第四話 ポラリス 4
金剛寺が言い、うるさいと言いかける。でも、普通のナンをちぎって食べてやる。肉まんの皮みたい、少し甘くてもちもちしておいしい。
うるさいから、カレーを少しつけて食べてやる。チキンと同じ、辛すぎなくてスパイスのおいしさ、濃くて甘みが強いカレー。ナンを飲み込んだあと、スプーンで食べる。ごろっと入ったチキンがカレーと合わさって、最強だ。
「カレー、俺のもやるから好きなだけ食べろ、うまいだろ」
イラつきはどこかにいき、僕は「うまい」と返しもらったカレーにナンをつけて食べていく。
「チーズナンはハチミツかけて食べてみろ。カレー屋、この店から、事務所からも近いから、昼にまた連れて行ってやるよ」
カレーと普通のナンを平らげサラダを食べていると、勝手に僕のぶんにもハチミツをかけられる。
「……事務所って、衣笠さんのところだよな」
「そうだ、ほら、もっと水分取れ。熱中症は、一度かかるとなりやすくなるんだからな」
そう言い、僕のグラスにペットボトルからお茶を注いでくれ。本当に、うるさい父親みたいだと思う。
「衣笠さん、見学いつでもいいって言ってくれてるぞ。予備校の休みいつだ」
「……行くなんて、言ってない」
「優秀な弁護士を嘘つきにする気か。お前の担任に、俺は嘘をつきたくない」
僕は返すことが出来ず、サラダの器とプラスチックのフォークを置いた。携帯を取り出し、今日が七月二十八日日曜日なのを確認したあと。
こうして、想像もしなかった生活になって、四日しか経っていないのかと思った。
「……日曜日だけど、事務所も休みだろ」
「今日、日曜日だが。俺の格好見て分からないか」
白いシャツとぴったりしたネイビーのパンツ姿。明らかに仕事の服装をしている金剛寺に突っ込まれ、僕は下を向き、サラダを食べ終えグラスを空ける。
「うちは変則で週休二日制、土日は開いてる。まあ、丸一日の休みなんて、盆と正月しか取れないがな」
グラスにおかわりを注いでくれ、金剛寺は遠い目をする。
「……やっぱり、ブラックじゃねえか」
「弁護士事務所で、ブラックじゃないところなんてないと思うぞ。これでも、大手にいた時よりはマシだ」
「……なんか、進路考え直そうかな」
「現状、弁護士が余っていて、数年前に比べ年収は激減してるのに、クライアントはどんどん細やかさを求めてきている世界だ。稼げそうとか、格好いいからとか、そういう理由でなら一般企業に勤めたほうがいい」
きっぱり言ったあと、金剛寺は僕に聞いた。
「弁護士の進路を希望する理由を、簡潔に答えろ」
ごまかしはきかないだろう、僕はグラスを空けてから答えた。
「……母子家庭で育っても、ちゃんとした大人になれるんだって。……見せたかったから」
「見せたかったのは、母親にか、世間にか」
「両方」と熱い顔で言うと、「立派だな」と意外な答えが返ってきた。
「俺は、代々そういう家系だからだ。弁護士になるのが当たり前で、輝みたいに、自分で考えてなった訳じゃない。まあ、大手を勝手に辞めて所長のところの入ったことで、実家とは絶縁状態だがな」
「……勝手にって、……もう、大人なんだから」
「うちの家は、日本は資本主義で皆平等ってのが分かってない馬鹿の集まりなんだ。自分達は特別な存在で、ふさわしい学歴や職歴でないといけない。そうじゃなくなると、簡単に切り捨てる」
固まっている僕に、金剛寺は冷めるぞとチーズナンをすすめる。
「中学のとき、家族ぐるみで仲が良かった幼なじみがいた。そいつの父親が贈賄容疑で捕まって、俺は、父親に言われるまま幼なじみを切り捨てた」
金剛寺の話に、井口の平和な笑みが浮かんだ。
「……なんで、幼なじみだったのに」
「ダジャレか」と言ったあと、金剛寺はグラスを空にして続ける。
「そいつに、俺は、もう学校で話しかけてくるなって言った。そうしたら、そいつ、何て言ったと思う」
「……お前、最低だな」
「俺も、そう言ってくるかと思ったよ」




