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83話 カフェ巡りはまだまだ続く

こんにちこんばんは。

カフェ巡りがなかなか終わらない仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 さて。実はカフェ巡りを始めて何故か9階を超えた所から試練のようなものが増えていた。それが何故なのかは分からないが、厄介なのは間違いないだろう。

 ボードゲームカフェでは店長を倒すこと。病院喫茶では悪夢に打ち勝つこと。爬虫類カフェでは巨大なトカゲに乗って写真を撮ること。手芸カフェでは小物をひとつ完成させること。ちょっとした事ではあるのだが、その分今まで以上に時間がかかった感は否めない。


 日を改めて訪れた13店舗目。そこはアメリカンカフェだった。



「わぁ!なんともカラフルなお菓子がいっぱいですね!」


「……着色料凄く使ってそう……。」



 真っピンクに真っ青。原色そのままなお菓子たちは見た目からしても作り物めいており、感想として最終的に出てくるのは『体に悪そう』の一言だった。

 しかし、ここの試練は全種類のスイーツを食べきることなのだ。体に悪そうなんて言ってられやしない。

 ひとまず、全員で挑んでもいいという事だったため、カウンターにずらりと並べられているスイーツの中から気になるものを手に取って食べていく。

 片面をアイシングで覆われたカラフルな手のひらサイズのクッキー。虹色のクリームが乗ったカップケーキ。ただの砂糖の塊にしか思えない大きな渦巻きキャンディ。甘ーいピーナッツバターを挟んだビスケットなど、種類は実に豊富だ。

 しかも、これらはただ甘いだけではない。美味しいのは美味しいのだが、口の中の水分を奪い取るのだ。

 食べてはコーヒーを飲んでを繰り返すうちに徐々に口の中が麻痺していき、しまいには口の中が甘いことしか分からなくなって来た頃。最初の脱落者が出た。



「もう、無理だ……。」



 パタリと綺麗に横に倒れるアイテールさんは傍から見て気絶する鷲のようだった。あそこまで綺麗に倒れるのはなかなか至難の業だろう。

 元々甘党という訳でもないようでしたからね。耐性がなかったのでしょう。


 その後も続々と脱落者が増える中、ガイアさんは余裕そうな顔を崩すことなく食べ進める。それどころか、時折笑みを浮かべて食べ進めるガイアさん。

 凄いと思いながらも、もう甘いという味すらも分からなくなってきたところで私も脱落した。



「うぇ……。味が、味が無です……。」


「そこまで頑張らなくても良かったんだよ?プティ。」


「姉さん、ナイスファイト!」



 アイテールさんに続いて脱落した神様とそれから少し時間をあけて脱落した空は、少しばかりキツそうな顔を浮かべて項垂れる私に声をかけた。

 まあ、嬉しいんですけどね……。ちょっと今は返事するのしんどいです……。


 それに振り向かずのろのろと頷き、ガイアさんを見る。ガイアさんは最後の一個を美味しそうに食べ終えた所だった。



「ふむ。美味しかった。大満足。」


「そ、それは良かったです……。」



 あれだけ食べてもう嫌となっていないガイアさんに流石の店員さんも口元を引き攣らせ、なんとも言い難い顔で曖昧に頷いた。

 何はともあれ、これで先へと進めるのだ。早速次の階へと向かっていく。



「まだ食べたかった……。」



 ガイアさんの呟き声は聞かなかったことにした。ガイアさんの甘味好きを舐めていたようです……。



 □■□■□■□■



 甘さに胸焼けしつつ訪れた14店舗目は花がテーマのカフェだった。



「花とお茶のカフェ『garden』ですか。そのままですね。」



 外観からして如何にも花屋のような桃色の扉に白い壁、つる性の植物に覆われた屋根の装飾に軒先を彩る花々。

 まるで花畑の真ん中にポツンと一軒建っているかのようなその店は外から見ているだけでもワクワクとしてしまう。



「早く入りましょう!」



 カランカランという軽いベルの音を鳴らし、中へと入る。中は青空が広がり、花畑が広がっていた。遠くには巨大な桜の木も見え、ヒラヒラと花びらが散っている。



「わぁ!素敵です!」


「ふふふ。ありがとうございます。」



 穏やかな笑い声が聞こえ、そちらを見ると目を細めて笑う中性的な男性がいた。三つ編みにした亜麻色の長い髪をサイドに流した穏やかそうなその人は春らしく白いカッターシャツに薄緑のベスト、灰色のスラックスを身につけている。

 店員さんかと見ていると、その男性はにこやかに話し始めた。



「ご利用は初めてでしょうか?」


「ああ。そうなんだ。」


「では、ご説明させて頂きますね。」



 なんでも、ここでは白い塀の内側なら何処で寛いでもいいらしい。その為に必要なものは揃っているため、言えば提供するとのことだ。

 メニューも渡され、その中にはお弁当やデザートなどもあり、お花見も出来ればお茶会も出来るようになっている。デザートや飲み物類は花をテーマとしたものが多いのも特徴だろう。

 色々な客層にうけそうだと思いながら聞いていると、そこで男性が何かを躊躇った後、話を切り出した。



「……その。今、実はこの店ではとあるゲームが開催されていまして。」


「どんなゲームですか?」



 楽しそうなその提案に目をキラキラと輝かせながら尋ねる。あくまでも純粋な私の様子にホッとしたのか今度はすんなりと言葉を続けた。



「ええ。本物の花を探すというものです。」


「え!?これらは本物ではないんですか!?」



 驚きから近くにある花に触れる。しかし、ツヤといい香りといい、どこもおかしな点は見当たらない。

 ほかの皆も気になったのか近くにあった花へと触れて首を傾げていた。



「本物の花を見つけさえすれば私の言いたいことは分かるはずです。」


「……?」



 ・

 ・

 ・



 そういった経緯があり、本物の花というものを探して数十分。もちろん、花見はしたものの正直花探しの方が気になって気もそぞろになってしまった。

 桜のケーキ、美味しかったんですけどね。


 フワリとした甘さの広がる桜色の生地に苺のクリームとパリパリとした食感のいいチョコレートを挟み、シロップ漬けの桜がちょこんとのせられていたのが可愛らしかった。

 苺の風味が入っていても主役は桜って感じで凄く美味しかったんですよねぇ。お砂糖で胸焼けした後には丁度いい甘さでした。


 ニマニマとしつつ一本一本の花を見る。途中で気づいたのだが、ここの花たちは幾ら踏まれても折れない。それどころか、傷一つつかないのだ。不可解な現象だとは思っていたが、流石にここまで来るとおかしいだろう。

 つまり、本物の花は折ることが出来るはずなのだ。しかし、実際に全ての花を折る事は現実的ではないし、やりたくもない。イタズラには花を手折ることは到底好ましくは思えなかった。



「む!これだな!」



 そんな時、パタパタと翼をはためかせたアイテールさんが何かを見つけたらしく、嬉しそうに大声を上げた。

 ここまでいい所なしだったのを気にしていたのかもしれない。



「弟もたまには役立つ。」


「たまにはとは酷いな!」


「まあ、とにかく、見つかったんだから店員さんに話しかけよう。」



 今にも喧嘩しだしそうな二人の間に神様が入り、空もそれに続く。

 入口の方で折り畳み式の椅子に座り、本を読んでいた店員さんに話しかけるとニコリと笑った男性はご苦労さまでしたとだけ言って外へと出るように促された。

 その態度が少しばかり不可解だったが、気にしないことにした。さあ、次のカフェへ行きますよー!




「……本当は、偽物も本物もない、なんて言ったら彼らは怒ったでしょうか……。」



 ポツリとこぼされた言葉に返される答えはなかった。



 □■□■□■□■



 15店舗目は執事喫茶だった。メイド喫茶とは異なるヨーロッパの洋館を思わせる内装にビシッとした服装。

 神様が着たら似合うこと間違いなしのその服装に思わずウットリしていると、何やら冷たい目線を感じてそちらを見る。そこには神様と空が半眼で私を見ていた。

 どうしたのかと首を傾げてみるが、やれやれと首を竦めるだけでそれ以上何も言わない。ムスッとしたまま案内されたテーブルに着席するとメニューを開いた。



「おー。アフタヌーンティーセットなんてあるんですね。」


「どちらかと言うと今はモーニングティーだね。

 まあ、アフタヌーンティーセットの方が色々と食べれるみたいだけど。」


「いくら食べてもいいのがこの世界のメリットですよねぇ。」



 うんうんと頷き、アフタヌーンティーのセットを選ぶ。紅茶の茶葉も選べたが、ミルクティーの気分だったため、アッサムを選択した。

 そして、ここでも試練が課せられることとなった。



「利き紅茶、ですか?」


「その通りでございます。5つあるカップにそれぞれ異なる種類の紅茶を入れております。その中からアールグレイをお選び下さい。」



 ふむ。と頷き、ここは私がしてみる事にした。こと紅茶に関しては海の専門分野と言っても過言ではない。

 何せ、紅茶の味が分からない人間は要らないとばかりに紅茶に関しては幼少期から飲まされ続けてきたのだ。初めの頃は分からなかった違いも、中学生になった頃には簡単に判別がつくようになっていた。

 ……まあ、問題は私が分かるか、なんですけどね。


 海の記憶にあっても私に身についていない事が多いだけに不安に思いつつ、端から口をつけていく。

 香りと口に含んだ時のコクや甘み、渋みなどゆっくりと味わいながら特徴的なベルガモットの香りを探した。

 すると、これだというものを見つけて指をさす。



「これですね。」


「お見事でございます。では、ごゆるりとお過ごしくださいませ。」



 運ばれてきた食べ物やお茶に舌鼓を打った。どうやら今さっきのは商品提供までのミニゲームだったようだ。



「上手くいって良かったです。」


「味覚は流石にそうそう忘れないから安心しなよ。姉さん。」


「?そうですね。」



 ホッと一息つくと、空に何故かニコリと笑いかけられたため、不思議に思いながらも頷いた。

 うーん。思考が漏れていましたかね?


 とにかく、こうして想定よりも時間をかけながらも残り4分の1となったのだった。

次回、残りのカフェ


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] う~む、ガイアさんの甘党…恐るべし(・・;)全品目制覇してなお不足とは… 提案した身ですが驚きです。 アイテールさん、これ知ったらどんな顔になるのやら(;´Д`) [気になる点] ここ…
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