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92話 競走は真剣にするもの

こんにちこんばんは。

ギリギリ更新できた仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

「それにしても何もないわね。」


「木ばーっかり!飽きちゃった!」



 暫く歩き続けた頃、すっかり見慣れてしまった道にニュクスさんとへメラさんが不満を漏らす。その気持ちも分からんではないと辺りを見渡した。

 勿論、時折黒いモヤによる襲撃はあるものの、あまりにも淡々と倒せすぎてしまうのだ。しかも、周囲は大して変化のない暗い森。見て歩くには少々物足りない景色と言えた。



「ふむ。では、ここは競走をするのが良かろう!」



 ガハハッと笑って提案したのは今まで静かに辺りを警戒していたアイテールさんだ。

 普段はニュクスさんとへメラさんを警戒してか、自己主張は少なめなのだが、今回は寧ろ何か提案しないと酷い目にあうと判断したらしい。

 実際、ニュクスさんとへメラさんから時折何やら鋭い目線を送られていた為、あながち勘違いとも言えないだろう。



「競走、ですか?」


「なるほど。鷲にしてはマシな提案。

 誰が一番初めに奥まで行けるかの競走にしよう。道案内はこの子がしてくれる。」



 そう言ってガイアさんはパチリと指を鳴らす。途端に何処からか現れた光る花が咲くツタは足元を照らすように伸びていった。それは何処まで続くのかは分からないが、かなり遠くの方まで光っているのが見えた。



「かわいい。でんきゅーそう?」


「ええ。よく分かった。」



 偉い偉いと頭を撫でられたポントスさんは照れくさそうに微笑みながらも大人しくガイアさんに撫でられている。

 この2人、恐らく初めから仲がいいんですよね。こういう所をよく見かけます。


 微笑ましく思いながらも、用意されたスタートラインに立つ。順番としてはニュクスさん、へメラさん、ガイアさん、ポントスさん、アイテールさん、神様、私、空の順で並んでいる。

 アイテールさんの提案だったが、ニュクスさんとへメラさんは意外にも乗り気だ。普段、あれだけからかったり、いじったりしているというのに珍しい事もあるものだとぼんやりと考える。



「別に彼女達はアイテールのことが嫌いな訳では無いんだよ。気に食わないだけで。」


「あ。空。そうなんですね。では、今回はどうしたんでしょう?」


「気に入らないより面白そうの方が勝ったみたいだ。

 それに、昔から遊びの提案はアイテールがよくしていたんだよ。だから、慣れという部分もあるだろうね。」


「なるほど。」



 そういう時期もあったのかと考え、あまりイメージがつかないなとは思ったが、確かに元から兄貴分っぽい所がないでもなかったのだ。……ちょっと、いや、かなり残念なところがあるだけで。

 押しに弱いんですよねぇ。その辺も優しさの裏返しだと思えば……まあ、確かに優しいお兄ちゃん像が出来上がりますね。


 そんな事を考えたところで、よーいどんっというガイアさんの声がした。それに従い、一斉に走り出すがやはり神様が速い……というか、みんな速い。あっさりと私は置いていかれることとなった。



「やれやれですねー。まあ、飛べば速いんでしょうけど。」



 競走。つまり、走らねばならないのだから、飛ぶ訳にはいかない。アイテールさんでさえ、あの鷲の姿でヨタヨタと走っていたのだ。私が無視する訳にもいかないだろう。尚、ヨタヨタだったにも関わらず、凄まじい速さだったのは言うまでもない。

 神様の次点についていましたからね。その素早さと来たら恐るべきものでした。


 うんうんと内心で頷きつつ、初めほどではないものの足元だけが明るいそこをのんびりとランニングする気分で走る。どうせ追いつけはしないのだ。それならばのんびりでも構わないだろう。


 鼻歌交じりにルンルンと進む。時折、ガサガサと草むらが鳴るが、そこから何かが出てくることはない。やはり、明るいところは苦手な魔物が多いようだ。

 危険を感じていないからか、その分のんびりと進んでいると、辺りがまた一層暗くなった。もはや緑ではなく黒い葉に見えてきたその景色にふと疑問を抱く。

 あれ?光に触れているはずの葉も黒い、ですか……?


 疑問に思うと同時に植物が照らすレールから少し外へと手を伸ばす。



「〈ライトボール〉」



 唱えると同時に浮かび上がった黄色の光の球体。暖かな光に照らされた葉の色は、やはりと言うべきか、黒紫色だった。

 もしかして、森に何か異変が起きているんでしょうか?奥に行けば行くほどにこの闇が濃くなるのなら、可能性が高そうです。


 何がいるのやらと戦々恐々としながら進む。この植物のおかげか、近くに現れる魔物たちはこちらに視線を向けては逃げていくのを見て、少し安心した。

 私だけでは不安が残りますからね。不測の事態が起きないのはいい事でしょう。



 ・

 ・

 ・



 そうしてようやく辿り着いた先では、皆が一喜一憂していた。

 そこは少し開けており、ツルの集合体が木のようにそびえ立ち、キラキラとした花が咲き誇っている。まるでクリスマスのイルミネーションのようだと思いながら思い思いに過ごす皆の様子を見た。



「ふふふ。やっぱり私が一番ね。」


「流石ニュクスだよー!」


「くっ……リーチの差が……。」


「ガイアねぇもすごい。ぼくよりはやかった。」


「途中までは良かったのだが……何故、あそこでコケたのか……!?ワシには分からん……。」


「いや、こけたからでしょ?」


「ワシはこけておらん!つまづいただけだ!」


「いや、それをこけたって言うんだよ……?」



 胸を張るニュクスさんにいつも通りよいしょするへメラさん。足を見比べて悔しがるガイアさんにニコニコと笑って無邪気にガイアさんを褒めるポントスさんは純粋に憧れているようで、目をキラキラと輝かせている。

 一方で嘆くアイテールさんは空と神様からツッコミを入れられ、隅っこの方でしょんぼりとしていた。どうやら1位はニュクスさんだったようだ。



「お疲れ様です。皆さん、速いですね。」


「あ。プティ。お疲れ様。」



 声をかけると私の方に神様が視線を向けた。

 すると、今までアイテールさんと話していた空もこちらへと向き、抱きついてくる。慌てて体を支えると、空はへにょりと眉を下げた。



「姉さん!置いていってごめんね?勝負事だから手を抜くのは良くないと思って……。」


「良いんですよ。空はそんな事を気にしなくて良いんです。寧ろ、それを言うなら神様に言うべきですからね。」



 ムスッと顔を顰めて神様を見る。神様は頬をかいて気まずそうにそっと私から目を逸らした。



「えっと……ごめん。つい、掛け声を聞いたら反射的に走り出してしまったんだ。」


「へー。でも、それってすぐに引き返せましたよね?」


「そうだよ。下手に誤魔化すくらいなら言い訳なんてしなくていいのに。」


「うっ……。」



 言葉の棘を容赦なく突き刺した私と空に神様は大ダメージを受けたようだ。胸元を押さえる神様に肩を竦めて先を見すえる。何処からかズシンズシンと聞こえてくるそれは明らかに敵の到来を知らせるものだった。



「来た。」


「あらあら。これはなんとも肥えた豚かしら。」


「あはは!ニュクス、それは豚じゃないよ!でも、ニュクスが言うなら豚だね!」



 へメラさんがケラケラと笑う先には巨大な猪がいた。鋭く長い牙を持つその猪は森からのっしのっしと出てきたかと思うと、咆哮をあげる。



「ブモォオオオオオオッ!!」


「ふむ。勇あるものだ。最も手を出してはいけないものに手を出すとは。」



 ニュクスさんの言葉に苛立ったのか、猪は一直線にニュクスさん目掛けて突っ込む。

 ニュクスさんはニヤリと妖しく笑うと右手に鞭を出現させ、振り下ろした。



「〈夜の訪れ〉」


「ブモッ!?」



 ピシリと振り下ろされた鞭と同時に猪を暗闇が覆う。周囲よりも暗いそれに猪は戸惑い、動けなくなる。そこを狙ってへメラが銃を構えた。



「バーンッだよ♪」


「ブモ……。」



 へメラさんが放った光の銃弾はあっさりと巨大な猪を貫通し、猪は黒い霧へと変化した。

 こういった光景を見る度に私って居なくても良いよねと再確認しつつ、ガイアさんに声をかける。



「ここが一番奥なんですか?」


「違う。取り敢えず、ちょうど良さげな所まで来てみただけ。」


「おくはまだとおい。いまで……にぶんのいち……?」



 だよね?と尋ねるポントスさんにガイアさんがヨシヨシと頭を撫でながら頷く。

 今で2分の1……。遠いのか近いのか分かりませんね。でも、葉っぱの色が結構黒に近かったですし……もしや、ここから先はもっと黒くなるんでしょうか?


 疑問を思い浮かべつつ、それにとここまで来る間に気づいたことを考える。

 恐らく、奥に行けば行くほど、動物がかなり少なくなって居るんですよね。走り始めた頃は見かけた小動物すら、ここにはいません。魔物は光を恐れますが、動物は恐れないので光のツルの道にも平気で入ってきていたんですよ。それを見なくなったのは何時からだったか……。



「姉さん。動物の数と魔物の数は反比例しているんだ。そして、この比率は森の黒さに比例する。

 この事実から分かることがあれば、それは真実かもしれないね。」



 皆がまた先へと進み始める後を追い、思い悩んでいると空から声がかけられる。その意味深な言葉を聞いて一つの結論を出した。



「……なるほど。少々飛躍しますが、こういった考えはどうでしょう?

 この奥には動物を魔物にする何かがある、とか。」



 答えを確かめようとジーッと空を見つめる。空はクスリと弧を描いて笑った。



「さぁ?どうだろうね。」



 それよりも急がないと置いていかれるよ?という空の言葉に慌てて前を見ると、賑やかな集団が少し遠くに見えた。この森ではぐれてはそう簡単には合流できないだろうと足を速める。

 そうしながらも考えるのは先程の空の反応だ。明らかにあれは正解だった、のだろう。だからこそ空は愉快そうにに笑った。……まあ、こういうのもなんですが、少々空はひねくれてしまっているようですからね。


 素直とは言えない片割れのことを思い出し、苦笑する。これはなかなかに苦戦しそうだと周囲に対して警戒心を強めた。

次回、最奥


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。


〜2022/04/09 09:46 ニュクスさる→ニュクスさんに訂正する誤字報告を適用しました。〜

タイプミスならぬスワイプミス……。的確なところすぎてニュクスさんに怒られそう……カタ:(ˊ◦ω◦ˋ):カタ

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字があったので、前回の分も含めて2話追加? 更新と番外編と勉強と追加更新を頑張って下さい。
[良い点] ほー、アイテールさんの提案が通るなんて( ゜Д゜)明日は(羽根の)雨が降るのかな? 森の奥で動く悪意。果たして何が居るのか? [気になる点] 鳥が走る…ペンギンみたいに走ったの?それとも…
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