82話 試練は唐突に
こんにちこんばんは。
眠たくて誤字脱字チェックが甘い気がする仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
その後も次々とカフェ巡りを楽しむこと6時間。結局あの後回れたのは12店舗目までだった。
「きょうは今日はここまでですか……。」
「まだ回れた方かな。明日も頑張らないと。」
はぁ……っとため息をつく神様にこくりと首を縦に振る。そして、ここまでの道のりを思い出していた。
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ハリネズミカフェというハリネズミを可愛がれる6店舗目のカフェを後にした私達は、7店舗目となるハンモックカフェに訪れていた。
「ふぇ。ハンモックカフェ……ですか?」
なんとも魅惑的な響きにジーッと視線を送る。これは是非とも入店しなければと扉を開けると中の椅子は全てハンモックになっており、明るい雰囲気のオシャレなカフェだ。黄色やオレンジといった温かみのある色合いがユラユラと揺れるさまはなんとも惹かれるものがある。
店員さんに案内してもらい、メニューを見た。
メニューにはトロピカルなドリンクや南国のフルーツをふんだんに使ったパンケーキ、ロコモコといった南国気分を味わえるようなメニューが豊富に載っており、見ていて楽しくなってくる。
「どれにしましょうかねぇ。」
魅惑のハンモックに座り、もたれかかったり揺らしたりと足をブラブラさせてニマニマと笑いながらメニューを見る。ここはやはり南国風のフルーツが使われたものにするべきだろう。
メニューをペラペラとめくり、結果的に見つけたのがチョコバナナかき氷である。氷がフワフワなタイプのかき氷であり、白っぽいクリームとチョコレートソースが掛けられ、スライスされたバナナが周りを覆うようにのせられているのがなんとも美味しそうだ。
もちろん、実際に食べてみて美味しかったのは言うまでもない。白っぽいクリームはバナナのムース状クリームであり、フワフワとしていたのが更に美味しく感じた。
また行ってみたいですねぇ。次はマンゴーが良いかもしれません。
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9店舗目はボードゲームカフェだった。
いわゆる広義の意味でのボードゲームであり、カードゲームも含められるそれはなんとも豊富な種類が揃えられていた。変わった店長や美味しい飲み物のお陰で随分と盛り上がり、出るまでに時間のかかった場所だ。
『店を出たければボードゲームで店長に勝て!』
それがこの店のルールだと言われてから30分が経った頃。残念なことにまだ誰も店長には勝てていなかった。
「あれぇ?また僕が勝ってしまいましたわぁ。本気で勝つ気ありますん?」
ニヤニヤとメガネの向こう側で笑う店長にぐぬぬぬぬと悔しくて歯噛みする。
どうも胡散臭いこの店長はムカつくほどに駆け引きが上手く、一筋縄ではいかない人物のようだった。
私はチェス。神様はババ抜き。ガイアさんはリバーシ。アイテールさんに至ってはスゴロクを挑み、運で負けていた。あの時のアイテールさんの顔は忘れないだろう。
ギョッていう顔をしていましたからね。鷲がギョッとしたらあんな顔になるんだなぁとしみじみ思ったほどです。
思い出して内心でクスクスと笑いながら、ゲーム中の空を見る。空はポーカーを挑んでいた。
「んー?んー…全然分かりまへんなぁ。」
「何が?」
「あんさん、お顔がちっとも変わりはらへんからどうなんやろって思ってましてなぁ。」
「どうもしないよ。普通。」
「何それ!?普通が怖いって知りまへんの?うわぁ。どないしましょ。こんな強敵居るとは思いまへんでしたわ。」
頭をかいて本当に悩んでいる様子の店長は今までにないほど焦っているように見える。よっぽど手札が良くないのか、微妙なのかもしれない。
5枚のカードで役を作るこのゲームではどちらか片方がストップをかけるまではカードを変えることができる。ストップの宣言があれば、残りのプレイヤーは一度だけカードを変えることができるのだ。
今のところ、空は2枚カードを変え、店長は3枚カードを変えている。それで手札が良くなったのかは分からないが、次のターンでは空がカードを1枚。店長はカードを2枚変更した。
この間、先程のように話しながらではあるものの、空はひとつも顔色を変えていない。少しは滲み出ても良いはずの情報が全く出てこないことに店長は焦っていたのかもしれなかった。
どうなるのだろうかと見ていると、先に空がストップを宣言する。店長は悩んだ後、カードを2枚引き直し、カードを表にした。
「ハートの2、3、4、5、6……ありゃ。これは運良くストレートフラッシュですわ。申し訳あらへんなぁ。」
表示されたそれらに場の空気が固まる。ストレートフラッシュとは同じスートの連続した数字であることが条件の役であり、実質一番上の役のようなものだ。
なかなか出ないだけに最後の3枚を変えただけでこの役になったというのはなんとも凄い運であると思えた。
「へぇ。運良く、なんだ。それはとっても運がいいね。」
「そう思いはるやろ?あんさんの手札はどないですん?」
こうなって来ると気になるのは空の手札だ。店長に促されるように表にされたそれは……スペードの9、10、J、Q、Kだった。……おぅ。何故か勝てましたね。
役としては基本的に数字の大きいものが強いため、今回の場合は空の役の方が強くなる。
あともう少しでロイヤルストレートフラッシュであるそれに驚きながらも成り行きを眺めた。
「どうかな?ボクも結構運が良かったと思うんだけど。」
「……凄いなぁ。確かに、運がよろしゅうよう思いますわぁ。」
驚いた顔をしながらもヘラりと笑った店長は素直に負けを認めたようだった。
空に手を差し出し、空はその手を握って握手をする。流れからしてもう後は店を出るだけだと席を立った時、それが起きた。
何故か店長が空の手を離さないのだ。
空は一瞬瞠目した後、ニコリと笑って手に力を入れる。初めは余裕そうだった店長も徐々に苦しそうにし始め、しまいにはギブアップだと言わんばかりにテーブルを叩き始めた。そこでようやく空は手を離し、いい笑顔で何かを見せながら店長に話しかけた。
「ね?これ、無かったことにした方がお互いのためでしょ?」
「何時からでしたんやろ……。ほんま、恐ろしい人ですわ。あんさんは。
お引き止めして申し訳ありまへん。先へ行ってもろてよろしいです。」
その時はそれがなんだったかは分からなかったが、後から空に聞いた所によると、なんと彼はイカサマをしていたらしい。袖のところにカードを隠していたのは知っていたから直ぐに盗れたよとは空の言葉だ。
だからアイテールさんもあっさりスゴロクで負けたのかと思えば、あれは単にアイテールさん自身が弱かっただけらしい。
……今度、何かアイテールさんと勝負をしないといけない時はスゴロク勝負でも挑みましょうかねぇ。
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「ここは……?」
「どうやらナースカフェのようだね。」
なかなかに大変だったボードゲームカフェを出た私たちは白い看板に薄ピンクで飾りを付けた看板を前に立ち止まっていた。
『病院喫茶おぱぁる』と名付けられたそこは丁度半分の節目だからか、今までよりもより派手で妖艶な雰囲気を纏っている気がした。
なんと言うか、今までで一番入りにくいカフェですね。
躊躇いながらもそうしては居られないと勇気をだして白い扉を開く。引き戸だったそこの向こう側にはいわゆるナース服と呼ばれるものを着る女性が立っていた。ただし、裾は膝上だ。
「本日はどうされましたか?」
どうされたかも何も、カフェに来ただけなのだが、恐らくそういうセリフなのだろう。病院と言えば確かにこう聞かれる事が多いかもしれない。
「少し疲れてしまって。」
「ああ。それは大変です。病室にご案内しますね。」
咄嗟のアドリブなのかなんなのか、ニコリと笑って答えた神様に何故かイラッとしながら後ろを歩いていく。
見えてきたそこは病室をイメージしているらしく、白いソファは病室のベッドを小さくしたかのようだった。ソファの間に置かれたローテーブルは折り畳み式のものらしく、なんとなく病院らしさを感じる。
渡されたメニューを見てこれはなんだろうかと思いながらも見る。点滴注射という名のドリンクに病院食という名のフード。どうやら病院というコンセプトに沿った名前になっているようだが、どういうものなのか興味がそそられた。
「では、私はこのパンケーキにします。」
「いいね。僕はコーヒーを点滴注射してもらおうかな。」
……。凄くツッコミたくなったが、私はツッコミをしないのだと固い意思を持つ。
だって、コーヒーを点滴注射なんてしたら死んじゃいません!?有り得ないんですよ!言葉的に……!
ムカムカとしながらも注文を終え、先に飲み物が届けられる。
「お注射の時間ですよ〜。」
……イラッ。なんだかますますムカついてくるナースに、妙にデレッとしている神様。そこでおかしな事に気づく。
神様ってこんな方でしたっけ?私の知っている神様は寧ろ眉を下げて困惑したり、一歩下がったところでニコニコしているような人です。
こんなにデレデレと鼻の下を伸ばすような方ではない。
そう判断し、すぐさま神様の頬にビンタをくらわす。
別にこれが本物だろうと気にしない。いつ変わったのかなんて事も知らない。ただひとつ言えることは、私はこの人をはっ倒さなければ気が済まないという事だけだ。
「えいやっ!」
「いたっ!?どうしたの!?エンプティ!」
はい。ダウト。心の中で呟きながら目の前の人に向けてダークボールを放つ。
「さよならです。こういう悪夢は嫌いですよ。」
「なんでバレてんだ!?くそぉっ……!」
ニコリと笑顔でさよならをすると、顔を歪めて神様だった人が叫んだ。次の瞬間、夢から起きるようにハッと起きる。そこは白いベッドの上だった。
隣にはリンゴを剥いている神様がいた。……え。なんですか!?この状況……まさか、夢!?
「あ。プティ。起きたんだ。」
「……かーみっさま!」
いざ確かめんと腕を広げて飛びつく。神様はそれを笑って受け止めた。
「どうしたの?プティ。」
「……うん。これは私の夢ですね。」
「ちょっ、ちょっと待って!?約束の件を破ってるとは思ったけど!今回は心細かったかと思って僕は……」
「問答無用です!〈ダークボール〉!」
「流石に殺傷能力が高過ぎない!?」
因みに、この神様は本物ですぐさま魔法を消滅されたために別の意味でムカついたのは言うまでもないです。
私が体験したのはこのお店の試練のようでした。あのまま騙され続ければこのお店から出ることは叶わなかったとの事でした。代表者として私がすると、自分で言った記憶があそこから出たあとに蘇ってきたので、そういうものだったのでしょう。なんとも不思議な体験をしたのでした。
その後、爬虫類カフェ、手芸カフェを訪れたところで時間切れとなったのだった。
やはり爬虫類は手のひらサイズこそ至高です……!
次回、そろそろ終わりたいカフェ巡り(多分まだ続く)
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




