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90話 捜索は思わぬ方へと

こんにちこんばんは。

ストックを作らないとそろそろ辛い仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 あれからカンタを探し続けて一時間程。未だにカンタは見つかっていなかった。というのも、一言に街の端の方と言っても、それなりの広さがあったからだ。更に、それだけが原因ではなかった。



「どうして……こんなに色んな場所があるんですか……!?」



 思わず何故だと叫びたくなるほどにその摩訶不思議な空間は幾重にも混ざり合い、次の瞬間には姿を変えていく。

 現在は蜃気楼が見えそうな程の砂漠から辺り一面を分厚い氷に覆われた氷河地帯へと変化したばかりだ。

 なんでも神様が言うには、この場所は10の街が同時に存在し、混ざり合う空間なのだとか。

 その為、ここではまともに前に進めず、正確な場所も分からなくなる。迷子になればその段階で見つけるのすら困難になるのだ。ここに居るのではないかと私が言った時の神様の言葉が蘇る。



『プティ。最悪の場合……は、ないとは思うけど想定だけしていて欲しい。』


『どうしてですか!?』


『姉さん。落ち着いて。それだけあの場所は慣れた人でも迷うくらいに難しい場所なんだよ。』



 真剣な顔の神様といっそ無表情と言ってしまえるほどに感情の籠っていない瞳を向けてくる空。2人からの視線を受け、たじろぐとそこへガイアさん達が騒ぎを聞き付け、やって来た。



『どうした?』


『うむ!悩みがあるならば皆で話し合うが良い!すぐさま話し合おうぞ!』


『うるさいわ。兄さんは黙って。』


『そうだよ!話が聞けないでしょ!』


『ワシが悪いのか!?』



 やはりガーンっという効果音がなりそうな程に落ち込んだアイテールさんは端の方にある人形の頭に止まり、ワシだって……と拗ね始めた。

 少しばかり可哀想な気もしたが、あまり気にすることでもないだろうと旧神達の意見を聞くことにする。

 カンタが居なくなった事とその時の状況を説明すると、旧神達はそれぞれ納得したように頷いた。それは正に神様の言っていた事が正しいと肯定しているようで目を逸らしたくなる。しかし、私の予想に反して返ってきた答えは意外にも優しいものだった。



『それなら私たちに任せる。』


『今回ばかりはお姉様に同意見ね。私たちがナビゲーションして上げるから、先に行ってなさい。連絡はお父様にするから。』


『そうだよ!アタシ達に任せてー!絶対に後悔はさせないよ?』



 ニコリと笑うガイアさん達を頼もしく思いつつ先程から黙っているアイテールさんを見る。何故か魔法で口元を塞がれていたが、何か言葉を発しようとする度に拘束が増えていく。

 それらを操っているであろう3人の旧神達を見るが、ニコニコと笑うだけで何も言わない。今日もアイテールさんの受難は止まらないのかとますます哀れに思ったのだった。……え?助け舟?我が身が可愛いですからねぇ。アイテールさんよ。皆のためにも耐えて下さい。


 では、行ってきますと神様と空と私の3人でカンタ探しの旅へと出る。その後ろで聞こえてきた声は聞かなかったことにして。



『おヌシら!ワシの権能を使って自らの手柄にするつもりだな!?相変わらず度し難い!

 自らが起こした奇跡こそが自身の力になると……』


『『『やれ。』』』


『……ハイ……。ぐぬぬ……何故こうなるのか……!』



 こうして今に至るのだった。

 アイテールさん、無事だといいんですけどねーともはや無事ではないことを前提に残念な鷲のことを考えていると、今度は湖のある綺麗な森に変わった。

 湖からは湯気がユラユラとたちのぼっており、暖かそうだ。今度はどこに出たのかと考えながら慎重に進む。

 ある程度進んだところで神様が口を開いた。



「ガイア達が言うにはもう近いらしいよ。」


「具体的にはどちらでしょう?」


「あっちだね。」



 あっち……?首を傾げながら空の指さした方を見る。そこにはただ湖があった。



「先程まで私たちがいた方角ですよね?」



 首を傾げて空を見る。空は苦笑しながらもとりあえずついてきてとだけ言って神様の後について行く。

 それなら私もついて行くべきだろうと2人の後ろを歩いていくと、唐突に2人が止まった。

 どうしたのかと後ろから覗き込むと、湖の畔に倒れている人影があった。慌てて駆け寄り、どうしたのかと声をかけようとする……が。



「あれ……?この方、ポントスさんでは?」



 何処で何をしているのかと思えば、こんな所で倒れていのかと少しばかり呆れる。しかも、よく見るとそれは倒れているのではなく、寝ているだけであり更にイラッとした。

 何故ここにポントスさんが居るのか、そもそも探していたはずのカンタは何処に居るのかといった疑問が頭の中に溢れかえった。しかし、そこは一先ず置いておくとして、この感情を発散させることを優先させる。



「おーきーろっ!なのですっ!」



 今回は空の力を借りようと空の肩に乗る。空は意図をくんでくれたようで、苦笑しながらもその場で宙返りをし、蹴りをポントスさんにお見舞した。



「ごふっ。」


「やりました!今回はダメージを与えれましたよ!」


「いや、その前にちゃんと見て。ポントス、永眠しそうになってるから!」



 はて?と首を傾げて空の上からポントスさんを見る。ポントスさんは口からぶくぶくと泡立たせていた。あー……。



「誰がこんなことを!?」


「いや、プティだよ!?」



 神様のノリツッコミに内心でニマニマとしつつも首を傾げる。さすがに誤魔化されてくれないのは分かっていたものの、誤魔化さずにはいられなかったのだ。

 まあ、気まずいですよね。やり過ぎたのは自分でも分かっていましたし。


 やれやれと肩を竦め、空の肩から降りる。空が少しばかり残念な顔をしたのが不思議だったが、気にせずポントスさんを揺すった。

 私が乗っていたら重いはずなんですけどねぇ?


 なかなか起きないポントスさんに余計なことを考えつつひたすら起きろーと揺すること数分。ピクリと動く瞼に、そろそろかと少し離れた。

 のろのろと開けられた瞳にホッと息をつき、その瞳に光が無いことに首を傾げる。私たちを視界にとらえたポントスさんは何を思ったのか頬を膨らませた。



「なんでねーがいないの。」


「ねー、ですか?」



 ねーと言われて思い浮かんだのはニュクスさんやへメラさん、ガイアさんだ。一体どの人の事を指しているのだろうかと私が考えている間に空が答えた。



「ねーはお留守番しているよ。ポントス。キミの帰りを待っていたんだ。」


「ほんとう?」


「本当だよ。」


「しゃぁちゃんは?」



 流石の空もしゃぁちゃん……?と考え込む。これは私がピンと来るものがあった。



「しゃぁちゃんは今私達も探しているところなんです。心当たりはありませんか?」


「……しゃぁちゃん、いないの……?」



 ぐすんっと目をうるませ、鼻を鳴らすポントスさんにあれ?これ誰だ?と思わなくもなかったが、今はそれどころではない。

 今にも泣き出しそうなポントスさんに慌てていると、神様が横から何かを出してきた。



「はい。しゃぁちゃんだよ。」



 それはイカタコのぬいぐるみだった。

 しかし、そんな偽物の慰めは要らなかったらしい。



「これ……しゃぁちゃんじゃない……。」



 逆に泣き始めたポントスさんは目の前に掲げられたぬいぐるみを奪い取り、神様に投げつけた。

 イテッと声をあげた神様を気にすることなく泣き始めたポントスさんにまずいと空が焦る。何に焦っているのだろうかと考えたところで思い出した。

 そう言えば、ポントスさんの権能に生き物から好かれるというものがあって、傷つけたものは……。

 そこまで考えてさぁっと血の気がひく感覚がする。確かにまずい。この場に動物は居ないとしても、生物なら居るのだ。慌ててどうしようかと考え、一つの答えに行き着く。



「神様!鍵!」


「えっ。鍵?何の?」



 そんなやり取りをしている間にも地面が揺れ、森がザワザワと音を立てて蠢き出す。

 もう時間が無いと神様に声を荒らげた。



「お店の鍵です!今すぐワープして戻るんですよ!じゃないと、森が……!」



 そこまで言ってようやく状況を理解したらしい神様は頷き、鍵を何処からか取り出す。

 いつもの如く現れた扉を開き、泣いて掴む手すらも叩き落とそうとするポントスさんの手を引いて中へと入った。

 扉が閉まる前に後ろが気になり、振り向く。そこには伸びてきた根が扉の前にまで迫っていた。

 正に間一髪。扉を閉め、安心感から体の力が抜けた。



「なんとか、無事に帰ってこれたね……。」


「神様、察し悪すぎ。もう少しどうにかならないの?」


「僕に戦いを挑んでくる生物は居ないからね。すっかり忘れていたんだ。」


「うわぁ。嫌味?これだから姉さんを預けたくないんだよ。」



 ため息をつく空に神様は頬をかき、申し訳なさそうに眉を下げた。神様も少しは反省したらしい。

 何はともあれ、帰ってきたのだからとようやく店内に視線を向ける。そこには驚いた顔のガイアさんが居た。



「ポントス……?なんで居る?」


「ひっく……ねー……。」



 しゃくりあげながら目を擦るポントスさんに驚きの声をあげるガイアさんはジトッとした目線を神様に向けた。



「末弟にこれは無い。何事。」


「お気に入りの子が居ないからショックを受けたみたいなんだ。」



 端的に話す神様の言葉にガイアさんは眉を寄せ、そうじゃないと首を振った。



「どうして末弟になってるのか聞いてる。」



 質問の意味が分からず、首を傾げるが神様には通じたらしい。視線をうろうろとさ迷わせ、目線を合わせないままに歯切れ悪く説明し始めた。



「あー……。いや、その……ね?当たり所が悪かったんだろうね。無理に起こしちゃって……。」


「……。そこに座る。」


「えっ。でも、僕のせいじゃ……」


「そこに座る。」


「……ハイ。」



 有無を言わさぬ圧力を感じさせるガイアさんの言葉により、お店の床へと正座をした神様。そのままガイアさんによるお説教が始まり、終わる頃には足をしびれさせていたのだった。


 尚、行方不明になっていたカンタについてだが、それから5分もしないうちに帰ってきた。

 理由を聞いたが、なんでもポントスさんを探していたらしい。店内に気配があると気づいてすぐさま戻ってきたのだとか。

 何はともあれ、無事に見つかって良かったです。


 そして、慌ただしくも楽しい日々が過ぎ、気付けば次のイベントである魔物狩り祭の開催日時となっていた。

次回、イベント


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイテールさんの受難は普通です。もっと凄いのがアルのだから(自宅から隣の街まで30分以内に来いと言って何とか着いたら「アンタもういらないから」とかあるんだよ) ポントスさん発見。炸裂した…
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