第二話 デネブ 7
僕は、彼女への答えでなく、思ったままを口にした。
僕より十二歳年上の金剛寺。二十八歳の自分なんて、全然想像出来ないけれど。
……金剛寺みたいに。……いい大人になっても、今の自分と同じことを思うんだろうか。
「おい、何だ。その、俺を見るかわいそうな目は」
「その目やめろ」と言ったあと。大きく息を吐き、金剛寺は眉間のシワを深くして言った。
「歳をいくらとっても、思うことや言動は変わらない。うちの所長、もうすぐ還暦で弁護士でいい大人だが、めっちゃ悩むし、失恋したら泣くし、すぐに新しい恋見つけるぞ。極めつけが、歯医者が怖くて、治療中はさすがに我慢してるが終わったら泣く」
「まじか」ともらすと、なでしこさんがよい匂いのする皿をちゃぶ台にとんとんと置いた。
「おじさんとおばさんになっても何も変わらないよ。おじさんのせいちゃんは、ハンバーグが一番好きだもんね」
僕の前に置かれた白く丸い皿の上。キャベツの千切りとくし切りのトマトが添えられた、キノコと薄切りの玉ねぎの茶色いソースが絡まったハンバーグがふたつ。
「ちゃんと目玉焼き半熟にしといたよ。召し上がれ」
「いただきます」と両手を合わせたあと、金剛寺は目玉焼きの乗ったハンバーグを無表情でむしゃむしゃと食べ始める。
「輝君も食べて」と言われ、「いただきます」と言ってから食べ始める。
僕も、ハンバーグから箸をつける。一口に分けて口に入れると、肉汁と甘くて濃いソースがぶわりと広がる。
うまい。市販やお弁当やファミレスもうまいけど、手作りには勝てない気がする。
ひとつを夢中で食べ、もうひとつはご飯と味噌汁とサラダと食べていき、あっという間に平らげてしまった。
「食べるのはや。お前、よっぽど貧しい食生活してたんだな」
「せいちゃんに言われたくないと思うよ。輝君、せいちゃんはルミ子さんと会ったとき、塩と水で暮らしてたんだって」
「おい!」と大きく言った金剛寺に構わず。「おかわりするよね」と、彼女は台所に僕の皿とお茶腕を持って行った。
「あの頃は仕事が忙しくて、食べる暇がなかっただけだ。おら、ポテトサラダも食え」
山盛りのポテトサラダの小皿を渡され、「ありがとう」と自然に出た。金剛寺は切れ長の目を少し開いて、「おう」と垂らした。
「なんか、ヒーロー同士、仲良しになっちゃった?」
戻ってきたなでしこさんに、「なってない」とふたりでハモってしまった。
「ごちそうさま。なでしこ、戸締まりとガスの元栓忘れんなよ」
そう言って、皿を重ねながら金剛寺は大きく息を吐いた。
「今から、綺麗なお姉さんが居るお店に行くのに、楽しくなさそうだねえ」
「楽しいわけあるか! これから、所長の援護射撃を何時間もさせられて、介抱させられて、なだめて、朝まで付き合わされるんだ。明日も、朝から仕事なんだぞ!」
「大人のお付き合いって大変だねえ。はい、まだ、おかわりあるからね」
おかわりのハンバーグとご飯大盛りを前に置いてもらい、あれ、と思う。
「なでしこさんは、食べないんですか?」
「ごめんね。もう少しすれば、気持ち悪くなくなるから」
また、分からない言葉を笑顔で言う。彼女に意味を聞く前に、金剛寺が「なでしこ」と言った。
「ちゃんと九時には寝ろよ。輝、二階にベッド置いてやってるから、ちゃんと天井のカーテン閉めて、冷房つけっぱなしで寝ろよ。この家の消灯九時だから、さっさと寝ろよ」
小学生でも早すぎる時間に突っ込む前、金剛寺は流しに自分の皿を持っていき「行ってくる」と出ていった。
「せいちゃん、いつも慌ただしいの。大人のお付き合いもだけど、弁護士さんてすごく忙しいみたいだよ」




