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stars  作者: 二皿くも
27/62

第四話 ポラリス 2

 眉間にシワを深く寄せた顔に、これ以上、わがままを言うことは出来なかった。


「大丈夫だ、一日ひとりにしとけば、明日にはなでしこになってる」


「……さっき、なでしこさんのこと、……『いろは』って……」


「聞いてたのかよ。そうだ、なでしこは、本当はなでしこじゃない」


 僕の眉間の間を広げ、金剛寺は「大丈夫だ」と続ける。


「とりあえず、いちごが待ってるから散歩行ってやれ。散歩中にはいちごもだがお前も水分とれよ。コンビニで朝飯と昼飯買って食って、俺の部屋で大人しくしとけ。ちゃんと言うこと聞けたら、店で教えてやる」


 ぴんっと僕の眉間をはじき、金剛寺は背中を向けて行ってしまった。


 いちごちゃんにティシャツの裾を噛まれ追いかけられず。もやもやするが、言うことを聞くしかない。   


 リードをしていないけれど、いちごちゃんは僕の隣をぴたりとついてきてくれる。

 田畑さんに言われていた、十三公園での散歩コース。野球場もあって緑が多いおじいさん達が木陰で将棋をしている大きな公園を、いちごちゃんは慣れた様子で先導してくれた。


 いちごちゃんと公園を出ると、道路を挟んで学校が見えた。寄り道をしてもいいか聞いて、一緒に学校へ向かった。


 まだ八時を過ぎたくらいで、部活の人間がまばらなグラウンド。人の気配がない校舎。

 夏休みなんだなと思い、ペットボトルから水を飲ませたあといちごちゃんに昇降口で待つようお願いする。


「誰かが寄ってきても、寝たふりしててね。飛びかかったりしたらダメだよ」


 僕がそう言ったあとすぐ、わんと吠えて、いちごちゃんは大きい人影に飛びついた。


「わあ! おどかそうとしたのに! 見つかったあ!」


 倒され、いちごちゃんに乗られている、笑顔の井口が嬉しそうに言う。


「テル、はよ。早いけど、どうした。おばけ屋敷から追い出されたか」


 井口はいつもぼーっとしてるのに、たまに勘がいい。


「……出されては、ない。……と、思うけど」


「まじか、うち来れば。いちごちゃんも一緒に」


 いちごちゃんを抱きしめ、「やったな」と頬ずりする井口。幼児向けアニメみたいな光景を前に、先ほどのなでしこさんと金剛寺のことは相談出来ない。


「……ペットダメだろ、あそこ」


「えー、ネエの服着せて、誤魔化せないかな」


 「無理だろ」と返すと、井口が笑顔で言った。


「俺に何か話したくて、学校来たんじゃねえの」


「……散歩のついでに、……そう、教科書と参考書もらおうと思って、来ただけだ」


「テル、ネエが好きな少女漫画の、素直になれないヒロインみてえ」


 「部活行け」と熱い顔を下に向けて言うと、井口がでかい身体を起こした。


「学校にでも、うちにでも、いつでも来いよ」


「……いちごちゃん、さすがに、ひとりでは行かせられない」


 僕の肩を軽く叩き、井口は「またな」と昇降口を出ていった。

 しんと静かになり、いちごちゃんがくうんと鳴き、「待ってて」と靴を履き替えて本当に職員室に向かう。


『ダメだ。今のあいつは、子供のお前にでも見境なく甘えるだろうから』


 しんと静かな中、階段を上がり廊下を進みながら、先ほど言われたことを考える。

 昨日、僕に、彼女は一緒に寝てくれと頼んできた。


 ……金剛寺が言う、見境なくということだろうか。


 彼女にとって、僕はいちごちゃんと同じだろう。でも、僕の両親が訴えれば、罪に問われてしまうかもしれない。


 ……そんな事、思いもつかなかった。


 改めてショックを受けたあと、職員室に入る。担任はいなかったが、預かっているからと教科書と参考書が入った布の袋を渡された。


 右肩にかけた袋の重さを感じながら歩き、ぼんやりと思う。


『私は、誘拐犯になっても構わないって言ったんですよ』


 昇降口まで戻りながら、昨日の朝、彼女が衣笠さんに言っていた意味が分かる。


 ……僕の為でなく、彼女の為に金剛寺は動いていたのだ。


『ずっとお姫様の面倒を見ていた王子様は、焦り、覚悟する』


 昨日、『だいあんさす』で衣笠さんが言ったこと。多分、ルミ子さんがいなくなってから、金剛寺は彼女の面倒をずっと見ていたということだろう。


 ……なでしこさんと、僕の知らない本当の彼女を。


 そう思ったとき、昇降口に着いた。靴を履き変えて、いちごちゃんと校門を出て止まる。


 左に行けばおばけ屋敷と金剛寺のマンションへの道、途中には一年前まで住んでいた井口の住む公団への道、右に行けば電車に乗り西宮の家に戻れる十三駅への道。


 どの道に行くか決まらないでいると、いちごちゃんが先に歩き出した。


「……ひとりでも、帰れるよね」


 声をかけると、僕にふり返りじっと見つめてくる。「ごめんね」と言い、いちごちゃんと並んで歩きはじめた。


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