9話 進化は唐突に
こんにちこんばんは。
ようやくステータスお披露目回の仁科紫です。
展開が遅い?…いつもの事ですね!
次回更新は本日の12:00となりますのでご注意ください。その後は通常通り、0:00更新の予定です。
それでは、良き暇つぶしを。
ようやく開放された私は、店のカウンターの上で神様から貰った鏡と睨めっこをしていた。神様は店内の清掃をしている。
口角を上げて想像通りの笑顔を作ってニコッと笑うと、目の前にある綺麗なお人形も理想の笑みを浮かべて笑う。大変可愛らしくてニマニマとしてしまう。顔には出していませんがね!
『うん。上手くできるようになりましたね。後は、3箇所同時に動かせるようになると良いのですが…。』
糸を分裂させてもう一本作り、背中で翼を描く…が、途中で糸が絡まり、思い通りに動かなくなる。
その様子を見ていた神様は清掃の手を止めて私に話しかけた。
「うーん。そうだね。そろそろ出来そうなんだけど…一度、やり方を変えてみるのもいいと思うよ。」
ふむ。そういえば、このやり方以外にも方法ってありそうですよね。今はただ紡いだ糸を頭の上から出しているだけですし…。ちょっと考えてみましょうか。
元々動かす時にイメージしていたのは操り人形でした。そこから考え直してみましょう。
操り人形…本来はコントローラーと呼ばれる組んだ木と人形を糸で繋げて操るもの、なんですよね。
今までは脳から直接魔力の糸を結びつけていました。魔力を撚りあげる工程というものはありましたが、太さ等は均等ではなかったのです。つまり、そこでかなりのロスがあったと考えられますね。よって、今目指すべきは均等な糸を常に出すことの出来る方法という訳です。
ここで問題になってくるのは、直接出す糸では限界があるということです。その時その時の感覚によって出来る糸は異なるので…予め糸を制作し、コントローラーに巻き付ける。そして、必要なときにコントローラーから糸を引き出すという方法を目指すべきなのでしょう。
後はコントローラーの見た目をどのようなものにするか…背中の翼…あ。そうです!では、輪っかにしましょう!そうすればまるで、天使様のお人形ですよ!きっと神様も気に入ってくださることでしょう。うんうん。
それでは、実践です。まず、頭上に輪っかを思い浮かべ、魔力の糸を何重にもぐるぐる巻きにして一つに巻いていく。更に、草冠を作るように縦にも巻いて…って、あれ…?どうしてだか眠く…?
「っ…!?……!」
何やら神様が驚いた様子で何かを言っているように聞こえましたが、私は為す術なく深い眠りへと誘われるのでした。
こんなに眠い事って、あるんですね…。
□■□■□■□■
目が覚めると何故か正面だけでなく、私が置かれている場所まで見えることに気づく。
……え。はい?…あれは、私のはず…ん?何やら浮かぶイメージをするだけで自分が浮かぶようなそんな不思議な感覚がするのですが?
とりあえず、どういう事なのかと状況を把握しようとすると、扉の前に神様が立っていることに気づいた。どうやらここは神様の自室だったようだ。見覚えのある場所にホッとしながらも近づいてくる神様に挨拶をする。
『あれ?神様。おはようございます。』
「おはよう。体調は大丈夫?」
『はい。大丈夫ですが…あの、何が起きたんですか?』
……というか、私、お人形さんから別の物体へとチェンジしてません?これ。よく見ると私が見えているんじゃなくて、私の視点が変わったみたいなんですよね。私という個体が何処にいるのかはさっぱり分からないので。
えっと、要は私がいるであろう一点だけは見ることが出来ないので、恐らくそこに私はいるんですが…うん。よく分かりませんね。
そこまで考えて実際にそんなことが有り得るのかと考えていると、神様は近くにあった椅子に座り、口を開いた。
「正直、僕も驚いているんだけど…君は進化、したんだ。」
……はい?
えっと?なるほど。進化ですか。それなら…え。進化…?ん?ちょっと待ってくださいね。進化進化…。うーん。
『なるほど。私は進化したから眠くなったんですね。』
「うん。そうだよ。」
へー。ほー。ふーん。
『…ところで、進化ってなんですか?』
「…そこからかい。」
『そこからですね!』
意味もなく体を震わせながら言うと、神様は問いに答えてくれた。
「進化というのは存在の強度を上げることなんだけど…あれ。そういえば、存在の強度ってなんなんだろう?」
『あれ?神様。実は神様も分かってないんですか?お揃いですね!』
…いや、問いに答えようとして逆に分からなくなっていた。一応、フォローしてみたがフォローにはなっていなかったらしい。神様はすっかり考え込んでしまった。
まあ、そうなりますよね。
私の知識によると、進化とは長い時間をかけて生物が環境に適応していく変化のことを言うらしいのです。
ですが、この進化はあまりにも唐突すぎます。しかし、それを進化と呼ぶ訳ですし…もしかして、何か変わったんですかね?視点も変わっていることですし、神様に尋ねてみましょう。
『私、何か変わってますか?』
「うん。そもそも人形じゃなくなってるからね。一種の形ある生命体になってるよ。見た目は光る輪…かな。
詳しく知りたいなら、ステータスを見ればいいんじゃないかな。」
『なるほど。ステータス…ん?ステータスってどうやって見るんですか?』
よく分からず、尋ねてみると神様は不思議そうに私を見ていた。
「えっ。説明していなかったっけ?」
『はい。私は知りませんね。』
私が頷くと、神様は顔に手を当てて呻くように声を上げた。
「あー…マジか。そんな大事なことも話してなかったとかほんと、何してたんだろ…。」
はぁっとため息をついて神様は気持ちを切り替えたらしい。
「えーっと、ステータスは…まあ、見た方が早いね。心の中でステータスオープンを唱えたら出てくるよ。相手とも共有したい時は端にある共有の欄から相手を選択すると出来るから、とりあえずやってみなよ。」
『分かりました!』
では、ステータスオープンっと。
ーーーーーーーーーー
名前:エンプティ
分類:人形族 種族:グラスリング Lv1
属性:無
HP 10
MP 200
STR 0
VIT 1
INT 20
MND 20
DEX 15
AGI 5
LUK 2
種族スキル
〈透明化〉〈魔力回復(小)〉〈浮遊〉〈魔力視〉
〈毒類無効化(中)〉〈立体視〉〈※人形憑依〉
※まだ対象が選択されていないため、使用できません。
スキル
〈魔力糸〉〈魔力操作(小)〉
固有スキル
〈■■■■〉
称号
【ソウゾウを超える者】【神様(?)を崇める者】
【水霊の友達】【糸の操者】
ーーーーーーーーーー
詳細情報
種族スキル
〈透明化〉
効果:任意で透明になれる。ただし、長時間は要鍛錬。
〈魔力回復(小)〉
効果:毎分MP5回復。
〈浮遊〉
効果:思念に従い、浮く。ただし、素早い動きは不可能。
〈魔力視〉
効果:魔力体であるため、魔力を視ることが出来る。
〈毒類無効化(中)〉
効果:毒、泥酔、火傷といった肉体的状態異常を無効化。
〈立体視〉
効果:周囲を360度見ることが出来る。
〈人形憑依〉
効果:人形に乗り移り、操ることが出来る。また、人形に宿る力も使用可能。
スキル
〈魔力糸〉
効果:魔力で糸を作る事が出来る。
〈魔力操作(小)〉
効果:魔力の操作を覚え、それなりに動かせる。
固有スキル
〈■■■■〉
効果:不明。神々からのギフト。
称号
【ソウゾウを超える者】
効果:不明。神々から目をつけられやすくなる。
【神様(?)を崇める者】
効果:神様(?)の位置がなんとなく分かり、相手からも把握される。
【水霊の友達】
効果:仲良くなった水霊を召喚できる。
【糸の操者】
効果:糸の操り方が上手くなる。
ーーーーーーーーーー
…うん。まずはちょっとツッコミを入れるところから始めましょうか。特に、STRのところ…!STRって力っていう意味ですよね?知識がそう言っているのですが、さすがに0は酷くありません?
いえ、何やら輪っかだけになっているっぽい私が言えることじゃないですけど…やっぱり酷いですよね!?
ついでに言いますけど、HP10とかもはや何かに一発当たったら終わりでは!?…まあ、1とかじゃないだけマシということに…出来るかぁっ!出来ませんよね!?
はぁ…。…まあ、さっきからやたらと浮きそうなのは〈浮遊〉というスキルのせいであるのは把握しました。あと、360度に意識を向けると見ることが出来るのはこの〈立体視〉とかいうスキルが原因っぽいのも理解なのです。
そうして脳内でツッコミを入れつつ確認をしていると、恐る恐る神様が話しかけてきた。
なんで恐る恐る…って、ああ。今日は何だかんだと神様に強く当たっているせいですね。納得です。
「ステータスで何か気になるところでもあった?けっこう長い間、固まっているみたいだけど。」
『…STRが…。』
「うん?STRがどうしたの?」
『STRが0って何かのバグですか!?』
「いや、ステータスにバグはない…って、0!?」
えっ!?いや…っと何やらたじろいでいる神様には悪いが、これは事実なのである。
私だって嘘だと思いたいのですよ…。神様の言い方的に事実なんでしょうけどね!
とりあえず現実を受け止めることにし、すぐに見つけることが出来たステータスの共有欄から神様を指定する。
別に見られて困るものはありませんからね。いっその事、称号欄でも目にして固まればよいのですよ…!
その意志を込めてポチリと魔力糸で押すと、すぐさま神様の目の前に現れたようだ。
急に現れたそれに驚くというより、困惑した顔で見ている。
「えっ。あのさ。これ、個人情報だからそう簡単に見せるものじゃないと思うんだけど…。」
『分かっていますよ?』
おかしな神様ですね。分かっていて見せているんですが。
体を傾けながらそう言うと、神様はますます困惑した様子で私を見た。
「なら、どうして僕に見せてるの?」
『むしろ聞きますが、神様以外に見せれる人がいると思います?』
「いや、だからなんで僕…まあ、他に知り合いなんて居ないだろうからそれもそうなんだけど…。」
そう言って神様はグダグダと今の私と神様の関係性について説明し始めた。やれまだ知り合って一日と少しだの、少しは警戒心を待った方がいいだの…うーん。…面倒臭いですね。
早々に聞き飽きた私は神様の言葉を遮り、口を開く。
『良いですか?神様。既に私は神様にそれなりに懐いてしまっている小動物のようなものなのです。
故に、今更「森にお帰り。」なんて言われても困るんですよ。分かります?』
「…つまり、君のチュートリアルを担当した時点で君の保護者になったも同然ってこと?」
『はい。そういう事ですね。』
私が頷くと神様は今の状況を理解して少し後悔したのか、何処か遠くを見つめていた。やがて苦笑いになった神様は私に話しかけた。
「それなら、仕方がないね。」
『はい。仕方がないのです。なので、責任取って色々教えてくださいね?』
にこりと笑いかけるつもりで神様を見た。
すると、神様は苦笑いのままだったが、頷いてくれた。
「勿論。それが僕の仕事だからね。」
…きっちり線引きをしながら。
ふ、ふふふ。これ、キレてもいいですかね?さすがにここまで懐いてますよアピールをしている私にその言い草とは…幾らなんでも酷いと思うのです。
(以下、神様への想いを綴る…読み飛ばし推奨…)
だいたい、もはや神様が居ないと私はやっていけないレベルになりつつあるのですよ。勿論、ウンディーネさんというお友達は居ます。でも、そこに神様がいないなら私の存在理由なんて皆無なのです。なんでここに居るのかもさっぱり理解不能です。私がここにいる為には神様という存在が必要不可欠なわけで…それは他の誰でも良かったのかもしれませんが、私が目覚めてから初めて見たのは神様なのです。雛の刷り込みのようなものなのですから、そこは責任を取るというのが筋だと思いません?なんでこの人はすぐに予防線を張るんですかね?ちょっとくらいは『頼ってくれてもいいんだぜ?』くらいの漢気を見せて欲しいと言いますか。まあ、そこも神様らしいのですがね?しかしながら、もう少し安心して身を任せられるくらいになってもらわないとこちらとしても身の振り方に困るというものなのですよ。だからこそ…はぁ。いえ、落ち着け、なのです。ここで怒っても理解されない可能性の方が高いに違いありません。ならば、ここは聞き分けのいい子のフリをする方が圧倒的に良いはずです。
(神様への想いEND)
神様に対する想いのあまり、一瞬で多くの考えが過ぎ去って行ったが、何事も無かったかのように話しかけた。
『なら、早速教えて貰えますか?
この〈人形憑依〉についてなんですが。』
「ああ。それなら、君が使っていたアレを使ってくれたらいいよ。元は君のために作った人形だからね。」
なるほど。と頷き、早速〈浮遊〉により人形の上まで飛んでいく。魔力糸で絡めとると、いつものように魔力を人形に浸透させるだけで視点が人形のものになった。
「こんな感じですかね?…って、あれ?口から声が出てます?」
「うん。出てるね。憑依したからかな。出来なかったことも出来るようになったみたいだ。」
おおー!やりましたね!遂に念願の声ゲットです!
神様の言葉に嬉しくなって机の上をパタパタと走り回る。
きちんと動く手足に嬉しくなってその場でぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「見てください!神様!ちゃんと動きますし、軋みませんよ!」
「良かったね。」
そうしてしばらくの間、私は動き回り、神様はそれを見守っていたのだった。
次回、記憶
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2024/09/07 02:54 寄りあげる→撚りあげる に訂正する誤字報告を適用しました〜
よりあげると打つと、寄りあげるが出てくるんですよね……。調べてから書くのって大事ですね...( = =) トオイメ
報告していただき、ありがとうございますm(_ _)m