91話 相手は色々いるもの
こんにちこんばんは。
イベントの説明回となっているのであまり面白くない気がする仁科紫です。
また、私事により一日に一度更新が出来ない可能性があります。ご理解頂けましたら幸いです。
それでは、良き暇つぶしを。
『これより魔物狩り祭を開催致します!
司会はお馴染み!アルミラージのラパン・アルビーナと!』
『同じくアルミラージ。妖精族の女王、サルーラ・サラサーティ・フルフラリーよ。ふふふ。今日は皆さんの活躍を楽しみにしているわね。』
そんなナレーションが流れる会場にどことなく懐かしく思いながらも降り立つ。以前とは異なり、広大な森が広がるこの場所は魔物狩り祭に相応しいように思えた。
時間ギリギリに会場入りしたが、見える範囲にはプレイヤーは見当たらない。それ程広大な場所なのだろうかと考えて居ると、ルール説明が始まった。
『もう知っている子達も居るとは思うけれど、話は聞きなさい。
これより開催される魔物狩り祭は簡単に言えば出てくる魔物を次々と倒していくというものよ。奥に行けば行くほど、環境はより厳しく魔物も強くなるわ。
勿論、貰えるポイントは増えるけれど、リスクもある事を忘れないことね。』
『この森には魔物と動物の2種類がいます。動物を倒せば減点となりますよ。気を付けてくださいね!
システムとしてはダンジョンに似ていますが、明確な道はありません。ヒントとしては……そうですね。周りに注意して進んでください。気づける人には気づけるでしょう。』
ラパンさんの抽象的な物言いに遠い何処からかブーイングが聞こえてきたような気がしたが、それは空耳ではなかったらしい。眉を寄せたサルーラさんは煩わしそうに鼻を鳴らした。
『フンッ。うるさいわね。気づけるというのも実力の一つよ。ただ強いだけではこの魔物狩り祭で勝ち残れないということも分からないのかしら。
その時点で既に負け犬確定ね。少しは他人にばかり頼っていないで努力しなさい!』
『まあまあ、サルーラちゃん。その辺でやめましょう?』
『でも……』
ラパンさんに止められて不服そうな顔をするサルーラさんの頭をラパンさんが撫でる。
しかし、それでも不機嫌さを隠そうとしないサルーラさんに苦笑したラパンさんは、真剣な顔で前を向いて話し始めた。
『多くの人にとって説明の少なさを感じさせるのは私たち自身の力不足です。
なので、もう少しだけヒントを。暗い場所には気をつけて。そこでは行方不明者が出るとの事です。』
怖いですね?とニコリと微笑むラパンさんに何処と無く性格の悪さを感じ取ったが、口を尖らせたサルーラさんはポツリと呟いた。
『……ラパンは優しすぎるわ。』
『ふふふ。それでは、カウントダウン終了後、森の中へと進むことができます。どの方角へ進むかは各ファミリアで話し合うように。良きイベントにしましょうね!』
そうして消えたスクリーンを前に、うわぁと顔を引き攣らせる。
カウントダウンは60秒から始まり、減っていくのを見て念の為にアイテムを確認しなければとアイテムボックスを開いた。
強いて言えば必要なのはMP回復薬ぐらいだろうと神様から渡されたものを確認しておく。
よし。ちゃんと99本ありますね。
「準備は万全かい?」
「勿論です!」
尋ねてきた神様にすぐさま頷くと、私に続いて皆が頷く。
今、この場には私を含めて9人が居た。神様に空、カンタにガイアさん、アイテールさん、ニュクスさん、へメラさん、ポントスさん。そして、私だ。
このイベント、なんと各ファミリアで18人まで参加できるらしい。その中途半端な数の理由は6人パーティが3つできるようにとの事だ。
どうして3つなのかは知らない。ただ、多くの戦略を取れるようにという事なのだろうと漠然とした認識だけ持っていた。
そうして待っている間にも時間は過ぎ、いよいよカウントが0になった。同時に角笛のような音が何処からか鳴り響き、目の前にあった半透明の壁が消える。
「さて。何処へ行きましょうか?」
「「あっち。」」
首を傾げて尋ねると、返ってきたのは2人の声だった。声の被った2人は顔を見合わせて互いに頷き合う。どうやら2人ともこうなるのは想定内だったようだ。
「ガイアねぇ。さすが。」
「ポントスも。感知能力が上がった?」
「すこし。」
ニコニコと楽しげに話し合う2人は仲のいい姉弟に見えた。
因みに、ポントスさんはあれからなんとか元に戻り、ガイアさんのことをねーではなく、ガイアねぇと呼んでいる。なんでも、ポントスさんは時折普段よりも幼い人格になってしまうらしい。一番初めにお世話をしていたら懐かれたとはガイアさんの言葉だ。
尚、今のところ判明した家族構成によると、上からガイアさん、アイテールさん、ニュクスさん、へメラさん、ポントスさんらしい。ここに更に6人増えるというのだから驚きだ。
神様も旧神を創りすぎですよねぇ。
ぼんやりとそんな事を考えつつ指し示された方角へと目指して歩き出す神様の後ろをついていく。
後ろから空が構ってと言いたげに背中に乗ってきたが、気にしないことにした。私がぼんやりしているとこうして高頻度で背中に乗ってくるのだ。これも愛情表現の一種だと思っている。
空ってば構ってちゃんなんですから。まぁ?そこが可愛いんですけどね?
「ふふふ。」
「どうしたの?姉さん。」
「いーえ?」
クスクスと笑う私に後ろで頬をふくらませる気配がしたが、それが益々おかしくて笑った。
本当に、可愛い子です。
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「えいっ!」
「グァアアアッ!?」
「ふぅ……。結構奥まで来ましたか?」
「まだ端の方。」
狼のような魔物を魔力糸で縛り付け、すっぱりと切り落とす。霧のように魔物が消え去ると、視界の端に表示されている数字がピコンっと増える。今ので31になっていた。
あれから一時間程が経ち、狼や猪のような魔物相手に戦闘を繰り返していた。進めば進む程に辺りが徐々に禍々しい雰囲気になるのを感じ取れる。どうやらラパンさんが言っていたのはこの事だったようだ。
「端の方でこれとは、最奥に行けばどうなるんでしょうね?」
「そうだね。かなりホラー要素の強いイベントだから、結構暗くなるって聞いたよ。」
そんなにホラーなことを5月にやるのかとふと思ったが、普通がよく分からないため、それ以上は何も言わないでおく。肝試しと言えば夏なんですけどね……?
5月も初夏というし、夏といえば夏かと勝手に納得して先へと進む。
少し歩いたところでまた辺りの不気味な気配が強まった。
「来る。」
「エリアボスですかね?」
「その可能性が高いよ。姉さん。気をつけて。」
イベントで死んだものは普段とは異なり、ただ退場扱いになるだけだが、だからといって早々にやられるつもりはない。
コクりとひとつ頷き、ガサガサと茂みを鳴らしてやってくるものに備えた。
そして、一際大きな音が鳴ると同時に出てきたのは……
「キュル?」
きゅるんとした赤い瞳をこちらへと向ける愛らしい黒兎だった。その可愛さに思わず口元を押えるが、それを見ていた空がすぐさま兎に蹴りを入れる。
すると、今までの可愛らしさはなんだったのかと問いたくなるほどに変貌し、空の蹴りを同じく足で受け止めた。真っ黒な体に映える赤い血のような瞳は鋭さを増し、ちっとも可愛くない。
「フンッ!」
「姉さんを惑わすなんてやってくれるね?ボクはキミを許さないよ。」
「フフンッ!フンッ!」
知るかと言いたげな兎に構わず、好戦的に目を輝かせた空は兎に肉薄する。上から垂直におろした踵は鋭く、兎の頭に直撃するかと思われたが、そうは簡単にはいかない。兎は短い足で地面を蹴り、空の蹴りに合わせた。
「はぁっ!」
「フンッ!」
互いに一歩も譲らず、何度も足と足を衝突させる。やがて、兎の足の毛がボロボロとなり、空の服も少しやぶれ始めた頃。
「やぁああっ!」
「キュラァアアアァ……!?」
鋭く上から下へと振り下ろされた空の踵が兎の腹へと突き刺さる。兎は断末魔をあげ、霧となって消えていった。
「凄いですね!空!」
後ろから抱きつくように空の肩に手を回すと、空は私の方を見て擽ったそうに笑った。クスクスと笑いあっていると、神様から声がかかり、先へと進むことにする。
今のところ、こうして特に苦戦することはなく戦えていた。誰が倒してもポイントが入るということで、なんとなくの順番で倒している。
前回は私で今回が空だったので、次は旧神達の誰かか、神様ですね。
次は何が来るのだろうと考えながら進むと、またガサガサっという音が聞こえた。しかし、よく見ると揺れる草むらは一つではない。全ての草むらが揺れるという事態に足を止める。
「な、なんでしょう?急に。」
「雰囲気が変わったからね。相手も変わったんだろう。」
「姉さんは安心してボクの後ろにいたらいいよ。」
「いえ、そういう訳にもいかないので。」
相手が変わったとは……?と疑問に思いながらも何かが出てくるであろう草むらに注意し、空の背中から離れて構える。いつの間にか全員で背中合わせになっており、死角は無かった。
動きが良いのは旧神だからなのかと思いつつ出てきたその何かに目掛けてダークボールを投げつける。
「ヒュォオオオッ!」
「元気なんですが!?」
「プティ!コイツらに闇属性の魔法は効かない!
使うならライトボールだよ!光に触れるだけで消滅するはずだ!」
「分かりました!〈ライトボール〉!」
空中に生み出しただけでも端へ端へと逃げようとする黒いモヤたちに向けてライトボールを投げる。神様の言った通り、触れた途端に黒いモヤたちは霧になった。
少しホッとしつつライトボールをすぐさま消す。恐らく、あのモヤたちは暗い道を歩く人に反応するのだろう。次々と集まる感覚にこれは狩りに丁度いいなと考える。
しかし、神様はそう思わなかったらしい。すぐさま光の球を作り出した神様は私を見て不思議そうに口を開いた。
「どうして直ぐに消したんだい?寄ってこないのは分かっただろう?」
「いえ、狩れるかなぁと。」
「あー……まだ先の方でいい狩場があるかもしれないし、もっといい狩場を探さないかい?」
なんとも言い難い引きつった笑顔を浮かべ、提案してくる神様に少し考えて頷いた。
確かに、今貰ったポイントを見ると5ポイント増えている。この先に進んだ方がよりポイントを貰えそうだ。
「分かりました!では、行きましょうか!」
こうして私たちは更なる奥を目指して歩き始めたのだった。
さあ、いざゆかん!まだ見ぬ未開の地へ!なのです!
次回、森の奥
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2023/10/31 01:26〜
カウトダウン→カウントダウンに訂正する誤字報告を適応しました。
何故にンが抜けたんだ……?




