表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
stars  作者: 二皿くも
28/62

第四話 ポラリス 3

 学校がある通りから道路を渡り、低い住宅街をゆっくり歩く。今日は曇り空でそこまで暑くない。それでも、言われたとおりにする。


 途中のコンビニに寄り、朝食と昼食とともに買ったスポーツ飲料を飲みながら、おばけ屋敷の前に着いた。


『おばけ屋敷に閉じ込もってた、病んでるお姫様。若い男の子を助けて、家で面倒をみると言い出した』


 外はボロボロで中は綺麗な家は、道の真ん中にひっそりと建つ。


 ……真ん中にあるのに、どうして目立たないんだろう。


 灰色の空の下、ベンチが前にある建物。見つめていると、分かった。


 ……ひとが住んでいる気配がないからだ。


 同じくらい古そうな家は辺りにもあるが、洗濯物が干されていたり、緑や自転車が置かれて生活しているのが分かる。


 僕も、彼女も思ったおばけ屋敷は、何の音も聞こえず匂いも漂ってこない。


 大丈夫だろうか。少し迷ったけれど通り過ぎることが出来て、この辺りには似合わない背の高い綺麗なマンションに着いた。


 二階の金剛寺の部屋に入り、いちごちゃんの足をふいてから一緒に上がる。

 トイレで散歩中のものを処理し、隣の洗面所で手を洗って、やっぱり冷房がよく効いているリビングに入った。


 今日は、あまりタバコの匂いがしない。ごうごう音を立てるキッチンの換気扇に気づき、僕に気遣ってくれたのだろうと思った。

 いちごちゃんは部屋の隅で伸び、僕はカーテンを開いて窓を開いた。マンションの建物の前は駐車場で、辺りの低い建物が見渡せる。少し先に、おばけ屋敷の透明な天井が見えて。


『あいつが、あの家で幸せになるまで住むって決めたから、俺は、あいつのそばにいることにした』


 昨日の金剛寺の言葉は、とても、重いものだったと気づいた。

 金剛寺と数日しか一緒にいないが、とても、彼女の為に行動してるのが分かる。言葉はキツいが、僕の為にも。


 ……なんだか、ムカつく。


 イケメン弁護士で誰にでも面倒見がよいなんて、完璧だろう。


『さあ、お姫様を外に連れ出すのは、どっちだろうねえ』


 そんなの、金剛寺に決まってるだろうと思ったとき、ガサガサと音が聞こえた。


 テーブルの上に置いたコンビニの袋を漁っていたいちごちゃんを止め、専用のおやつをあげる。袋を手にキッチンに向い冷蔵庫を開ける。弁当を入れ、買ったのを忘れていたものに驚いた。


 いつも食べるのより二倍高くて半分くらいの大きさ、カップのバニラアイス。どうしようと思い、どうしたらと思う。


 ……昨日のことを思えば、もう寝ているかもしれない。……冷蔵庫に入れておくぐらいなら。


『あの子も、なでしこじゃない私は、必要ないと思いますよ』


 彼女の為か自分の為か分からないことを思っていると、冷たい声が耳に再生され。僕は、冷凍庫にアイスをしまった。


 ソファの前に座り、買って来たサンドウィッチを食べて野菜ジュースを飲み。まずくはないけれどおいしくもない朝食を終えて片付けてから。ソファ前のテーブルの隅に積まれた参考書と、その上のメモに今更気づく。


【暇なら勉強するか、寝てろ。なでしこは大丈夫だ。】


 名前はなくても、神経質そうで綺麗な文字は書いた本人とよく似ていると思い。少しも、僕は勝てないと思った。

   

   *


「ちゃんと、時間通り居たな。いちごは連れてこなくて良かったんだぞ」


 四時四十五分ぴったりに来た金剛寺は、一時間前から『だいあんさす』に居た僕に言った。


「……ひとりで居たくないって、扉の前で泣くから」


 扉を閉めると、わんではなく、胸が痛くなる声をいちごちゃんは上げ続けた。


「いちご、お前、輝が甘えられる人間って分かってんな」


 ジャケットを脱ぎ、金剛寺は床に寝そべるいちごちゃんの頭をなでた。


「……トイレと床掃除、グラス洗ったけど。他にすることあるか」


「お前、結構早くから来てたろ。万が一、強盗が入るかもしれないから、鍵くらい掛けとけよ」


 何で分かるんだと聞く前に、金剛寺は出て行く。鍵をかけ、いちごちゃんのそばにしゃがんだ。


「……お前だって、甘えられる人間だろ」


 ぼそり言い、いちごちゃんの頭をなでていると、いいところしかないヤツが戻ってきた。


「いちご、お前のご飯はあとからな。輝、手え洗ってこい、飯にするぞ」


 そう言われて、トイレから戻ると、カウンターにスパイシーな匂いが漂っていた。


「ここのチキンティッカマサラとチーズナンうまいぞ。お前、なんかアレルギーなかったよな」


 「ダジャレかよ」と言うと、金剛寺はカウンターの席に座り隣に座るよう促す。


「昨日もカレーだったんだろ。悪いが、付き合ってもらうぞ」


 そう言ったあと、おしぼりで手を拭いて金剛寺は「いただきます」と食べ始めた。


「あんまり辛くないから、食べてみろ」


 口を押さえながら金剛寺が言い、僕も「いただきます」と手を伸ばし始めた。


 目の前には、大きく伸びた普通のナンと丸くてチーズがはみ出ているナン、プラスチックのケースに入ったオレンジ色のカレーと、サラダが添えられた赤いチキンが並べられている。

 なんだかしゃくなので、赤いチキンを手にしてかじった。タンドリーチキンと名称を思い出す。辛すぎないスパイスの味、香ばしさと鶏肉のうまみ。むしゃむしゃと噛んで飲み込む。


「チキンうまいだろ。そのチキンが、カレーの中にも入ってるぞ。普通のナンから、つけて食べてみろ」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ