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stars  作者: 二皿くも
18/62

第三話 ベガ 5

 僕は顔を洗ってきてからちゃぶ台の前に座り、なでしこさんと向かい合い「いただきます」と一緒に言って食べ始めた。


 彼女は、静かに、少しづつ箸を動かす。ゆっくりできれいな動きは、少しも気持ち悪くない。ふたり無言で食べるが、気まずさは感じなかった。

 白いご飯、ワカメと豆腐の味噌汁、言うとおりおいしい炒め物、だし巻き卵、きゅうりとナスの浅漬け。全部おいしくて、おかわりまでしてしまった。


「ごちそうさまでした。輝君と一緒に食べると、ひとりの時よりおいしいよ」


 同じことを思っていたと返す前、玄関の戸が大きく叩かれた。

 いちごちゃんの飼い主の田畑さんが「朝からすまない」と言い、本当にすまなそうな顔で居間に上がり、話を始めた。


「ばあさんが、入院と手術をすることになったんだ。悪いんだが…」


「いちごちゃんのことは任せて、田畑さんは、看病がんばって下さいね」


 「ありがとう」と言ったあと、田畑さんは本当に残念そうに言った。


「明日は『だいあんさす』の日だから。ここのところ練習してた、ばあさん落ち込んでな」


「今月は、そうなんですね。入院は明日からなんですか」


「ああ、手術もな。命に関わるようなもんじゃないんだけど」


「じゃあ、今日、開けちゃいましょうか」


「そんな、うちのばあさんの為に、せいちゃん衣笠のところで忙しいんだろ」


「今日は、私がお店を開けます。ご近所のみなさんに、伝えておいてくれませんか」


 「ええっ」と田畑さんは大きく言い、彼女は「待ってますね」と言った。


 二人の分からない会話のあと、僕はいちごちゃんと一緒に田畑さんの家に向かった。

 大きないちごちゃんのごはんの袋、皿にペットシーツと大きなトイレ。人間用だろうがいちごちゃん愛用の枕を台車に乗せた。


「いちごはトイレを朝夕の散歩中にするが、後片付けは丁寧にな。外から部屋に上がるときは、足を拭いてからにしないと床が汚れるからな」


 田畑さんはいちごちゃんの世話の仕方を細かく教えてくれ、表情を緩めて続ける。


「心配してたが、なでしこちゃん、ルミ子さんの家に来てから一番いい顔してる。坊主、ありがとう。ルミ子さんも喜んでるだろうよ」


 「そんな」と返すと、田畑さんは笑みを消して続けた。


「なでしこちゃんは、周りのせいで、どちらにでもなれる子になってしまった」


 「どちらにでも」とつぶやくと、いちごちゃんが足に顔をすりつけてきた。


「坊主、なでしこちゃんを綺麗な女性だと思うか」


 もう苦手じゃない、いちごちゃんの頭をなでていると言われた。

 僕が小さく「はい」と返すと、田畑さんは「そうか」と言い固い声で続けた。


「なでしこちゃんみたいな人間は、とても目立つ。悪い輩から目を付けられやすい。周りが守ってやらないとダメなんだ。ご両親は危機感が薄かった。だから、妹がなでしこちゃんを誘拐犯から救った。それから、妹に縛られたまま、なでしこちゃんはまっとうに生きられてない」


 田畑さんが肩を強くつかんできて、僕は質問し損ねた。


「あの家に居て、何か起きたら、すぐにこの辺りの大人に助けを求めなさい。どんなささいな事でもいい、坊主からすれば大人だが、私らからすれば、なでしこちゃんは危なっかしい子供だ」


 元警察官と言っていたのが分かる、鋭い視線に捕らわれ。僕は「はい」と小さく返して、いちごちゃんと台車を押して帰った。


 玄関に入ると出迎えはなく、靴を慌てて脱いだ。一階のふたつの部屋、台所、洗面所、トイレ、一階に居ないのを確認して階段を急いで上がっていたとき。聞こえてきた小さな鼻歌に、足を止めた。


 後ろを着いてきていたいちごちゃんも止まっていて、足を拭いてないのに気づき、力の抜けた身体で一階へ降りる。


「おかえり、体調大丈夫? ちゃんと、水分取ってる?」


 二階から降りてきた、洗濯ものを両手にしているなでしこさん。黒い髪の毛をほどいて、明るい笑みを浮かべている。


 僕はほっと息を吐き、なでしこさんは洗濯ものを片付けてから隣に座った。

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