81話 動物との触れ合いは個性が出るもの
こんにちこんばんは。
最近、アイテールさんが不憫キャラで定着してきた仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「……ふぅ。これで6件目ですか。」
息を吐き出しながら周りにいる人々に目を向ける。眠たそうに目を擦るのが1人とゲッソリとした顔をしているのが2人。もはや表情が抜け落ちているのが1人とかなり精神的に参っているのが目に見えて分かった。
この現状は先程訪れたカフェに原因があった。その名も、鳥カフェ。このカフェの特徴はインコや九官鳥といったペットとして人気の鳥だけでなく、猛禽類まで店内で触れ合えることだ。餌欲しさに寄ってくる珍しい鳥たちに餌やりをして癒しの時間を……と、いうだけならば良かったのだが。それだけというわけにはいかなかったのが今回だ。
「まさか、アイテールさんが鳥さんと喧嘩し出すとは思いませんでしたよ……。」
「すまぬ……。ワシとて下位のものに求愛されるとは思わず、焦ってしまった……擬態しすぎたのだろう。」
「……ふぁ。ふふふ。実に愉快だった。私はまた行きたい。」
はぁ……っとため息をつくアイテールさんにガイアさんがニヤリと笑う。鷲がため息をつくというその光景には面白いものがあったがその時のことを思い出し、笑うよりもため息が出たのだった。
熱帯魚カフェ、メイドカフェ、文学喫茶、学園喫茶と続き、5件目となる鳥カフェ『KoKoRo』は実際、入った当初はカジュアルな普通のカフェだった。観葉植物には鳥籠が下げられ、沢山の鳥たちの鳴き声がそこかしこから聞こえてくる。
切り株風の椅子に丸太で作ったようなテーブルが並べられ、ピクニックに来たような気分も味わえるように考えられているようだ。
癒しの空間とはこういうもののことを言うのかと思いながら席につき、メニューを開くとそこにはドリンクと鳥たちの餌やサービス内容が書かれてあった。
「空!マシュマロを浮かべたココアがありますよ!」
「良かったね。飲んでみたいって言ってたし、頼んだら。」
「はいです!」
「生肉って書いてある餌の欄よりそっちを見るプティもある意味凄いね……。」
何処か呆れた目を向けてくる神様のことは気にしないことにし、適当に飲み物を頼んで餌の欄を見る。
そこには神様の言った通り、生肉やヒマワリの種、カボチャの種といった種の類にリンゴやバナナといった果物。小松菜や人参、カボチャといった野菜類と実に豊富な種類の餌が載っている。どうやら餌によって寄ってくる鳥の種類が異なるようだ。
「では、生肉から行きましょう!」
「え!?いきなり!?」
「別にいいでしょ。今やっても後やっても同じなんだから。」
「そうでも無いと思うだけど……。まあ、プティがやりたいならそれでいいか。」
空に反論され、眉を下げて頷いた神様を見て少し可哀想になったが気にしない事にする。
それよりも届けられた生肉にどうするのかと見ていると、そこへ一匹の鷲が机の向こう側に連れてこられたわ。
「ピューィッ!」
「では、行きますよー!」
店員さんのゴーッという声と共に獰猛な光を瞳に宿した鳥が飛んでくる。優雅に翼を広げた鳥はその鋭い鉤爪で獲物を捕らえ、着地した。そして、その場で……って、これ以上はグロいので言葉にするのはやめて起きましょう。
そこまでは良かった。純粋に楽しめていたのだが、問題はここからだった。
「ピュィ?」
餌を食べ終えた鷲は何が気になったのか同じ鷲でもかなり大きいアイテールさんに目を向けて小首を傾げた。
それを見てアイテールさんも同じように首を傾げて不思議そうに口を開いた。
「む?なんだ?ワシのカッコ良さに気づいたか?」
「貴方がカッコイイは有り得ない。」
「ム!?流石に酷いぞ!?」
本当の事というガイアさんにムキになったアイテールさんは翼をバサバサと動かし、主張するがガイアさんは気にした様子がない。
そのとき、様子を見ていた鷲に変化が起きた。
「ぴゅぅい♡」
何やらキラキラと輝く丸い目にハートが浮かび、声も何処か媚びたようなものになっている気がする。
スリスリとアイテールさんに近づき、ぴゅいと鳴く鷲にアイテールさんは頬を引き攣らせた。
「も、もしや、これは求愛されておるのか……?」
「あー……うん。そうみたいだね。」
神様のなんとも言い難い顔にアイテールさんは一瞬真顔になり、バサりと飛び上がる。すぐさまそれを追いかける鷲は止める店員さんの声も聞こえていないようだった。
「すみません……。あの子、普段はこうじゃないんですけど……。」
「いい。気にしない。それよりサラダセット持ってきて。」
「寛大なご対応ありがとうございます。
ただいまお持ちしますね。」
相変わらず塩対応のガイアさんはそう言い、遂に喧嘩が始まった上空での闘いを無いものとしたようだ。
それもそうなるかと私も気にしない事にし、運ばれてきたサラダセットを手に持つ。これはどうしたら良いのだろうかと待っていると、黄色や水色といった色とりどりの鳥たちがやってきた。どうやらインコの餌だったようだ。
「これをあげたら良いんですよね?」
「うん。持っているだけでも寄ってくると思うよ。」
ほらと言って小松菜を手に持つ神様を見る。小松菜を近くによってきたインコがつんつんと啄み、食べ始める。すぐにそこへもう一匹のインコが飛んできて取り合いになった。更にもう一匹飛んできたインコが神様の手を啄く。
そして、更に……とドンドン増えていくインコに神様は頬を引き攣らせた。
「えっ。ちょっと!?増えすぎじゃないかな……!?」
「鳥さんに囲まれたぐらいで大袈裟だね?それくらい受け止めるのが神様でしょ。」
「ぐぬぬ……!?」
悔しげな神様はどんどんインコに囲まれているが、見なかったフリをすることにした。
なんだかもっふもっふになっていっている気がしますが、気にしたら負けですからね。ええ。ワタシハナニモミテイマセン。
ふとガイアさんが静かなことに気づき、そちらを見る。
すると、ガイアさんは既に肩や頭にインコが10匹ほど並んでおり、神様とは違ってインコたちは大人しく順番待ちしているようだった。
「良い子。」
「イイコッ!」
「可愛い……。」
「カワイ……?イイコッ!カワイッ!」
「はぁ〜……。」
癒されている様子のガイアさんは鳥カフェを満喫しているようだ。
気になって私も人参を手にインコの口元へと持っていく。しかし、何故か後ろへ後ろへと下がっていくインコ。ジーッと目を見つめるとインコは何を思ったのか何処かへと去っていってしまった。
「カムバックインコ……!」
「よしよし。そういう時もあるよ。
あと、多分姉さんとボクは動物に好かれないから諦めた方が良いよ。」
「なん、です、と……!?」
あまりの衝撃にガーンっと固まる。え。
「り、理由は……!?」
思わず声を荒らげると、空が苦笑いを浮かべる。それは何処か優しい目でありながら労りを感じるものだった。な、なんでしょう。嫌な予感がしますね……?
ドキドキしながら待つと、案外直ぐに答えは返ってきた。
「うん。そういう体質だからね。……大元の人が。」
「あー……そういう……。」
言われてようやく合点が行く。そう言えば、海は動物から好かれなかったと。近づいただけで逃げられるんですよねぇ。あれはなかなかに悲しい光景でした……。
ぼんやりと思い出し、何やら鳥に埋もれている席があることに気づく。それは以前にもどこかで見たような気がして。……どこ、でしたっけ……?
分からないながらも自然と伸びていく手から逃れるようにその大量のインコたちはバサバサと逃げていく。
「けほっ……はぁ……。ありがと……プティ?どうかしたの?」
中から出てきた神様を見て、呆然とする。それは何処かで見た光景。見覚えのある光景であるにも関わらず、海の全てを知っているはずの私が知らない光景。
何故知らないのか。私が持つ海の記憶は万全では無いのか。戸惑いながらも笑顔を作る。眉を下げて私を見る神様をこれ以上心配させたくはなかった。
「いえ。なんでもありません。それより、如何でしたか?鳥たちに囲まれるというのは。」
「いや、なんだか暖かいよりも暑くてね。しかも全員から啄かれるものだから痛いのなんの……。」
「嘘つきだね。痛くはなかったでしょ。」
「……まあね。ただ、気持ち的に痛い気がしたんだよ。」
分からないかなぁ。この感じという神様に知らないと冷たい声をかけ、そっぽを向く空。
こうしてもう暫く鳥カフェを堪能した後、次の店へと向かったのだった。
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ここはとある建物の最上階の一室。そこではニュクスとへメラがスクリーンを囲んで見ていた。
画面には鳥に囲まれる彼女達の父の姿や相変わらず動物に好かれやすい姉、何故か鳥に追われる間抜けな兄。
更には見覚えのある気がする顔が一人に、父に馴れ馴れしい者が一人いるのを見て忌々しげに眉を顰めるニュクスをへメラが見上げて言う。
「ねぇ。ニュクスー。パパ達、もう来ちゃったよ?」
「大丈夫よ。へメラ。」
実際に下から上がってきている懐かしい感覚に2人は顔を見合わせる。へメラは首をかしげ、ニュクスは余裕を持って笑顔を浮かべていた。何処か妖艶なそれは愛しき父や兄弟達との再会を本当に喜んでいるように見える。その中に疎ましさは欠片もなかった。
ジーッとニュクスを見るへメラにニュクスはなんて事はないように話し出す。
「お父様は別に私達を連れ戻す気はないわ。」
「そうなの?」
「ええ。」
自信満々に頷くニュクスにへメラは不思議そうな表情を浮かべる。ニュクスは更に言葉を紡いだ。
「お父様は私達には基本的に関与しないのがルールよ。だから、今回は私達ではなく行動の方が問題だったのよ。」
「行動……?」
「そう。行動よ。ちょっと元気な子が多すぎたのかしらねぇ。」
つい久しぶりすぎて加減を間違えちゃったわというニュクスにへメラはそっかと明るく笑う。
それなら仕方がないねと言いたげなへメラにニュクスも笑いかけた。ニュクスはこの何も考えていないようで考えている妹のことが嫌いではない。純粋に慕われているのだから悪感情を持てるわけもないのだ。
「どうせちょっと暴走しちゃってる子達が原因だと分かっているんでしょうし、そっちも時期におさまるわ。そうなれば私たちに用がなくなるもの。」
「おおー!じゃあ、ちょっと危ない子を捕まえてパパ達に見せつければいいんだ!
凄いね!ニュクス!頭良い!」
キラキラとした目でニュクスを見るへメラは純粋と言えるだろう。ニュクスは満更でない様子で賞賛をあびる。
それにしても少々物騒な話だが、彼女達が旧神であることを考えればこれぐらいは普通の会話だ。何せ、彼女達が神であった頃ならばよくあったやり取りなのだから。
「それに、考えてみなさい。お父様の元に私達が戻るとして、どうせこの流れはもう止められないわ。」
クスクスと笑う声が室内に響き渡る。その隣でへメラは嬉しそうにニンマリと笑っていた。
次回、続・カフェ巡り
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




