85話 説明は簡潔に
こんにちこんばんは。
また遅刻した仁科紫です。
寝たら遅れると分かっていたんですが、睡魔に抗えませんでした……。申し訳ないです……。
それでは、良き暇つぶしを。
「……と、まあ、こんな所かな。」
そう言ってへメラさんは無邪気に笑った。
あの後、ヘラりと笑ったへメラさんにもう1匹の猫が近づいてきたかと思えば、上から伸し掛ってポカポカと叩き始めた。それは丸みを帯びた耳を持つ黒い猫であり、恐らくこの猫がニュクスさんなのだろうと察せられた。
そして、今に至るまでの事情説明をしてもらっていたのだが、この間もずっとニュクスさんはへメラさんの上に乗っていた。しかし、へメラさんはそれを仕方がないなぁの一言で済ませ、好きにさせている。正直、どちらが姉なのかさっぱり分からない光景だったが、二人が良いのならそれで問題は無いのだろう。
なんでも、へメラさんが言うにはこの状況は自分たちにとっても不服であり、暴走している人達には了承を得て手当り次第に猫に変えている最中らしい。そして、ここのキャストとして働かせているのだと言った。
信者が増えた理由については神なのだから当然だという主張のみであり、それ以上の話は聞けなかった。これに関しては謎が残るが、話すつもりがさらさらないようだ。
因みに、どうして猫なのか聞きましたが、それ以外には変えられないからというお言葉を頂きました。少し猫たちが可哀想に思えましたが、近くで働いている猫たちは意外にも楽しそうなので良いんでしょうね。
ぼんやりとそんな事を思いつつ目の前で人へと変化したニュクスさんとへメラさんを見る。
ニュクスさんは黒のような紺色の長いストレートの髪に星が散ったようなキラキラと輝く夜空の瞳を持ち、大人の妖艶さを醸し出している。
その一方のへメラさんはというと、太陽のようなキラキラとしたオレンジがかったショートの跳ねた金髪に晴れた空のような空色の瞳を持っており、子供らしい無邪気な印象を受ける。
パッと見は正反対の2人だが、よく見ると顔の造形は全く同じであり、2人並べば姉妹といようよりも親子のようだった。表情だけでここまで違って見えるというのも不思議な話である。
「ねぇねぇ!お姉さんどうしたの?
さっきからアタシ達をジーッと見てるけど、もしかして見惚れちゃった?」
笑いながらも何処か警戒するかのように尋ねるへメラさんにやらかしたとすぐさま首を振る。とんでもない誤解はして欲しくないと言葉を綴った。
「いえ。ただ、同じ顔なのに受ける印象が違いすぎて驚いていただけです。
不快にさせたようで申し訳ありません。」
「ああ!そういう事!それなら良かったー!」
ヘラヘラと笑って、もしニュクスに悪い虫がついたらどうしようって思ったんだ!と無邪気に言うへメラさんに冷や汗をかく。その目は笑っていなかった。
どうやら、へメラさんがニュクスさんのことを愛しているというのは事実らしく、その愛は家族愛にしては度を越しているようだ。
うーん。まだ若干、疑われているようですし、もう少し訂正しておきましょう。
「えっとですね。私は神様という大事なお方が居るので、ニュクスさんをとることはないですよ?というか、有り得ません。
あの方、とても危険な雰囲気があるので私にはとうてい手の届くようなお方ではありませんし。」
少々言い訳がましかっただろうかと不安に思ったが、それを聞いてへメラさんの目から真剣なものが消えたのを確認し、ホッと息をつく。私の言葉を信用してくれたようだ。
「おおー!ニュクスのこと、分かってるね!お姉さん素敵だよ!」
キラキラと目を輝かせ始めたへメラさんはニュクスはねぇと話し始める。
それに耳を傾ける一方でニュクスさんがガイアさんに話しかけられていたのを目の端でとらえた。
「ニュクス。対応が遅いの珍しい。」
「お姉様。……まあ、そういう事もありますわ。
下等生物のせいで力がまだ戻りきっておりませんもの。」
やれやれと首を振るニュクスさんにガイアさんは眉をひそめ、そうとだけ呟いた。ガイアさんが何を考えているのかは分からないが、苛立つ雰囲気を感じる。意外とガイアさんは妹思いなのかもしれない。
「その割には姿は変わらない……ん?ハリボテだった。訂正する。」
唐突にパチリと鳴らした指にどうしたのかと視線を向けると、みるみるうちにニュクスさんの姿が縮んでいく。
横を見るとへメラさんがあー……となんとも言えない顔を浮かべて頬をかいていた。
どうやらへメラさんは知っていたらしい。
小さくなったニュクスさんは呆然としていたが、自分の姿を確認した途端、キッと目を釣りあげてガイアさんに抗議しだした。
「お姉様!なんてことをしてくれましたの!」
「そんなに大事だった?」
「大事ですわ!私のアイデンティティですのよ!
ただでさえ、私の力の元である愛が足りませんのに!」
おいおいと泣き真似をするニュクスさんにガイアさんは冷たい目線を向ける。表情から読み取るに、何言ってんだこいつと思っていそうだ。
そこへ隅っこで頭を抱えていたアイテールさんがそろりと顔を上げ、ニュクスさんを見る。
「いや、ニュクスの場合、力の元はただの肉欲……」
「愛!よ!間違えるんじゃないわ!この馬鹿鳥が!」
「す、すまん。しかし、ワシとてニュクスの兄だぞ?もう少し……」
「はい?少し先に生まれただけで偉そうにする気かしら?有り得ないわ。」
フンっと鼻を鳴らすニュクスさんにアイテールさんは何処か遠い目をし、やがて諦めたのか肩をおとした。
アイテールさんはやはりニュクスさんには勝てないらしい。
そこでふと疑問に思ったのはどうしてニュクスさんはガイアさんには敬語なのにアイテールさんを敬わないのかだった。それ相応の理由があると思うんですよねぇ。
「それはね。神々の序列って奴が関係しているんだよ。」
「空。教えてくれるのは嬉しいですが、考えを読むのはやめてくださいって!」
序列とはなんの事だろうかと思いつつ、ここは訂正しておかねばと何度目になるか分からないやり取りをする。空は苦笑いを浮かべ、でも聞きたかったでしょ?と笑いながら言った。
まあ、確かに聞きたかったと言えば聞きたかったですけどね?流石にプライバシーは守って欲しいのですが……まあ、空ですしね。もしかしたら私の思考を読みたくなくても読めてしまうのだったらどうしようもありませんし。
やれやれとため息をつき、質問をすることにした。
「序列ってなんですか?」
「序列っていうのは神様ランキングの元となったものだよ。」
「えっ!?そうなんですか!?」
驚きから空を凝視すると、空がくすくすと笑って頷く。確かにそういった元となるようなものがあってもおかしくはないと思うが、それにしても露骨過ぎるだろう。
そう言えば、ニュクスさん達はアンチファミリアなんでしたっけ。その辺も含めて事情を聞きたいところですね。
「うん。だから、システムもだいたい同じだよ。」
「へぇ。つまり、信者の数によって上下関係が決まるってことですか?」
「そういう事。そして、ガイアは序列だけで言うとかつての2位。ニュクスが6位でへメラが7位。そして、アイテールが11位だったんだ。ここまで言えば分かるだろう?」
空の言わんとするところを察し、頷く。どうやら序列というのはそれ程までに大事なものだったらしい。
ガイアさんが2位だったと言うのなら、1位は誰だったんでしょうね?
ふとその思考が過ったが、そこでようやくガイアさんとニュクスさんの言い合いが終わったらしく、へメラさんがニュクスさんの元へ走っていく。
小さな2人はやはり顔がよく似ており、見分けはつくものの髪と目の色を入れ替えれば見分けがつかなくなるだろう。
対のお人形のような2人を見据え、今まで黙っていた神様が口を開いた。
「そろそろちゃんと話してもらうよ。
2人は信者に何を吹き込んだんだい。それに、どうして封印されていたのかについてもね。」
嘘は許さないと言いたげにジッと1人用のソファに一緒に座るニュクスさんとへメラさんを見つめると、やがてため息をついて口を開いた。
「お父様には敵わないませんわね。」
「仕方がないよ。ニュクス。だってパパって分かっていて聞いてくるような性悪だよ?隠す方に無理があったんだって。」
「ふふふ。それもそうね。
私たちはただ事実を教えただけよ。本当の神は私たち。ファミリアというのは私たちの後釜に収まっただけの簒奪者。彼らがその話を聞いて何を思ったのかなんてことは私たちには関係ないわ。」
可笑しそうに笑うニュクスさんは今度はすんなりと話し始めた。もしかしたら、また煙に巻くつもりだったのかもしれない。
それにしても、へメラさんの言い分が少し気になりますね。神様が分かっていて聞いているなんて……まあ、有り得そうなんでなんとも言えないんですが。つまり、このやり取りは私に聞かせるためだけだと考えられるんですよねぇ。なんと言うか……
「神様って大変ですね。ドンマイです。」
「えっ。急に何?」
不思議そうな神様の言葉に首を振り、どうして封印されたのかという説明をしだしたニュクスさんの話に耳を傾ける。
「私たちが封印されたのはバカ兄様のせいよ。あの人が私たちを嵌めたもの。」
ニュクスさんは忌々しげに呟き、へメラさんはそんなニュクスさんを心配げに見ていた。そして、背中をトントンと叩くへメラさんにニュクスさんは大丈夫だと淡い微笑みを浮かべた。
何度見ても思うが、この2人はやはり言葉に言い表せないような絆のようなものがあるように感じる。少し、羨ましいですねぇ……。
何処からともなく湧いてきた寂寥感に空を見る。空はまるで分かっていたかのように私の方を見てニコリと微笑んでくれた。
それによって少し安心し、話に集中する。丁度神様がニュクスさんにそのバカ兄様とは誰なのか尋ねていた。
その答えは実にあっさりとしたものだった。
「タルタロス兄様よ。」
「へぇ。冥府と奈落の神、ね。理由は分かるかい?」
「いいえ。でも、あの人の事だから何か理由はあるのでしょうけど。
それに、エロス兄様も関わっているように見えたのよね。」
「そうそう!エロスにぃが関わってるってことは、悪ふざけの可能性もあるけど、今回は大規模だもん!
そんな事はエロスにぃはしないよ!だからきっと理由があるんだよ!」
へメラさんはその空色の瞳を曇らせながら強く主張し、ニュクスさんに同意を求めた。ニュクスさんはというと、疑う様子もなく頷いているため、きっと事実なのだろう。
こうして、少し分かった事実と更に深まった謎によって余計に分からなくなるのであった。
うーん。結局、タルタロスさんという方が悪いということで良いんでしょうかね……?誰か説明求む!です!
次回、当事者は何処へ?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




