79話 捜索は面倒なもの
こんにちこんばんは。
この前書き要らない気がしてきた仁科紫です。←気づくの遅い。
それでは、良き暇つぶしを。
あれから二、三日がたった頃。未だに私達は神様のお店でニュクスさんとへメラさんを待っていた。
ガイアさんが現れた時よりも遅いため、私は心配になったがガイアさんとアイテールさん曰く、これは想定内の事らしい。なんでも、元々2人はマイペースであり、興味があることを見つけると夢中になってしまうらしい。
個人的にはガイアさんも十分マイペースだと思っていたのだが2人はそれ以上だという話だ。止めても無駄だから止めるなと言うのはアイテールさんの言葉だった。
我が道を行くという傲慢さはある意味神様らしいですけどね。
そんな事を思いながら今日も今日とて神様のお店をお掃除していると、慌ただしく扉が開いた。
誰だろうかと見てみるとそこには神様が立っている。どうしたのかと首を傾げれば、何処か焦った顔で私を見た。
「アイテールとガイア、居る!?」
「はい。居ますよ。呼んできますね。」
「ああ。ボクが呼んでくるよ。姉さんは待ってて。」
奥のキッチンにいた空が拡張された2階へとパタパタと走っていった。
ガイアさんとアイテールさんが来て、私達も大きくなったところで窮屈になった店を神様が拡張したのだ。お陰で2階に個室が3部屋と1階に広い談話室が出来ていた。
そのせいで添い寝禁止令が出来たんですけどね。ちっ。
ともあれ、苛立たしげに待つ神様の要件が気になったため、先に聞いおこうと声をかけた。
「神様。もし私が聞いていい話なら先に聞いても良いですか?」
「いや。皆に聞いて欲しい事なんだ。二度手間になるからその時に一緒に聞いてくれ。」
「そういう事なら分かりました。待ちましょう。」
素直に頷くと何故か首を傾げられたが、何かおかしかっただろうか。
不思議に思いつつもすぐに2人を連れた空が戻ってきたため、尋ねる機会を逃してしまった。ガイアさんが目を擦っていることからして、昼寝をしている所を起こされたのだろう。
「それで、我らが父よ。何用か?」
「事と次第によっては一発お見舞いする……。」
いつも通りのアイテールさんに比べ、相変わらず眠たそうなガイアさんは手のひらの上に石の塊を作りながら物騒なことを言う。余っ程頭に来ているのだろう。眠たそうでありながら目の座ったガイアさんを見て神様はそれどころでは無いと話を切り出した。
「ニュクスとへメラが暴走しだした。」
「へっ。」
暴走しだした……?言葉の意味を反芻し、咀嚼する。何度も言葉を繰り返したところでようやく声が出せた。
「ヤバそうですね!?」
「うん。ヤバそうじゃなくてヤバいだよ。姉さん。」
「あっ。そうですね。ヤバいです。」
空に訂正されて素直に頷く。それを呆れた顔で見た神様がジト目になって手を叩いた。
「はーい。そこ、一周まわって落ち着かないの。」
「むぅ。はーいです。」
落ち着いたんだから良いじゃないかと恨めしく神様を見る。てっきりそこに注目が集まるかと思えば、そうでもなくガイアさんは欠伸混じりに話し出した。
「ふあ……。まあ。あの二人なら有り得る。」
「ガハハっ!どうせ愛ゆえの暴走であろう!へメラはともかく、ニュクスならばやりかねん!」
「いや、笑い事じゃないんですけど!?」
動揺した様子のない2人にツッコミを入れるが、首を横に傾げるだけだった。
鷲が頭を傾げるのって思いの外可愛い……ってそうじゃないです。
あたふたと神様とガイアさん達の間で視線を行き来させていると、空がため息をついた。
「まあ、何はともあれ、2人に会いに行ったらいいんじゃないの?」
「それが早いんだけど、問題は何処にいるかなんだ。」
「場所は分かっていないんですか?」
不思議に思って尋ねるが、この話の流れからして分かっていないんだろう。実際に神様は頷き、深刻な顔で話し始めた。
「そうなんだ。2人が居そうな場所を徹底的に探したいところではあるんだけど、夜と昼を司るあの二人なら何処にいてもその権能に翳りはないからね。
……まあ、空の見えないところは別かもしれないけど。」
「ふむ。強いて言うならば高所、または人の多いところではないか?そういった所を好いていた記憶がある。」
「不服だけど同意。恐らく高い塔のような場所で人の多いところにいる。」
ニュクスさんとへメラさんをよく知る2人から有力な情報を得たところで早速行動を開始することにした。
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私達はまずは昼光の街から探してみることにした。空から見たところ、この街の特に高い建物は3つほどあるようだ。
「何処から探しましょう?」
「まあ、適当に一つ一つ……ってわけにもいかないか。時間がかかるからね……。」
改めて周りの景色を見てため息が漏れる。辺りは10階前後の建築物で埋め尽くされていた。一つ一つの建物自体、それなりに大きく歩き回るにしても時間がかかりそうだ。
どうしたものかと思いながらもとりあえず一番近い目的地へと歩き出す。そして、その路地で怪しげな黒服の集団を見つけたのだった。
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それにしてもとため息をつく。
「なんでこんなに沢山お店があるんでしょう?ここ。」
「ん?階数分テナントが入っているのはある意味当然だと思うけど。」
「違いますよ。ただの愚痴です。まさか、ここまで面倒臭いとは思わないじゃないですか。」
口に出し、再びため息をついた。実のところ、ニュクスさんとへメラさんが居そうな場所はあっさりと見つかっていた。というのも、街中で発見した怪しげな連中に話を聞いてみたところ簡単に話を聞けたのだ。
具体的には次のような話だった。
我々はニュクス様とへメラ様を崇めし敬虔な信者である。我らが真の女神を崇めし真の信者であり、ファミリアなるものは正しく神ではなかったのだ。神を騙りし者共には制裁を与えよ。我らが神はそれを望む。……っという感じですね。
改めて考えてみても旧神ならばさもありなんと思える内容にこの話は間違いないだろうと内心で頷く。途中で聞くのも面倒臭くなり、聞いていなかった部分もあるがこんな話だったはずだ。
何せ、同じ話を何度か繰り返されるのだ。ニュクス様は美しく、へメラ様は大変愛らしく……話が切れる度に二柱の神様について話されるそれは、はっきり言って洗脳とも言えた。
その時点で全ての話をまともに聞く気が無くなったのだが、致し方がないだろう。
まあ、入団したいから場所を教えて欲しいと言ったらあっさり教えて貰えましたからね。そこだけは嘘ではないでしょう。
「何にしても、これだけの店を作れたというのは脅威だよ。しかも、全ての店を利用しなければ神には会わせないなんて会わせる気ゼロでしょ。」
「お持ち帰りも禁止されましたしねぇ。」
パクリとパンケーキを口の中へと運んだ空もやはり愚痴っぽく話し出した。この20階あるビルにはそれぞれの階にそれぞれコンセプトカフェが1店舗ずつ入っているのだ。一度の滞在時間が10分程度だとすれば全部で200分。3時間20分かかる計算だ。時間がかかることこの上ない。
「美味しいもの沢山はいい事。」
「うむ!ニュクスとへメラもなかなかに分かっているな!」
いつもより上機嫌な様子で口の端にクリームがついていることに気づかずパフェを食べるガイアさんと、ガハハと豪快に笑いながらもその実、口の周りに一切ソースを付けずにハムサンドを食べるアイテールさんはなんとも正反対だった。
2人の性格からして逆のようにも思えたが、ガイアさんは元が大人の姿であったことを思い出す。もしかしたらまだ子どもの姿に慣れていないのかもしれなかった。
急に体が変わると分からなくなりますしね。
そう考えながらもガイアさんの口の端についたクリームをアイテールさんがお手ふきで拭いているのを見てしまい、目を逸らす。妙に手馴れている気もしたが、きっと気のせいだろう。
「どうしたの?姉さん。」
「いえ、なんでもないです……。」
「……?」
それより、と周りを見渡す。
辺りには大きな水槽が青い光に照らされて神秘的な空間が広がっていた。
ここは熱帯魚カフェという場所らしい。水槽には色とりどりの熱帯魚達が自由気ままに泳いでいる。
あれはエンジェルフィッシュ、カクレクマノミ、ナンヨウハギ……って、これって割と定番どころですね。熱帯魚というよりも水族館っぽいんでしょうか。
ボーッと眺めつつプリンを輪っかに放り込む。なんとなくもう口からでも食べれる気がするんですけど、もはやこの作業がアイデンティティな気がするんですよねぇ。
口の中いっぱいに広がる牛乳たっぷりのカスタードにほんのりと広がるカラメルのほろ苦さ。甘さ控えめのそれはまさに大人の味と言えた。
大人の味……ふふふ。いい響きです。それに、まだまだお店はありますし、初めはこれくらいが丁度いいですよね。
頬を押さえ、デレッと表情を緩ませる。だらしないとかそういう事は考えないのだ。
「プリンってどうしてこんなにシンプルなのに複雑な味わいを作り出せるんでしょうねぇ。もはや至高の食べ物では?」
「そうなの?」
「はいです!神様もいりますか?」
はいっとスプーンにカスタードとカラメルの丁度いいバランスを乗せ、神様に向ける。神様は一瞬躊躇したようだが、すぐに口の中へと入れた。
ふふふ。なんというか、餌付けしている気分で良いですね。
ついつい緩んだ糸を引き締め直していると、空が神様に話しかけていたらしい。私は気づかなかったが。
こそこそと話す2人はこんな会話を繰り広げていた。
「何役得してんの。」
「仕方がないだろう!僕だって食べないべきかと思ったけど、そうしたらプティが悲しむじゃないか!」
「そこはボクに回すなりなんなりしたらいいじゃん。なんで神様なの。」
「それこそプティだからだろう。プティらしいじゃないか。」
「だとしても納得がいかない!」
突然の大声にどうしたのかと視線を向ける。その視線に気づいたのか口元に手をあてた空は引き攣るような笑みを浮かべて私を見た。
「あ、あはは……。姉さん、どうしたの?」
「いえ。それはこちらのセリフなんですが。
突然大声を出してどうしたんですか?」
首を傾げると、なんでもないという空にじゃあいっかとプリンを味わいに戻る。どんな重大なこともプリンの前では意味をなさないのです!
ふんすっとプリンの入ったオシャレな瓶を手に持ち、パクリとまた一口食べた。
「もう…!神様のせいで姉さんに疑われたじゃないか…!」
「自爆のような気もするけど……」
「何?」
「い、いや、なんでもないよ。」
「あっそ。」
大きめに切ったパンケーキを頬張る空。神様はやれやれと肩を竦め、サンドイッチを摘んでいた。
こそこそと話すふたりの会話が気になったが、すぐに終わったため大した話ではなかったのだろう。気にすることは無かった。
全ての階層クリアまであと19店
次回、カフェ巡り
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




