第二話 デネブ 5
玄関を上がると、なでしこさんは大きな紙袋を渡してくれた。中身は、まだ新品の匂いのする沢山の服たち。
水漏れのため私服は全て死亡。バイトは当分出来ない。買いに行く時間もなく、お金も使いたくない。
正直、服をもらえたことは、とてもありがたい。でも、金剛寺からなので、僕は素直に喜べなかった。
……あいつからしたら、本当にいらないものなんだろう。
そう自分に言い聞かせ、部屋着に出来そうなものを手に、台所の横の風呂場に案内してもらった。
使い方を教えてもらい、外観とは違うきれいなお風呂に入る。昨日までの部屋には風呂がなく、銭湯か、陸上部の井口に頼み学校のシャワーを借りていた。家の浴槽で、気兼ねなく身体を伸ばすのは半年ぶり。
僕は、気持ちよくて、少しのぼせるくらい浸かってしまった。
「はい、ちゃんと水分補給しないと。家の中でも、熱中症ってなるんだよ」
お風呂から上がると、なでしこさんが冷たいスポーツ飲料を渡してくれた。
「……あの、昨日、……態度悪くて、ごめんなさい」
「起きて、おばけが居たら怖いよね」
にこりと笑った彼女が、「飲んで」と言い。ばつの悪い僕は、視線をそらしてゴクゴク喉を鳴らした。
ふたりで台所の隣の部屋に入り、ちゃぶ台を挟んで座ったあと。冷房が効いているのに、扇風機を向けてくれ。僕は、また、泣きそうになった。
「学校どうだった? せいちゃんと、輝君の担任の先生が同級生だったんだよね?」
彼女の言葉に涙が引っ込んで、思い返しながら返した。
「……はい。……それに、うちの高校の卒業生で、……現役の弁護士で。……お陰で、担任と母さんを説得出来ました」
「じゃあ、夏休み中はうちに居てもいいんだね。良かったねえ」
「……はい、金剛寺…さんの、お陰です」
……本当に、ムカつくぐらいそうだった。
学校に着くと金剛寺は僕を下ろして行ってしまい、ひとり職員室の担任を訪ねた。
嘘の説明をするより先。金剛寺はうちの卒業生で、自分と同級生で昔からとても優秀な人間だったと、担任は楽しそうに話し始めた。
一・二年と生徒会に入り、陸上部では短距離の記録保持者。卒業後は関西で一番の大学に進み、司法試験に一発合格。
優秀だが気取ったところはなく、誰にも優しく誰からも好かれていた。そう教えてくれた担任は、彼のところなら大丈夫ですと電話で母さんに熱く説明してくれた。
そのお陰で、予備校のお盆休みに家に帰ることを約束して、本当はなでしこさんの家だが金剛寺の家に住む事を許してもらえた。
「せいちゃん、外面いいからねえ。みーんな騙されちゃうんだよねえ」
なでしこさんの言葉に、うんうんと、首が痛くなるほどうなずいた。
「せいちゃんは、ラスボスだよねえ。ヒーローは、輝君だよ」
「えっ」ともらした僕に、にーっと笑って彼女は続ける。
「ヒーローは、誰でも共感が出来て応援したくなる子じゃないと。何でも出来る意地悪な子の気持ちは、みんな分からないからねえ」
……それは、僕がとても普通で、金剛寺が特別ということですか。
そう質問する前に、「でも」となでしこさんは続ける。
「せいちゃん、ラスボスに見せてるだけなんだよ。本当は、ヒーローだから、すごーく陰で努力してるんだよねえ」
「うるせえよ。俺は、お前みたいに性格が悪くないからな」




