうをつぶやくと、


「おい、ガキ、年上にはさんをつけろ」


 ぎろりと、長身のイケメンに上からにらまれ、「なでしこさん」と言ったとき。


「ふたりとも、朝ご飯出来たよ」


 扉のほうから、おばけ、なでしこさんの声が聞こえ、イケメンが俺の前に立ちはだかった。


「なでしこ、初対面の人間には、前髪下ろすかサングラスとマスクだろ」


「えー、でも、これから当分一緒に住むんだから」


「勝手に決めるな、ルミ子さんから、俺と決めろって言われてるだろう」


「えー、でも、ルミ子さんなら、絶対一緒に住むよ」


「審議はあとだ、とりあえず朝飯を食べさせろ、言う通りにしねえと望遠鏡貸さねえぞ」


 「えー」と言ったなでしこさんの気配が遠ざかっていき、イケメンが僕の顔を覗き込んで言った。


「おら、早く言え。言わないと朝飯食べさせねえぞ」

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