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stars  作者: 二皿くも
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第四話 ポラリス 1

第四話 ポラリス


    *


 一年ぶりに『だいあんさす』で働いた彼女は、次の日の朝、高熱を出してしまった。


「だから、言ったろうが! まだ、早いって!」


「せいちゃん。大きい声、頭痛くなる」


「熱が出たら大人しく寝とけ! こんな時まで、朝飯作るな!」


 朝起きて一階に降りると、朝ご飯が用意されたちゃぶ台に熱い彼女が突っ伏していた。

 僕は慌てて布団に寝かせ、呼びに行こうとした金剛寺が現れ説教タイムになった。


「せいちゃん。薬飲むから、卵雑炊作って」


 彼女の真っ赤な額に冷却シートを貼り、「ったく」と金剛寺は台所に向かう。


 ……目の前、ふたりのやりとりはテレビドラマのワンシーンみたいだ。


 そう見えるのは、昨晩から変な僕のせいだろうか。


「輝君、安心して、ウィルスの熱じゃないからうつらないよ」


 タオルケットを首まで掛けられた彼女が笑顔で言い。昨日は大人の女の人だったけれど、今は子供みたいだ。


「……あの、アイスかプリン、食べたくないですか。買ってきますよ」


 なでしこさんが両目を大きくし、細めて言う。


「嬉しい、じゃあねえバニラアイス」


 僕は顔を下に向け、「分かりました」と部屋を出て玄関にすぐ向かう。


「おい、コンビニは右に出てまっすぐだぞ。左にもあるが迷うと思うぞ」


 声が聞こえ、振り向かず、「分かった」と残して外に出た。


「……あ、いちごちゃん、ついてきたの」


 へっへっと舌を出すいちごちゃんにしゃがみ、僕は首に抱きつく。


「……なあ、なんで。……あんなに、かわいいの」


 いちごちゃんは当たり前に答えず。財布と、散歩セットを持ってないのに気づく。顔の赤さと緩みが治まってから玄関に入った。


「お前、自分で食べられるだろうが」


「だって。食べさせてもらったほうが、おいしいんだもん」


 聞こえてきた声に、なぜか、静かに靴を脱いで上がる。


「俺が作ったんだ、食べさせなくてもうまいだろうが」


「こういう時って、甘えたくなるんだもん」


 嫌に心臓が高鳴ってる僕は、玄関の正面の階段を早く上がってしまえばいいのに。こっそり、一階の部屋を覗いてしまった。


 ちゃぶ台の前に座る、とても近いふたり。見ていると、僕は、自分の体温が下がるの感じた。


「甘えてるんじゃなくて、どこまで許してくれるか、試してるんだろ」


「そうだよ。私を甘やかさないって決めた、せいちゃんを試してるの」


 あきれた顔をした金剛寺は、器からすくったスプーンを彼女の開いている口に入れる。

 なでしこさんはスプーンを手にし、赤い唇からゆっくり抜いてから言った。


「誠志郎さん。決めたなら、私のことは、ほおっておけばいいいんですよ」


 金剛寺を『せいちゃん』と呼ぶ。彼女は、いつもは甘く高い声でしゃべる。いつもとは違う、大人の女の人の声で言ったなでしこさんに、金剛寺は真面目な顔で言った。


彩映いろはと一緒に居たいから、これからもここに来るよ」


 少しして、スプーンの先を金剛寺に向け、彼女は言った。


「誠志郎さん、私をなでしこ扱いしてくれないなら、すぐに出て行きますよ」


「輝を置いて、出て行くのか」


 少しして、彼女は口の右端だけ上げ、僕が見たことのない笑みを浮かべた。


「子供を置いていく母親みたいに言わないで下さい。あの子も、なでしこじゃない私は、必要ないと思いますよ」


 僕を「あの子」と言う彼女は、昨日とは、また別人のようで。

 いけないものを見てしまったと感じた僕は、静かに二階に上がり、財布をとって一階に降りた。


「いちごを散歩に連れていってやるなら、ちゃんと、処理はていねいにな」


 そっと玄関を出ようとしたのに、後ろを向くと、散歩セットを金剛寺に渡された。


「なでしこ、夕飯はいいから寝とけよ。輝、携帯は持ってるな、行くぞ」


 彼女の返事は聞こえず、金剛寺に連れられて家を出る。


「いちごの散歩が終わったら、なでしこの家には帰らずに俺の家に居ろ。それで、五時の十五分前に店にいろ」


 「朝飯と昼飯はこれで」と五千円札を握らせ、「これがマンションのエントランス、こっちが玄関で、店はこれ」と鍵とカードを渡してくる。


「いいか、絶対に、なでしこの家には戻るな。あいつ、おかしくなってるから」


「……じゃあ、そばに居たほうがいいんじゃ」


「ダメだ。今のあいつは、子供のお前にでも見境なく甘えるだろうから」


「……僕は、それでも……」


「万が一の事が起きたとする。青少年育成保護条例で、本人が合意と証言しても保護者が訴えれば罪になるんだ。あいつの外見と前職で、そういうので捕まれば、格好のマスコミの餌食になる。騒ぎになり、ネットタトゥーになっても、あいつは全く気にしないだろう。でも、俺が嫌だ」

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