84話 本題はこれから
こんにちこんばんは。
大変遅れまして申し訳ない仁科紫です。
気づけば3時間ほど寝ていまして……間に合いませんでした……。
それでは、良き暇つぶしを。
16店舗目はデカ盛りカフェ。こちらは想定通りデカ盛りを時間以内に食べ切るというものだった。正直、幾らでも食べれるこの世界ではそんなものは存在しないだろうと高を括っていたのだが、そうは問屋が卸さなかった。
「な、なんです……!?この大きすぎるものは……!?」
そのあまりにもな巨大さに驚愕し、見上げる。それは余りにも巨大なハンバーガーだった。
何段にも積み上がったそれは計十段。しかし、120センチある私と同じくらいのサイズ感であると言えばそのおかしさは察することが出来るだろう。一段一段の大きさがおかしいのだ。バンズが上下に一枚ずつとハンバーグが2つ。間に巨大な一枚のレタスを挟み、何の卵なのか聞きたくなるほど巨大な目玉焼きが一つ。さらに玉ねぎを厚切りにしたもので一層。何か分からない揚げ物が二つに分厚いベーコンが一つ。オマケにチキンをどんと乗せたそれはあまりにもの大きさに首が痛くなりそうな程だ。
そこまで考えてふと悟る。ああ。これは味が飽きちゃうか顎が痛くなるやつですね、と。
……あれ?でも、よく考えると私ってその辺、関係ありませんよね……?
唐突にピンと来た思考回路で輪っかの口を少々強引に開き、ハンバーガーを丸々収めようとする。
「あーむっ。」
「えっ。プティ。それ入るの!?」
呆然とする神様の隣でなんとか入ったハンバーガーをジュワーッと消化し終え、お店の人の顔を見る。そこには信じられないと目をまん丸にさせた店員さんが居た。
「こ、こんな短時間で食べきるだなんて……!?」
「いや、突っ込むところそこじゃないよね!?食べ方!食べ方の方だから!普通!」
神様が何やらツッコミを入れているが、そこは気にしない。
どうやらこれでクリアとなったらしいこの階を過ぎ、次の階へと進むのだった。
尚、ガイアさんもその隣でパンケーキの大盛りに挑戦し、あっさりと食べきっていたとだけ記しておこう。……あれは、本当におかしい食べっぷりでしたねぇ。
□■□■□■□■
その次の階は何処にでも見かけるようなネカフェだった。試練も適当に仕舞われた漫画本を片付けるというものであり時間がかかったが、特筆すべき点はなかったため、ここでは省く。
長かったカフェ巡りも残り三つとなった18店舗目。そこは何やら怪しさただよう金属で出来た扉になっている。
看板には『ハピネス研究室』と書かれており、一見カフェには到底見えない。しかし、記載されている情報にはドリンクやフードといったものがあり、ちゃんとカフェになっているようだ。
「ここはどういったカフェなんでしょうね?」
「研究所がテーマみたいだけど……。僕達がどういう設定で放り込まれるのかが気になるところだね。」
神様の言葉に頷き、扉の横に設置された赤い開くボタンを押す。
すると、ジリリリッと音がなり、扉が開いた。中からは白衣を着た黒縁眼鏡の女性が出てくる。
「はい。貴方達が新しい実験台ですね。注意事項は読みましたか?」
どうやら私たちは実験台という設定のようである。つまり、これから何かの実験を受けるのだろう。
とりあえず、いいえと返事をし、成り行きを見守る。
こちらへ進んでくださいと言われるがままに進み、軽くここでの説明を受けると、やはり自分で選んだ食べ物や飲み物の治験を受けるという設定らしい。
安全ですのでご安心くださいと言った店員さんはフエッフェッフェと謎の笑い方をしており、すごく怪しい。……私、それよりも笑ったタイミングでキラリと光る眼鏡に興味があるんですが。
「何か用ですか?」
うずうずとしていると、不思議そうに首を傾げられてしまった。どうやら態度にまで出てしまっていたらしい。
慌てて首を横に振るとさっそくテーブルへと案内される。
用意されたメニュー表には薬のようなラムネや飲み物。チョコパフェとチーズケーキを混ぜたかのような食べ物なんかもある。
ふむふむ。これなんか良さげですね。
ラムネと炭酸のジュースがセットになったものなのだが、飲み方が変わっており、炭酸のジュースにラムネを入れるというものなのだ。どこかで似たようなものを見た気もするが、どうせならば実物を見てみたい。
楽しみに待つこと数分の間にまた研究員の服装をした女性がやって来た。なんでも、限定で行われている臨時の実験参加しないかという事だ。
どうせこれに参加しなければ先へは進めないのだろうと頷き、内容を聞いた。
「実は、この雷発生装置なんですが、威力がまちまちで安定しないのです。なので、皆さんにその原因を調べる調査を手伝って頂きたいと思います。」
「あー……これ、よく言うビリビリのやつですね……。」
うわぁと思いながらそれを見る。機械的な丸い物体はテレビで見るようなものよりも明らかに電気を発生させそうであり、なんとも触りたくない。
ジーッと見つめてどうしようかと思っていると、アイテールさんが唐突にペシッと翼をうちつける。
途端に流れる電気にアイテールさんは包まれた。……えっ。これ、包まれるレベルで電気が流れるんですね!?
「アイダダッ……!?」
なんとも痛そうな声を出すアイテールさんに触らなくて良かったと思いつつ、感謝しておく。これで触らなくていいですしね。
電気が流れ終わり、アイテールさんが不思議そうにしきりに首を傾げる。
「むぅ。おかしい。ワシは雷耐性があるはずなのだが、痺れたぞ?」
「よく見る。それは痛覚を与える呪物。雷はただの演出。」
呪物だったのか!?と叫ぶアイテールさんにえぇ……とその丸い物体を見る。やはり絶対触りたくないなと思うのだった。
因みに、ラムネを入れた炭酸飲料は入れた途端に薄水色になって綺麗でしたし、泡がブクブクしているのも面白かったですね。
そうして次に向かったのだった。
□■□■□■□■
19店舗目は古民家カフェだった。古き良き雰囲気のそこは先程までいた研究室のような最先端の雰囲気とのギャップもあり、たいへん落ち着く。
掘りごたつに案内された私たちはメニューを見てどうしようかと考え込むことになった。
「鍋焼きうどんも大変美味しそうですが、やはりここは焼きおにぎりも捨て難いですね。
しかも、デザートも豊富ですし……!」
「飲み物も豊富だもんね。ボクもどうしようかなぁ。」
むむむっと眉を寄せて考える。そうして結論を出したのはこれだった。
「やはりおにぎり美味しいですね……!」
「味噌を塗ってあるのも美味しそうだよね。」
味噌を塗ってある部分を焦がされ、風味が際立つ。
味噌がピリ辛なのもいいですね!やはり焼きおにぎりにして正解でした!
お漬物も間に食べながら、むしゃむしゃと食べ進める。空は鍋焼きうどん。神様はほうじ茶ラテを頼み、アイテールさんは鴨ねぎ、ガイアさんは冷凍みかんにしていた。
「うむ!美味だな!これは!」
「シャリシャリして美味しい。ひと工夫で変わるのはビックリ。」
鴨肉を美味しそうに啄きながら話す鷲の姿は何処と無く山でお弁当を盗むカラスを連想させたが、言わないでおく。
林間学校に行った時とか、カラスにお弁当を食べられるから机の上に置いて何処かに行かないでくださいって書いているぐらいですからね。
なんとなくアイテールさんを見れなくなり、隣の空におにぎりを差し出してみる。
「空、少し味見してみますか?」
「いいの?じゃあ、少し貰おうかな。」
そう言って一口パクリと食べた空は頬を緩めて美味しいと呟いた。やはり、美味しいものは共有してこそですよね!
口元がニヤけるのを抑え、代わりに鍋焼きうどんを少し分けてもらう。味が染みているのにうどんのコシがしっかりしており、とても美味しかった。
また来たいですねぇ。……あれ?ふと思ったのですが、ここに来るとまた来たい場所が増えすぎる気が……ま、まあ、気のせいですね……?
□■□■□■□■
いよいよ最上階に当たる20階。そこはやはりと言うべきかなんと言うべきか、猫カフェだった。
にゃぁんと鳴いて近寄ってくる子や、ゴロンっと寝転がってこちらをジーッと見ている子。
ここまで来ると、周りにお客さんはおらず、私たちの貸切状態だった。どうやらこのビルは行きたい階層の1つ前までの階を全て一度は行かなくてはならないらしい。
つまり、全ての店舗をコンプリートされることはそうそうないようだった。
まあ、特に用事がなければ一日二日でここを全てクリアするなんて事する必要がありませんもんね。
そう考えながら先程からなんとも怪しい2匹の猫を見つめる。ドリンクには紅茶を選び、ストレートで飲んでいるが香りが良い。
「それにしても、初めに猫が出てきたのには驚きましたよ。」
「分かる。店員さんが出てくると思ったのにね。」
「だよね。なんで猫が給仕してるんだろって思うよね。」
猫は自由気ままな性質のはずなんだけど。と、不思議そうに呟く神様の視線の先にはエプロンを付け、二足歩行で歩く猫たちがいた。先程ガイアさんが注文したワッフルが届いたらしい。
大きな狐色にこんがりと焼けたワッフルは4分の1に切られ、綺麗に盛り付けられたそれにシロップとバニラアイスが添えられて美味しそうだ。
ガイアさんは大きめに切ったそれをパクリと頬張り、幸せそうに頬を押さえる。思わず私も食べたくなり、注文しようかと悩んだがそれよりも今は猫と遊ぶべきだろう。
せっかく猫カフェに来たのだからと近くまで寄ってきていた猫にジリジリと近づく。……が、やはりするりと躱して逃げられてしまう。
やはりダメだったかと肩をおとした所でとてとてと近寄ってきた一匹の猫がいた。
まるでライオンのような少し丸みを帯びた耳に先っぽがフサっとした尻尾。少し小型な猫は私の足に擦り寄ると、ナァンと鳴いた。
「そ、空……!私にも春がやってきたようです……!」
興奮のあまり空に報告すると、空はなんとも言えない顔で私を見ていた。そして、何かを言うか悩むような仕草をした後、口を開いた。……が、その前にガイアさんによって遮られることとなった。
「へメラ。貴方なりの善意なのは分かる。でも、後で悲しむのはその子。それくらいにしておく。」
「ありゃ。バレちゃった?」
子どものような高い声で猫はヘラりと人間らしく笑った。
次回、決着……かもしれない。
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




