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78話 慣れは油断の元

こんにちこんばんは。

何処まで書いていいのか悩みながら書いた仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 そうしてたどり着いた空の上には巨大な扉が存在していた。それはとある青いタヌキがポケットから出すピンク色の扉に形が類似している。もっとも、色自体は紺色をしているが。



「ここが入口のようですね。ちゃんとカードを使う場所もありますし。」



 扉の横に置かれている台を見て丁度はめ込めそうだと考えていると、ガイアさんも考えていることは同じだったらしい。

 ツルが結びついている台の前までたどり着いたガイアさんは手に持つカードキーを台にはめ込んだ。すると、音もなく巨大な扉は開き、ガイアさんとアイテールさんは躊躇なく中へと進む。それに続いて私達も中へと入った。



 □■□■□■□■



 中へと入ると、そこには巨大な黒い豹とライオンが居た。2人は女性だと聞いていたのだが、何故かライオンには立派な鬣がある。不思議に思いつつも恐らくまた鎖がついているのだろうと前足へと近づいた。



「あれ。ガイアさん。どうしたんですか?」



 立ち止まり、ボーッと2体の獣を見ていたガイアさんに話しかける。やがてゆるりとこちらへ視線を向けたガイアさんは首を振った。



「……なんでもない。」



 静かに首を振るガイアさんの様子はいつもと違って見えたが、本人に話す気がないならば聞いても無駄だろう。

 ここしばらくガイアさんと過ごしていて知ったのだが、ガイアさんはとんでもなく頑固だ。何を聞いても言わないと決めたことは徹底的に言わないのである。ならば、聞くだけ時間の無駄というものだ。少しくらい話してくれてもいいとは思うんですけどねぇ。


 そんな事を考えつつ、もう3度目となる作業は多少距離が離れていたとしても作業を並列処理できる程度には慣れていた。

 アイテールさんとガイアさんの言い方からして2人同時の方がいいだろうと右前脚から始め、左後ろ足に至るまでを同時に開けていく。いつもならここで誰かしらが現れるのだが、今回は現れる様子がない。どうしてだろうかと首を傾げ、何か知っていそうなガイアさんとアイテールさんを見る。

 2人は険しい表情で2つの首輪が繋がる先を見ていた。2人の様子を見て最後の一つである首輪を残して作業を止める。何故だかこの首輪を外すのは良くない気がするんですよね。



「ガイアさん、アイテールさん。どうしたんですか?」


「……おかしい。向こう側から気配を感じる。」


「うむ。おかしな話もあったものだ。こちらは霧に包まれているかのように希薄な気配だと言うのに、あちらは恐ろしく濃い。まるで……」



 力が吸い取られているかのようだ。そう言うのと同時に空間が割れる音がする。

 ピシャーンッと割れた空間は向こう側から巨大な1つの目を覗かせ、その全体図を見せることはない。



「ビュォオオオオッ!」



 凄まじい風が吹き、目の方へと引き寄せられる。それ程の吸引力に意思のないただの巨体が耐えられるはずもない。



「あ……!ダメです……!」



 手を伸ばし、魔力糸を伸ばす。しかし、触れは出来ても止めることは出来ない。圧倒的に力負けしているのだ。その事に歯噛みする。2体が割れ目に入るのは良くない。その確信が何故か私にはあった。

 どうすれば……そんなことを考えている間にもどんどん割れ目に近づいていく。



「キュォオオオオンッ!」


「グワッグワァッ!」



 私が焦って何も成せない中、黒豹とライオンを止めたのはいつか見た巨大な鹿と鷲だった。

 2人の姿は前方に見えることからどうやら姿を変化させたのではなく、自分の一部分を分離したようなものだと察する。



「ガイアさん!アイテールさん!」


「ええ。これくらいなら止めれる。」


「左様!それに、アレを外すのは今は危険だ。耐えるしかあるまい。」



 何時になく真剣な様子で目を睨みつけるアイテールさん。アレというのは首輪の事だろう。それには同意見だった為、頷いて神様を見る。

 この状況下を正しく理解しているとするのならば神様かガイアさん達だ。私達は何か出来るとしても何が出来るかは分かっていない。それならば神様に指示を仰ぐべきだ。


 少し離れたところから状況を見ていた神様に近づき、話しかけた。



「神様。どうしたら良いんでしょう?この状況。」


「……そうだね。恐らく、あの木がニュクスとへメラの神気を吸い取ったんだろうから……あの木を倒せば戻ってくるはず。その為にも、首輪の枷だけは壊さないようにね。」



 なるほどなるほど……あの木……?

 ん?と首を傾げ、木と呼んだ巨大な目を見る神様へと視線を向ける。ジーッと穴があきそうな程見つめると、神様は視線をうろうろとさせてから結局私を見た。



「えっと、何かな?」


「ふふふ。神様。何かな?じゃありませんよね?」



 分かってますよね?と言外に説明しろと言うと、察した神様は虚ろな目になって結局こうなるのかと説明し始めた。



「えーっと、ね?まず、僕はあれが木だと知っていることについては置いておこう……」


「ダメに決まってるよね?」


「……ハイ……。」



 にこやかに笑った空にとめられ、渋々と話し出した神様が言うには、神様には〈真実の眼〉というスキルがあり、それで相手のことが大抵分かるらしい。

 もっとも、分かるのは名前や弱点位なのだとか。……十分過ぎると思いますけどねぇ。


 そして、あの敵は神話級(レジェンダリー)大妖樹(トレント)という名前らしく、植物であるため炎に弱いのだと神様は言った。



「でも、どうしてあの木が神気を吸った……という話になるんですか?それもそのスキルで分かるんですか?」


「うん。そうなんだよ。だから、とりあえず今はアレを倒してきて欲しいな。」



 はい。刀。と言って渡された始まりの刀にもうこの流れも慣れてきたなと思いつつ、空と手を繋ぐ。



「では行きますよ!」


「「〈相称(シンメトリカル)合体(ドッキング)〉!」」



 唱えると同時に私は右側、空は左側の翼へと2つの翼が統合され、大きく開く。そして、翼に包まれたかと思えば視界が開かれた時には姿が変わっていた。

 服装は以前とそこまで変化が無いが、白黒のつけ襟にネクタイが巻かれ、短パンはプリーツ付きのキュロットへ。靴はロングブーツから両方ともショートのブーツへと変化し、変わりに左側だけガーターストッキングで肌が覆われている。そして、以前は無かったベストを着ているのが変わったところだろう。

 更には髪も長くなり、ミディアムからセミロングへと変化していた。右側は髪のひと房をリボンで結ばれ、左側の頭部には黒紫のミニハットが乗せられており可愛らしさがより上昇している気がする。



「うーん。何処と無く昔のアイドル風ですね。」


「似合ってるからいいんじゃない。さて、早速始めようか。」


「はいです!」



 キリッと顔を引きしめ、目だけが見える木を見据える。木はこちらを伺い見ているだけで特に何かをするということはないようだ。

 えっと、確か神様は火が弱点だと言っていましたね。火……どうしましょう。ライターぐらいしか思いつきません。



((空ー。何かあります?))


((うーん……汚物は消毒……。))


((はい?))


((ああ。いや、なんでもないよ。武器に火を纏わせたらいいんじゃない?))



 空の言葉ももっともだと刀に火を纏わせ、目へと突き刺す。刀は願い通りに火を放出し、巨大な目を覆い尽くした。



「ギャァアアアッ!?」



 叫び声をあげる木は目からドロドロと毒々しい紫の液体を溢れ出させ、炎とのせめぎあいになる。

 それは火を消すための防衛本能なのかそれとも攻撃だったのかは分からない。しかし、その液体は無限に溢れ出るものではなかったようだ。やがて量の減ったそれは炎に包まれて消えてしまった。そして、炎が全身に回りきったのか瞳の閉じていく木から刀を引き抜く。

 抜くと同時に灰へと変化していく木にこれで良かったのかとふと思った。

 まあ、これ以外にはどうしようも無かったんですが。


 考えても仕方が無いことだと神様の元へと向かう。



「神様!刀、ありがとうございました!」


「いや、気にしないで。僕の代わりをして貰ってるみたいなものだからさ。」


「分かってるなら変なルールくらい破ればいいのに。」


「そう出来ない理由を君は知っているだろう?空君。」



 不貞腐れたようにちぇと言う空は分かっていて言ったのだろう。それ以上は言わず、そっぽを向こうとした。

 ……まあ、まだ相称合体中なので出来ないんですが。私はまだ神様に用事がありますからね。



「それはそうと、もう首輪を解いても良いんですかね?」


「それは大丈夫。解いて。」


「うむ!繋がっている部分からもう神気は戻っているからな。時間が経てば姿も現すだろう。」



 神様に尋ねたはずの問いは別のところから答えを知らされ、ムッとする。それに神様は苦笑いし、外してあげてと言った。

 むー。別に良いんですよ?良いんですけどね?


 釈然としない気持ちにどう折り合いをつけるかと考え、1つの答えを出す。簡単な話だ。

 暫く私は神様とお話しないということで!


 うんうんと頷き、早速首輪を外そうと鍵開けスキルを発動させる。これを覚えてから魔力の調和と鍵開けスキルの発動だけで一瞬で外れるのだ。名前は普通だが効果は絶大だった。

 スキルってたまにそういうのがあるんですよねぇ。


 パキりと外れる首輪にホッとして黒豹とライオンを見る。黒豹は伸びをし、ライオンは丸くなって眠り出した。



「元気になれば来る。」


「そうだな!……マイペース故、先の話かもしれんが。」



 ポツリと呟いたアイテールさんの言葉が気になったが、こうして3人目と4人目の旧神を解放し終えたのだった。



 □■□■□■□■



 ここは昼光の街のとある店。本来は健全なバーであったはずのそこは、目を蕩けさせた男達が椅子に座る1人の女性を囲んで跪くという異様な空気が漂っていた。女性は長い黒髪を横に流し、星空を溶かしこんだような瞳を細めて微笑む。その艶やかさに周りの男たちは目を惹き付けられ、一斉に感嘆のため息をついた。



「そうねぇ……今回は貴方かしら?」



 クスクスと笑った女性はそのうちの一人に戯れのように顎をすくいあげて妖艶な笑みを浮かべる。ますます目を蕩けさせる男性に濃厚な口付けを贈った。

 淫蕩な空気が周囲を支配する中、そこへ空気を読まない存在が一人。バーのカウンターの上に座るお日様のような髪色の少女は足をブラブラとさせながら話しかけた。



「ねー。ニュクスー。パパの所に行かないの?」


「ンっ……はぁ……。ええ。へメラ。私達には他の目的があるもの。分かっていて聞いているでしょう?」



 もう用はないとばかりに手を離し、崩れ落ちる男性に見向きもせずに女性は妹である少女へと目を向ける。へたり込みながらも恍惚とした顔で女性を見る男に周りの男たちは羨望の目を向けた。

 そんな周囲を気にしないのがこの少女達だ。妹であり片割れである少女は虫けらを見るように姉の横に落ちているものに視線をやった。



「ニュクスに触れるなんて……このゴミ、捨てていい?」


「あら。ダメよ。大事な信者だもの。」


「……はぁい。」



 渋々と頷く少女の言葉を誰も訂正することは無い。この場にいる全員がこの少女と女性を神として崇め、その行動を不審に思うことは無いからだ。

 だからこそ、暴走する2人を止めるものはいない。


「さぁ。2人でこの世界を我らが父に捧げましょう?へメラ。」


「うん。ニュクスがいいならアタシはそれがいいもん。ついて行くよ。ニュクス。」



 こうして沢山の人々を巻き込んだ旧神による大暴走が始まったのだった。

次回、掲示板回


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 二人同時に開放できて怒られずに良かったです。 空ちゃんのセリフは「一度は言ってみたい言葉一万の一つ」(私調べ。異論は認めません)ですね♪ [気になる点] これは、波乱の予感。新たな戦いの…
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