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87話 イカかタコかは分からないもの

こんにちこんばんは。

思いの寄らない方向へと進むことが増えてきた仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 そうこうしてたどり着いた50階層は海の神殿という言葉がピッタリの場所だった。

 周りを起伏のある海底火山に囲まれた白い神殿は青白い光を受けて神秘的にうつる。



「わぁ!綺麗ですね!」


「姉さんほどじゃないよ。」


「えっ。いえ、そうですかね……?……いや、やっぱり比べるものでは無いですよね!?」



 天然なのかボケなのか、私を肯定する空の言葉に首を傾げて一応ツッコミを入れてみる。しかし、空は姉さんより綺麗なものはないからねとだけ言ってニコリと笑った。

 そ、空が手強い……!?


 愕然として空を見ていると、しげしげと神殿を見つめていたアイテールさんがポツリと呟いた。

 そちらに気を取られ、空から目線を外してアイテールさんを見る。



「そう言えばポントスは綺麗好きだったか。」


「そうなんですか?」



 どうやらアイテールさんは誰にも聞かれていないと思っていたらしい。少し慌てた後、咳払いをして頷いた。



「うむ!昔から海の底で立派な神殿の奥深くに閉じこもるような奴だったからな!その神殿の外観から光の角度まで考えて設計しておったぞ!」



 ガハハッと笑うアイテールさんにそれなら海の神ではなく建築の神様になれば良かったのにと思ったが、なんでも権能とはそういうものでは無いらしい。

『権能とは生まれた時から持っているものだからな!』とはアイテールさんの言葉だ。



「ということは、旧神の皆さんは初めから職業は決まっていて、趣味として好きなことをする感じなんですね。」


「大体あってる。」


「うむ!そうだな!」


「権能を職業と言うのはプティぐらいだと思うよ……?」



 頷く2人の横で神様が引きつった笑みを浮かべているが、そこは気にするまい。気にしたら負けだと目を逸らし、キャッキャとはしゃぐへメラさんに目を向ける。

 神殿を指さして何やらはしゃぐへメラさんをニュクスさんが優しい目で見つめ、ニコリと笑った。傍から見るとまさに親子の図だ。

 何回見ても姉妹には見えないんですよねぇ。



「そういえば、あの二人って昔からあんな感じだったんですか?」


「あんな感じって?」


「えっと……」



 ガイアさんに尋ね返されて気づく。

 そういえば、この状況で親子みたいと言えば絶対に怒られる奴だな、と。

 なんとか誤魔化すために頭を働かせるが、いい案が思いつかない。考え込み、ガイアさんが訝しげに私を見たところで見かねた空が助け舟を出してくれた。



「あの二人って対照的でしょ?2人が好む姿も違うのに仲がいいから昔からなのかなって気になったんじゃないかな。」


「そうです!空、フォローありがとうございます!」



 キラキラと目を輝かせ、空を見ると空は照れたように頭をかき、満更でもなさそうに笑った。

 照れた空も可愛いです!


 空を見て緩みそうになる口元を引き締め、ガイアさんを見る。先程の空の言葉で納得したらしいガイアさんは微笑ましそうに私たちを見ていた。

 その視線を見て、やはり見た目以上の時を過ごしているのだと実感する。それは子どもたちを見る母親の目だった。



「が、ガイアさん。そんなに見つめられると恥ずかしくなると言いますか……。」


「それは悪い事をした。つい、懐かしくて……。」



 そろそろ見つめるのをやめて貰えないだろうかと目線を逸らしながら言うと、ハッとしたガイアさんはどこか遠くを見て口篭る。

 この様子では何かあったのだろう。やがてゆるゆると首を横に振ったガイアさんは私を見た。



「……あの二人は昔からあんな感じ。ニュクスの全盛期はもっと凄かったし、へメラはもっとキラキラしていたけど。」


「そうなんですね。あれ以上とは想像がつかないです……。」



 遠くでアイテールさんをいじり出した2人を見る。今のままでも十分ニュクスさんは妖艶な雰囲気を醸し出しており、へメラさんは元気いっぱいでキラキラを振りまいているように見える。

 とはいえ、やはり2人とも力を消耗しているのだと思えば感慨深いものがあった。



「おーい。何してるのー!早くしないと置いていくよー?」



 手を振る神様に返事をし、先を急ぐ。泳ぐように神殿の入口に立つ神様の元へと辿り着くと、そこはまたカードキーを翳す場所があるようだ。

 今回はどこに鍵があるのだろうと考え、辺りを見渡す。しかし、特にこれといって見当たらない。今までとは違って反魔力も感じないため、どうしたものかと内心で首を傾げた。



「神様。鍵らしいものは何か見つけましたか?」


「それが残念なことにまだなんだ。困ったことにね。」



 神様も見つけられていないらしい。何かないかと周りを見渡す。

 目に付いたのはカードを翳す台の奥に存在する、扉に描かれた巨大なイカのようなタコのような生物。中心には鳥かごのような図があり、その真ん中には四角く宝石が埋め込まれた何かがある。

 まるでカードキーを守る番人のように描かれたそれは正に私たちが探しているものそのものだ。

 とはいえ、この生物が何処にいるのかが問題なんですけどねぇ。


 うーんと考え込んだところでひょっこりと後ろから空が顔を出す。



「鍵の場所?」


「はいです。恐らくこの軟体生物さんが持っていると思われるのですが、何処にいるのか分からないのです。」



 なるほどと呟き、ポンっと手を叩く。どうやら思い当たる場所があったようだ。



「それならあっちにツボがあったよ。その中じゃないかな?」


「ツボ……?」



 ほらあっちと言われるがままに神殿の端の方を見る。そこには柱があり、真ん中辺りに展示されるかのようにツボが置かれていた。



「あ。本当ですね。正に蛸壺のようなツボ……。」


「確かに。何か結界も張られているみたいだし、解いてみようか。」



 神様の提案に頷き、お願いする。何処と無く元から知っていたような雰囲気がすることが気になったが、きっと気のせいだろう。

 結界にもっと早く気づいていたはずだろとか考えちゃダメなのです。


 ブンブンと頭を振り、余分な考えを捨て去る。神様は元からこういう人なのだ。今更どう言ったところで初めから教えてくれるなんてことにはならないだろう。

 神様はあくまでも私のガイドでしかないらしいですからねぇ。


 どうしようも無いことをつらつらと考えている間にも神様がツボにかかっているという結界を解く。

 瞬時にその場からニュッと縦に長いものが伸び、ゆらゆらと辺りを漂い始めた。赤黒く太いそれは普段見かけるものよりも生理的嫌悪感を見るものに覚えさせる。



「うーん。タコですかね?」


「でも、イカっぽいよ?頭とか。」



 出てきたイカともタコとも言えない生物に空と顔を見合わせて首を傾げる。

 ツボから完全に姿を現したそのイカタコとも言うべき生き物は全身が赤黒く長い足が8本、頭には三角のひだがついていた。

 下半身だけ見れば完全にタコなのだ。しかし、頭を見るとどう見てもイカである。混乱するしか無いだろう。



「いや、2人とも見てないで戦おうね?」


「え。あのメンツがやる気満々になっているのに私たちの出番ってありますか?」



 すっと指さし、既に戦闘が繰り広げられている前方を示す。そこには誰がどう見ても過剰戦力でしかないメンツがいた。



「〈母の寵愛〉」



 ガイアさんが唱えると同時に地面からツタが伸び、イカタコを地面に拘束した。イカタコは堪らず呻き声を上げるがただもがくだけでそれ以上のことは何も出来ない。

 それを見たニュクスさんが眉をしかめ、鞭を振るう。



「寵愛が束縛とは相変わらず重い方ですわ。〈最愛の抱擁〉」


「あはは!抱擁を八つ裂きって言うニュクスもニュクスだけどね!でも、そういう所も好きだよ!

 じゃあねぇ……〈ラブラブ!愛のフルパーティ〉!幸せい〜っぱいの弾丸フルコースだよっ!召し上がれ!」


「シャァアアアアアッ!?」



 可愛い名前にも関わらずまったく可愛くない攻撃に敵ながら憐れに思えてくる。

 いや、流石にあれは酷いと思うんですよ。拘束されて抵抗できなくされた上に足を八つ裂きにされて、更に銃弾に爆弾にと雨あられと言わんばかりに撃たれて穴だらけなんですから。


 あまりにもの惨状に神様も顔を引き攣らせる。その気持ちはよく分かった。



「あー……。確かにね。」


「あれはないですよねぇ。」



 うわぁと思いながらも見ていると、イカタコの真ん中辺りに青白い光が目に入った。

 魔力糸を伸ばし、掴み取ろうとするがすり抜ける。それならばと反魔力に切り替えるとなんとか掴み取る事が出来た。すぐさま引きずり出し、手に取る。

 やはりと言うべきかそれは鳥かごの形をしており、中にいつものカードキーが入っていた。

 それは真ん中に雫の形をしたサファイアが埋め込まれた青白磁色のカードだ。思わず見蕩れていると、その間にもイカタコとの戦闘は続いていた。……って、おかしくありません?


 過剰戦力であるはずの3人に5分以上の耐えている。その事実は間違いなく異常と言えた。

 どういう事なのかと観察するとどうやら傷を負わせたはしから回復して行っているようだ。ブクブクと泡立つ傷口が気味悪い。



「……。鍵、手に入れましたし、先に進みますか?」


「うん。足止めがあれだけいるなら大丈夫だよ。」



 頷く空に従い、3人に声をかけてから扉の先へと向かう。因みに、アイテールさんはこちらへと付いてきていた。向こうは怖いらしい。理由はあえて深く聞く必要は無いだろう。


 こうして向かった扉の向こう側には巨大な亀がいた。やはり手足と首に枷がついている。今回は次々と解放していく内に小さな男の子の影が見えてきた。

 淡い水色の髪に暗く深い海の底のような瞳をもつ何処か浮世離れした雰囲気の少年。この人がポントスさんなのだろう。

 残りがあと首輪だけとなった頃。ポントスさんは閉じていた口を開いた。その声はやけに幼く聞こえる。



『ずっと、うみをみてきた。』



 唐突な呟きに何を思って言っているのだろうかと思ったが、とりあえず聞き返すことにした。

 後はこの首輪を外してしまえば終わりだ。話を少し聞くくらいの余裕はあるだろう。



「海をですか?」


『そう。きみがさがしてるうみじゃない。

 でも、ぼくはしってる。』



 ひやりと背筋がこおる。何故この少年はその事を知っているのだろうか。海がこの世界に居ると思っているわけではなかった。それでも尋ねずには居られなかった。



「何処に、何処にいるんですか!?」


『それは……ぼくのおねがいをきいてくれたらおしえてあげる。』



 クスリと笑ったポントスさんは悪魔のように見えた。

次回、ポントスの願いと解放


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 三姉妹の蹂躙…愛とは耐えるものなのですね(・・;) でっかいカメさん。こういうのに乗って海を行くのもいいですね~♪ [気になる点] このイカ?タコ?みたいなのもしかして食べられる?  …
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