94話 謎は深まるもの
こんにちこんばんは。
短いです。昨日の疲れが出たようで頭があまり回らなかった仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
黒い障壁を壊してもらった結果、瓦礫だらけになったそこを進んだ。ただ、魔力を吸収するという特性を持ち続けるその真っ黒な瓦礫は歩くだけでも苦労するような道だった。何せ、触れた端から魔力を吸収されるのだ。笑い話にもならない。
私の場合、体が触れただけで人形と輪っかに分離しましたからね。あれには驚きました。
苦い記憶を思い出しながら近づいてくる黒い蝶のような何かを光で消し飛ばす。サラサラと砂のように崩れ去る赤い目のそれは悲鳴を上げて消えていった。
「あともう少しですかね?」
「そうだね。ここを抜ければってところかな。」
神様の言葉の通り、もはや真っ黒な森が唐突に途切れる。
そこには何やら巨大な生物が横たわっており、その生物の背中に人影らしきものが見えた。
敵か味方かと考えながらも開けたそこへと足を踏み入れる。途端にピクリと黒い獣が目を覚まし、こちらに向けて吼えた。
「グルルゥ……グァォオオオオオッ!」
そのあまりにもの迫力に驚き、足を止める。一番近くで聞いているはずの人影は微動だにせず、また、獣の背から落ちる様子もない。
どういう事なのかと考えつつもどうにか体を動かす。神様たちは硬直することなくそれぞれに武器を構えていた。そのことに頼もしさを感じると同時に悔しさも覚える。
あれからあまり成長出来ていませんね。私は。
いつかの光景を思い浮かべ、どうしたら怯まなくなるのだろうかと考えたところで獣が襲いかかってくる。
「グァオッ!」
「〈母の加護〉」
瞬時に反応したガイアさんが土の障壁を作り出す。到底土出できているとは思えないガキンッという音がなり、盛り上がった土の壁により獣の爪を阻んだ。
「ガァッ!?」
「後ろががら空きだなっ!」
怯む獣に後ろからアイテールさんが上空から滑空し、強襲をしかける。獣は瞬時に身を翻し、その場から離れた。
「グルルゥ……!」
「あははっ!逃げろ逃げろーっ!」
「ギャンッ!?」
しかし、逃げた先でへメラさんがニンマリと笑って待ち構えている。何発も放たれる銃弾に逃げ惑う獣は、へメラさんから逃げ切れる訳もなく1発直撃したのを皮切りに2発3発と次々と当たっていく。
しかし、耐久力が凄まじいのか、1発だけでも凄まじい威力を発揮するにも関わらずなかなか倒れない。それどころか、攻撃を続けるへメラさんに襲いかかった。
「グルル……ァアアッ!」
「むー!襲いかかってくるなんて生意気!」
「ガッ……!?」
バックステップで素早く後ろに下がるへメラさんは顔を不機嫌に歪める。しかし、瞬時に爪を躱すだけでなく、へメラさんは獣の腹目掛けて4発食らわせていた。これにはいくら頑丈とはいえ、堪えたらしい。
吹き飛ばされる獣は背を地面に付けないように宙を一回転し、4本の足で滑る地面の勢いをころす。
「そうね。生意気だわ。獣風情が妹にちょっかいを出すなんてね!〈漆黒の流星〉!」
勢いが止まり、獣が顔をあげたところを苛立ちと共にニュクスさんが鞭を獣に叩きつけると、それは一直線に獣の首元に吸い込まれるように伸びる。
獣の首を貫くようにも見えた鞭は。しかし、その前に止められる事となった。旧神の攻撃であるにも関わらず、だ。
あまりにもの驚愕から呆然とする。いや、先程から攻撃についていけていないため、今更ではあるのだが。
あの動きについていけるのって凄いと思うんですが私だけですかね?
鞭を止めたその手の先を見る。それは獣の背にいた人影のものだった。
黒いフードを被ったその人はフードの影から赤い目が窺えるのみで、年齢や性別すらも分からない。ただ、小柄であるのは間違いなかった。
「ネロを虐めないで。」
ニュクスさんを見据えて言うその言葉は幼くも老成しているようにも聞こえ、中性的だ。甲高いという訳でもないその声は不思議な印象を受けた。
「あら。先に手を出したのはそっちの獣じゃない。どうしてそんな話になるのかしら。」
「違うよ。ここに来たのがダメなんだよ。来ないでって、誰も通さないでって皆にお願いしたのに!なんでここに人がいるの!
……しかも、見たくも無い顔もいるし。直ぐにどっかに行ってよ!」
怒り心頭といった様子で腕を振ると、腕の先から衝撃波が生み出される。すぐさま地上から離脱し、波を回避するが、その威力は凄まじいものだった。
まるで天変地異でも起きたかのような惨状に眉をしかめる。地面は隆起してヒビ割れ、近くにあった木は倒れてすらいるのだから驚きだ。
しかし、それよりも気になるところがあった。少し下がって神様のところへと向かう。
「神様。」
「なんだい?」
「私からするとあの人は神様目掛けて攻撃していたように見えたのですが、気の所為ですか?」
そう。確かに衝撃波は人影を中心として全体へと向けて放たれたが、その強さには斑があったのだ。
そして、特に衝撃波が強い地点にいたのは神様だった。本人はすぐさまその位置から離れていたため、言い逃れするだろうが、間違いない。神様はその事に気づかれないようにと移動したのだろうから。
案の定、神様はこんな時にも関わらず、ニコリと笑って否定した。
「そんなわけないだろう。理由がまずないからね。」
「へー。見たくない顔がいるってあの人は言っていましたが?」
「誰かのそっくりさんでも居たんじゃない?勘違いだと思うよ。」
ジーッと見つめるが、今回は本当に教えてくれる気がないらしい。頑なな神様の様子に仕方がないと肩を落としてフードの人に目を向ける。
フードの人は瞳の色をより紅くしてこちらを睨みつけていた。
「ほら!やっぱり神様ですって!」
「そんな事は……あー……。」
なんとも言えない表情で黙り込む神様は、どうやら本当に今思い出したらしい。さっきの回避は咄嗟のことでそこまで考えての行動ではなかったようだ。
なんというか、穿った考えをしてしまっていたようですね。まあ、完全に間違いというわけではなかったのですが。
自分の思い込みについては棚に上げ、ジトっとした目で神様を見た。
「い、いや、なんでもないんだよ?うん。」
「それは、何かある人がする反応では?」
「そうだよ。神様。言うことがあるならさっさとゲロっちゃいなよ。」
ジーッと見る目が2対に増える。神様は居心地の悪そうに目を逸らす。そこへポントスさんが何をしているのかと言いたげに首を傾げてやって来た。この際だからとポントスさんに疑問をぶつけることにした。
「ポントスさん。あの方、神様のお知り合いではありませんか?」
「そ」
「ち、違うよね!ポントスも知らないよね!?」
焦った様子の神様にポントスさんはゆっくりとした動作でポンっと手を合わせて頷く。
そして、神様をジッと見つめる目が3対に増えた。
「いつわりはだめ。われらがちちにしてはけいそつ。」
「いや、だからね?ポントス。世の中には嘘も必要なんだって僕は何度も……」
「……われらがはは。ちちのこと、はなしはんぶんにきけと。」
ポントスさんの言葉に頭を抱えた神様はなんで僕の仲間は居ないんだろうと愚痴をこぼしたが、それに対して誰も答えることは無かった。
そもそも、秘密にしようとするからだと思うのだが、神様にその考えはないらしい。
やがてため息をついた神様は重い口を開いた。
「あの子は初期運用AIの1人。アルファさ。
まさか、こんな所で使われているとは思わなかったんだけど。」
どうしてここに居るのかは知らないという神様にますます謎が深まるのだった。
神様が知らないうちに、というのが気になりますね。どうしたらあの人の怒りは収まるんでしょう……?
次回、この子どうしよう?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




