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stars  作者: 二皿くも
21/62

第三話 ベガ 8


    *


「じゃあな、いちごちゃん、また来るね!」


 お尻をかじられたあと、井口はいちごちゃんとプロレスを楽しみとても仲良くなった。


「あー! かわいい! またね! おじゃましました!」


 べったりとくっつくいちごちゃんを離して、井口はだらしない顔で出ていった。


「いちごちゃん、井口、また来るって言ってたから」


 くーんと寂しそうな声を上げ、いちごちゃんは部屋の隅で丸くなる。ふうっと息を吐き、僕はちゃぶ台を前にして座ったとき。


「輝君、友達と、一緒に行かなくていいの?」


 隣の部屋の扉が開き、出てきた、前髪で顔を隠してないなでしこさんが言う。


「井口は部活で、僕は、安静にしとかないと強制送還ですから」


 そう返すと、彼女は僕の隣に座った。


「今日、安静にしておいて。明日、出て行くの?」


 「出て行きませんよ」と返すと、「本当に?」と近づいてくる。


「井口が来る前、言いましたよ」


「困ってないって、言っただけだよ」


 思い返す前に、彼女が僕との距離をほとんどなくす。


「お友達、輝君を連れ戻しに来たんじゃないの? 出て行かないの?」 


 顔がとても近い。少し近づけば、彼女の柔らかそうな唇と僕の唇が重なってしまうだろう。邪なことを考えたのに、いちごちゃんは僕のお尻をかじらない。


「……行きません。……ここに、居ます」


 視線をそらして返すと、片腕が柔らかさに包まれた。


「良かった。行かなくて良かったって、思ってる。こんなの、初めてだよ」


 僕の片腕を両手に抱き、彼女は下を向いて続ける。


「まだ、君と居たいって思うの。迷惑かな」


 腕が心臓になったみたいで、本物の心臓も痛いくらい鳴っている。


「……迷惑じゃ、ないです」


 小さく返すと、なでしこさんは顔を上げて言った。


「じゃあ、今から一緒に寝てくれないかな。昨日、あんまり寝られなくて」


 何を言い出すんですかと返せず、全身の熱が上がる。


「いちごちゃん、温かいんだけど。いびきがなかなか豪快で」


 僕は、男として見られてないと分かり、一気に冷めた。


「ダメかな? 今日、『だいあんさす』を開くから、寝ておきたいんだけど」


 上目遣いで言われ、ぐっと口を閉じてから、開いた。


「その、『だいあんさす』って、なんなんですか?」


「ルミ子さんからこの家と一緒にもらった、カラオケスナック。十三バイパスの下にあって、この辺りのお年寄りがお客さんなの」


 なるほど。田畑さんの奥さんが、練習していたのはカラオケだった。


「ルミ子さんがいなくなって、49日が終わってから、みんなに頼まれて月に一度だけせいちゃんが開いてるの。ルミ子さんが居た時は、私も働いてて。今日は一年ぶり」


「ひとりで、大丈夫なんですか?」


「ひとりじゃないよ。開店は五時から九時ね、輝君も一緒に寝ておこうね」


「……えっと、もしかして」


「せいちゃんが、七時くらいから来られるから。四時からの準備と合わせて、二時間がんばれって」


 「ええっ」と大きく言うと、なでしこさんが立ち上がり、腕を持たれたままの僕は立たされる。


「さっきね、お薬飲んだから眠くて。お布団いこう」


 腕を引かれ、隣の部屋に入るととても薄暗く、布団が敷きっぱなしになっている。


「足元、気を付けてね。縁側の遮光カーテン引いたら、この部屋すごく暗くなるの。輝君、いびきかいたら、ごめんね」


 僕を連れて布団のそばに着き。離して。彼女は布団に両膝をつき、こてんと転がったとたん。くの字に身体を曲げ、目を閉じて、すぐにすーっと寝息を立て始めた。


 「まじか」と僕はもらし、どうしたらと思う。

 開けっぱなしの扉の向こう、いちごちゃんは自分の枕に頭をのせ仰向けで気持ちよさそうに寝ている。


 ……こんな時こそ、出番では。


 そう思ったとき、足下の布団から「寒い」と小さく聞こえた。僕は両ひざを着き、彼女の足下にあるタオルケットをかける。

 もぞりとくるまり、見えるのは黒く長い髪の毛だけになる。ほっとし、離れようとしたら、ティシャツのすそを握られてしまった。


 顔は見えないが、寝息は聞こえる。僕は、大きく息を吐いたあと、そばで体育座りをした。


 一昨日、目が覚めたときは明るい空間だった。今、部屋は暗くて、寒いぐらい冷房が効いている。


 僕のティシャツを持つ手からは体温が感じられず、片手を重ねてみた。冷たいつるりとした彼女の手は、少しして温くなり。固く、僕の手を握ってしまった。

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