86話 物語は振り出しへ
こんにちこんばんは。
眠たいので早めに書くことにした仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
その後、論点はどうしてタルタロスさんがそんな事をしたのかということに移っていったが、結局、答えらしい答えなど得られる訳もなく、時間が過ぎていった。私のログアウト時間が迫ったところで切り上げ、次からはニュクスさんたちも神様のお店にやって来ることになった。
どういった心の変化なのかと尋ねると、ニュクスさん達は顔を見合わせ、ニコリと笑ってただ我らが父の為になる行動をしたいだけだと言った。
その言葉に嘘偽りはないようで、それからほぼ毎日神様のお店で見かけるようになった。因みに、ニュクスさんは小さい姿ではなく大きい姿で訪れている。やはり大きい方がニュクスさんにとって安心するらしい。
ぼんやりとこれまでの事を思い出しつつ、私たちは次の目的地へと向かっていた。
「あそこが次の街ですか。」
しっぽの先にトゲトゲのついたアンキロサウルスのような魔物を倒しつつガイアさんに話しかける。
ガイアさんは凪いだ瞳で小さく見える門を見て頷く。
「そう。火山の街。ここにポントスが居る。」
結局、私たちは何回か話し合ったが、現状タルタロスさんのいる場所も分からないという事で、旧神を解放するのが早いだろうとまたダンジョン巡りを再開することになったのだ。
いつもの事ながら、どうやってその情報と確信を得るのか不思議だったが、本人曰く気配でなんとなく感じるとのことらしい。流石旧神と言うべきだろうか。
暫く歩き、ようやく門までたどり着いた。岩を削ったかのような門を見上げると、黒々としたそれは火山から立ち上る灰色の煙に覆われた空でも存在感がある。街の目印としてピッタリだ。
街中に入ると辺りは街の名前の通り火山地帯となっており、マグマが川のように流れる横に家が建っているのがなんとも不思議な光景だった。
よっぽど耐熱性に優れているのだろうとやや的はずれなことを考えつつ、目的地である冒険者ギルドまで歩いた。
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「ここが火山の街のダンジョンなんですね。」
感慨深く思いながらも辺りを見るが、そこまで劇的な変化は見られない。街の続きだと言われれば信じてしまいそうな程にそこは地上と似たような地形をしていた。
「ここは既にクリアされている場所だから、地図があるよ。案内は任せて。」
「お願いします!神様!」
ワクワクとしながら先を進むと、まるで火の塊のようなものが現れた。どうやらそれは溶岩の中から出てきたらしく、ポヨンポヨンと跳ね回っては二つに分かれたり一つに戻ったりと不思議な動きをしている。
そして、何を思ったのかピタリと跳ねるのをやめたかと思うと、そそくさとどこかへ去ってしまった。
「何だったんでしょう?」
「さぁね。とりあえず、先を急ごう。」
「まだまだ下。」
「うむ!ニュクス達の時よりも下から気配を感じるな!」
ガハハと笑うアイテールさんにうるさいとニュクスさんが蹴りを入れる。それをへメラさんが愉快そうにニンマリと笑っていた。
「あの3人は仲良しですねぇ。」
「……ごめん。アイテール。僕にはプティの勘違いを訂正できそうにないよ……。」
しみじみとした私の呟きに神様が後ろで何かを言ったが、私には聞こえなかったのだった。
何だったんでしょうね?
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時折出てくる火を吐く鳥や火をまとって突進してくる猪などを倒しながら進むと、徐々に周りが暗くなってきていた。最初は気のせいかとも思われたが、どうやら本当だったらしい。
気づけば辺りにあったマグマは黒い塊に変貌し、出てくる敵も火を使うのではなく、石を投げてきたり、泥をかけてくるものへと変わっている。暗くなったのはマグマの明るさが減ってきていたからのようだ。
そして、現在、シャコのような敵と対峙していた。鋭いパンチを放ってくるシャコのそれを横に避け、空が回し蹴りを横っ面に叩きつける。その衝撃で飛ばされた先にはへメラさんがおり、手に持った二丁拳銃で頭を撃ち抜いた。
「ニュクスが出るまでもなかったね!」
「流石へメラね。私のためにありがとう。」
妖艶な笑みを浮かべるニュクスさんに何を思ったのかガイアさんは無言でパチリと指を鳴らす。
すると、ニュクスさんは小さな子どもの姿へと戻ってしまった。
「もう!何をするんですの!お姉様!」
「ニュクスは存在自体が危険だから力を抑えておくべき。」
「まあ!それは私の権能に嫉妬しておいでという事かしら?嫉妬は醜いとお姉様も知っておででしょう?」
「戦いたい時に戦えないのを阻止したいだけ。存在が迷惑になる。」
互いに一歩も譲らないといった2人だが、このやり取りは既に日常化していた。何故かガイアさんはニュクスさんを事ある毎に子どもの姿に戻してしまうのだ。
理由があるのか無いのかはさっぱり分からないが、何はともあれ仲が良いのはいい事だろうと気にしないことにする。
触らぬ神に祟りなし、ですからねぇ。余計な事に巻き込まれたくはないのです。
今はそれよりもと、空をクルクルと飛んでいるアイテールさんに話しかける事にした。
どうやらアイテールさんは出来るだけ宿敵とも言えるニュクスさんから離れようと涙ぐましい努力をしているつもりのようだ。
時折思い出したかのようにニュクスさんに鞭で地面に叩きつけられていますけどね。不憫なことです。
「あとどれくらいですか?」
「む?むぅ……おそらく、20層も潜れば到達するだろう。ワシは清浄な大気を司る故、ここではあまり力を発揮できんのだ。詳細を知りたければ大地を司る姉殿の方がよい。」
頭を下げて残念だと言わんばかりにアピールするアイテールさんからして本当のことなのだろう。ともあれ、おおよそでも分かるのはかなり凄いことだと思うのだが、上には上がいることが悔しいのかもしれない。
今は30階層なので後20層程ですか。ポントスさんとはどのような人なのでしょうね。楽しみです。
ワクワクとしつつ神様の案内で10階層分進めるという大空洞を降りる。ここの大空洞は形が火山であるため、マグマの中へと落ちるようで初めは怖かったが、今ではもう大分と慣れてしまった。
そうして降りていると、やはりと言うかもう恒例となりつつある邪魔者が現れる。今回は二枚貝のようだ。
パカパカと開けては閉めてを繰り返す貝殻の内側にはビッシリと牙が生えており、挟まれると痛い所では済みそうにはない。
アイアンメイデンの貝バージョンといったところでしょうか。なんとも物騒な貝も居たものですね。
うわぁとなんとも言えない表情を浮かべていると、すぐさまニュクスさんが手に持つ鞭をしならせ、貝を拘束する。そこへへメラさんが銃を撃つが、貝殻がよっぽど硬かったのか、撃ち抜けない。
「えー。この銃、借り物だけどそこそこいい物なんだよ?」
貫通しないとか硬すぎと言いつつ、再び銃を構える。ニヤリと笑ったへメラさんは銃に魔力ではない何かをこめ始めた。あれが神気というものなのかもしれない。
「〈サンサンスーパーフラッシュ〉!」
技名はともかくとしてその威力は流石と言うべきだろう。金色に光り輝く銃弾は貝殻を突き破り、大空洞の壁にまで到達した。
しかも、ただ当たっただけではない。尚もそれ以上突き進もうとする銃弾は何かに弾かれて止まったようだ。
不思議に思い、その向こう側を覗こうとするがその前に空に肩を掴まれた。
「姉さん。先に進もう。」
「えー。でも、気になりませんか?あの先。」
「ダメだよ。プティ。もう結構時間を使ってしまったし、急がないと。」
空だけでなく神様にまで止められては仕方がないと先へ進むことにする。
その横ではへメラさんが普段の愛らしい雰囲気からは考えられない程に顔を歪ませていたが、それを私が見ることは無かった。
「やはり、女子は怖い……。」
「何か言ったかしら?兄さん。」
「い、いや、なんでもない!なんでもないぞ!」
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40階層にまでたどり着き、ガイアさんがあと10階層だと言ったことでポントスさんは50階層にいることが分かった。
丁度その頃、周囲に更なる変化が起きていた。
「もはやここ、火山ではなく海底神殿とかではありません?」
そう。マグマが消え去り、代わりに辺りは海に包まれるようになったのだ。まさに真逆と言ってもいい環境に初めはどうしたものかと思ったが、そこはアイテールさんの出番だった。
海の中でも活動できるようにと体の周りに結界を作ってくれたのだ。尚、輪っかでしかない空と私は海の中でもなんら問題なく活動できるかと思われたが、そこは人形であるため、あまり浸かりすぎると錆びるらしい。
躊躇なく入ろうとした私を止める神様の顔といったら愉快でしたけどねぇ。
思わずその時の光景を思い出してクスリと笑うが、ガイアさんが説明しだしたため、慌てて口元を引き締めた。
「ポントスは海を司る旧神。その力は海の中でこそ発揮される。」
「しかり。ポントスの力がここに影響しておるのだろう。
海はアヤツの領域。海のことで知らないことは無い程だ。」
「うんうん。アタシがうっかり海で大量のお魚を食べちゃった時も後で怒りに来たくらいだもんね!」
「いや、それは当然だと……」
「どうしたのかしら?アイテール兄さん。」
「な、なんでもないぞ!」
ガハハっと誤魔化すように笑って神様の後ろに隠れる鷲はなんとも奇妙な光景に思えたが、もはや今更だろう。
……神様を盾にするなんていい度胸なのです。
内心で苛立ったが、それこそ今更だろうと気にしないことにした。器の小さな人になる気はありませんからね。……とは、思ったが、やはり苛立ちが収まることはないのだった。
「えいっ!〈魔力糸〉!」
憂さ晴らしに襲いかかってきた刃のような牙を持つサメを魔力糸でぐるぐる巻きにしておく。
「あれ?トドメを刺さないの?」
神様が不思議そうに私を見ていたが、あえて答えないでおく。襲いかかってきた敵であっても、見逃すのは初めてではないため、勝手に納得するだろう。
恐らく、この光景もポントスさんという旧神には知られている。出来るだけ殺傷は控えようと決心しながら先へと急ぐのだった。
海の神様というお話ですし、怒らせるのは厄介でしかなさそうですからね。
「おー。かんのいいこ。あのこなら……。」
次回、ポントス
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




