93話 姉妹は少し本気に
こんにちこんばんは。
用事が思いのほか押して今回、少し短い仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
2分の1程だと言われた地点から進むこと1時間。残り4分の1程だという地点で、私たちは目の前に現れた謎の建築物に呆気を取られていた。
それはただ光を吸収する程に黒い何か、だ。
そう言えば海外にこれくらい真っ黒な鳥が居たなとどうでもいいことを思い浮かべつつ、神様を見る。神様は何やら納得するように頷いていた。
「何かわかりましたか?」
「ああ。この建物は魔力全てを吸収してしまうみたいだね。」
ほら。と言って神様が手のひらに炎を作り出して建物に投げてみせることで実演してみせる。
それは確かに神様の言う通り、壁に衝突した途端、綺麗さっぱりと消えてしまった。
おーと声を出してパチパチと手を鳴らすと、空が不機嫌そうに背中に乗って体重をかけてくる。
そんな可愛い態度をとる空にクスクスと笑って空の頭を撫でると、空は先程までの態度を一転させて機嫌よく笑った。
「おーい?今、説明中なんだけど……?」
「諦めた方が良い。あれはなかなかこちら側には戻ってこん。」
「……それもそうだね。」
どこか遠い目をする神様を放置し、その横で仲良く戯れるのだった。
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「さて。それで、なんだけど。」
「はいです。」
「結局、あれをどうやって攻略するの?そう簡単にはいかなさそうなんだけど。」
唇を尖らせ、拗ねてますというアピールをする空は先程の神様の発言を気にしているらしい。
神様から接触禁止令を出されましたからね。……話の間だけ。
それでもよほどこたえたのか、普段の空からは考えられないほど、大人しくしている。
「まず、前提としてあれは魔力を吸収する。この世界の光や空気には多少なりとも魔力が含まれているからね。
つまり、あの中には外からの光も通らないし、空気も通らない。ここまではいい?」
それってつまり、中はとんでもなく危険なんじゃないだろうかと考え、そこで他のファミリアはどうしているんだろうかと思い至る。流石にここは厳しくないだろうか
「神様。ひとつ疑問なんですが。」
「なんだい?プティ。」
「他の方も同じような障壁にたどり着いているはずですよね?」
「あー……うん。そうなるね。」
歯切れ悪く頷く神様の様子が気になったが、今は質問をしようと言葉を続ける。
「もっと簡単になっていてもいい気がするのですが、どうでしょう?」
ニコリと微笑み、意識して笑みを強める。ジーッと見つめれば、簡単に神様は折れてくれた。
ふふふ。圧力に弱いですよねぇ。神様って。……さすがに、少し心配になるレベルなんですが……。
まあ良いかと気持ちを切り替え、神様の話に耳を傾ける。神様は言葉を探すように間を開けてから話し出した。
「えっとね。実は、この森のレベルって基本的に参加した人数やそれぞれのステータスの平均をとって設定されるんだよ。」
「つまり、私たち旧神が5人と我らが父がいる時点で平均はかなり高くなる。」
「よって、この森の怖さはグーンッと上がるんだよ!」
「まあ、だから実力不足を気にする……なんて、無駄なことはおよしなさい。バカバカしくて見てられないわ。」
「僕のセリフが……」
何やら落ち込んでいる神様は気にしないとして、どうやら私に戦闘のお鉢が回ってこなかったのにはそれだけの理由があったらしい。
慰めなのか貶しているのかが微妙なニュクスさんの言葉になるほどと納得し、それならこれ以降も戦闘はしないでおこうかなと弱腰なことを考える。
……というか、神様たちのせいでこうなっているんですし?任せてしまった方がいいのでは……?
よく考えるまでもなく私のせいでは無いのだから、任せるのが寧ろ自然な流れだと思えた。……と、まあ、そこまではいいですね。
「それなら、あの壁も同様の理屈なんですか?」
そう言って指をさす。どう見ても壊せそうにないあの壁がもっと壊しやすいなら確かにそれは公平だと思えた。
「そうだよ。あの壁は難易度MAX……というか、鬼というか、とにかく、一番硬いものを用意したようだね。」
意地が悪いと誰に言ったのか分からない言葉を呟く神様は苦虫を噛み潰したような顔をしていた。
うーん。珍しい表情ではあるのですが、他の方のせいでと考えるとなんとも言い難い不満を感じますね。
むむむと眉を寄せて神様を見る。神様はそれに気づくことなく続きを話し始めた。
「まあ、とにかく、あれを壊せば一気に奥まで行けるはずだよ。」
「飛び越えるのはダメなんですか?」
あくまでも壊すことを前提に話す神様に首を傾げる。この質問を予め想定していたのか、空がニコリと笑って答えをくれた。
「いや、そうでもないよ。
でも、あれは阻むものだからね。ボクらが壁を越えようとしたところであの壁は伸びるよ。」
壁が伸びる。その言葉の不可解さにいまいち想像がつかず、横に揃えた手を縦に動かし、『こうですか?』と尋ねる。
空は楽しそうに頷き、そういう事だと言ったのに驚いた。
「な、なんと……!?あれは何でできているんでしょう!?」
「まあ、だから壊さないといけないんだけどね。」
意味わからない物体だ……と目を丸くすると、神様は肩を竦めて答えた。よほど厄介なのかもしれない。
「あれ、壊せるんですか?」
「あら。壊せないわけがないわ。私たちが誰だか忘れてしまったのかしら?」
少しばかり不安になって尋ねると、心外だと言いたげにニュクスさんが反論する。
クスリと笑ったニュクスさんは、しかし、目が笑っていない。
やってしまった……と考えていると、そこへ空が庇うようにニュクスさんと私の間へと入ってきた。
「ニュクス。姉さんはニュクスの心配をしたんじゃなくて、神様の心配をしたんだよ。ほら、神様ったらこんな体たらくでしょ?」
「こんなってどんな!?」
「ああ。そういう事。確かに、かつての輝きは……」
「納得しないで欲しいんだけど!?」
神様のツッコミを誰も気にすることなくポンポンと話が進むニュクスさんと空にホッとする。
扱いが慣れてますねぇ。
そのやり取りにクスクスと笑うと、神様がジトっとした視線を向けてきた。勿論、そこはスルーしてニュクスさんとヘメラさんに話しかける。
「あの、もしよろしければニュクスさんとへメラさんのお力、見せて頂けませんか?
今回のようなすれ違いが起きないためにも、一度見させて頂きたいのです。」
無理なお願いかもしれないと思いつつ、2人にお願いしてみる。すると、ニュクスさんは妖艶にクスリと。へメラさんは人懐っこそうにニンマリと笑った。
「勿論よ。」
「アタシたちの力、見せてあげる!」
そう言って2人は巨大な障壁を見据える。先に動いたのはへメラさんだ。
2丁の銃をクロスさせて両手で頭上に掲げる。途端に眩い光に包まれた銃は形状を変え、一つの大きな銃となった。
「お日様の光を集めて!」
「星明かりすら無い真なる夜へ向けて。」
重ねるように言葉を続けるニュクスさんは手に持つ鞭をピシリとしならせ、形状を変化させる。
それはニュクスさんの持つ銃と対となる黒に限りなく近い藍色の銃だ。
不敵な笑顔を浮かべてニヤリと笑う。
「「〈ケイオス・アタック〉」」
銃を横に揃えて唱える。2人の銃の先にそれぞれの象徴の魔力が集まる。へメラさんは穏やかな、それでいて力強い光の魔力。ニュクスさんは全てを飲み込まれるようで包み込むような闇の魔力が。
「「果て無き世界の先へ逝きなさい!」」
それぞれの球体が混ざりあい、引き金を引くと撃ち出される。混ざり合う黄と藍は完全に混ざり会うことなく障害物へと吸い込まれ、そして……
ピシリという音が何処からか聞こえた。続いて響く崩壊する音。ガラガッシャァンッ!という音に思わず呆然とする。
「……えっ。」
思わずこぼれた声でハッと我に返り、ニュクスさんとへメラさんに目を向ける。2人は胸を張っていた。
はて?と首を傾げてハタと思い至った。もしや、これって褒め待ちってやつでは?
「凄いですね!ニュクスさん!へメラさん!」
「ふふふ。でしょう?ええ。言われるまでもなく凄いのよ?私は。」
「うんうん!ニュクスが凄いのは当然だよね!」
キラキラと目を輝かせ、2人を見て褒めるとニュクスさんは妖艶に笑い、ニュクスさんは首を縦に振った。どうやら正解だったらしい。
なんとか2人の機嫌を損ね無かったことにホッと息をついと、後ろから空がポンポンと頭を撫でてきた。
どうしたのかと後ろを見ると、何処か暖かい目の空と目が合う。少し照れくさくなって俯いていると、遠くで声が聞こえた。
「プティがこういう反応をするのって珍しいよね。」
「うむ。いつもなら素直に笑っているからな。」
「だよね。」
頷き合う2人にジトっとした目を向けると、2人とも同時に目を逸らした。
まったく何をやっているのかと思いながらも笑みがこぼれる。まあ、こういう日常もいいですね。
イベントの時に思うことではないだろうと言う感想を思い浮かべながら先へと進んだ。
最奥まであと4分の1。
次回、最奥
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




