76話 喧嘩は始まりの幕開け
こんにちこんばんは。
深夜テンションっておかしな文になるものの、発想自体は無限なんだよなぁと揺れる仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
翼を触れた時に聞こえてきた声の主の名はニケと言うらしかった。アイテールさんにどうだったかと聞かれて願いの話をすると一瞬固まり、何故かガハハッといつも以上に笑っていたのが気になった。……まあ、アイテールさんにとっても想定外だったんだろうとは思うが。
更にニケの翼を手に入れたことによって私の体には不思議な変化が起きていた。それはなんと全長が120cm程になった事だ。これで私は普通に歩いていればお人形さんのような少女に見えるという訳である。嬉しくなって神様に抱きつくと気まずそうに顔をそらされ、出来るだけこういった接触は控えるようにと言われてしまった。
よく分からないと神様を見るが、何やらブツブツと呟いているだけでそれ以上の回答を得られなかった。しかも、空にもその事を注意されてしまったのだ。ますますよく分からなかったが、ガイアさんにも止められたため、渋々と諦めることにした。
尚、空も大きくなっており、何故か125cmあったことに関しては非常に不服だったと言っておく。
お姉さんは認めませんからね!?きっと私もまだ伸びるはず……!
密かな希望を胸に今日も新しい一日が始まった。
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「そういえば、姉さんはステータスを確認したの?」
小さな黒い羽をパタパタとさせながら尋ねてくる空にそういえば見ていなかったなと思い出す。
今は神様のお店を掃除しているところであり、以前は大変だったハタキの作業も今となっては楽ちんになっていた。
「あー。忘れていましたね。」
「だよね。見た方がいいと思うよ。多分、姉さんは進化を終えている気がするし。」
「え。」
言われて驚くが、それもそうかと首を縦に振る。確かにそうであってもおかしくは無いのだ。
これ程の変化ですからね。寧ろこれが進化でない方が恐ろしいです。……でも、勝手に進化するのはやめて欲しいんですけどねぇ。
神様が用事で出かけている今がチャンスだろうとステータスを開き、確認することにした。
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名前:エンプティ
分類:人形族 種族:エンジェルリング Lv1
属性:光(・闇)
HP 40
MP 254000
STR 0
VIT 1
INT 30650
MND 30650
DEX 15576
AGI 7286
LUK 975
AP 1700
種族スキル
〈魔力化〉〈魔力回復(上)〉〈浮遊〉
〈魔力視〉〈状態異常無効(中)〉
〈立体視〉〈光の糸〉〈闇の糸〉
〈分裂〉〈堕天〉〈魔力保管庫〉
〈人形憑依:対象【大空の姫君】〉
スキル
〈魔力糸〉〈魔力操作(上)〉〈暗視〉
〈魔力結界(糸)〉〈魔味蕾〉〈魔力変換〉
〈手芸〉〈魔力放出〉〈二極合成〉〈調和〉
〈鍵開け〉
固有スキル
〈並列存在〉
称号
【ソウゾウを超える者】【神様(?)を崇める者】
【水霊の友達】【糸の操者】【兎の天敵】
【兎の宿敵】【狼の天敵】【大蜥蜴の天敵】
【可能性の欠片】【魔法初心者】【空島への鍵】
【ファミリアのマスター】【下克上】
【伝承実現者】【翼を得しもの】
ファミリア
〔カオスファミリア〕
役職:マスター
シンボル:太極図 人形
シンボルカラー:白黒
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詳細
〈魔力化〉
効果:魔力になる事により、透明化のみならず透過も出来るようになる。
〈堕天〉
効果:光を持つものがある条件を経て闇へと堕ちる事がある。それを意図して引き起こすことが出来る。
〈魔力保管庫〉
効果:余剰の魔力回復分を常に別の空間に保管できる。それは人型であればあるほど貯めやすい。
〈調和〉
効果:複数のものを混ぜる時にちょうど良い割合で混ぜ合わせることが出来る。
【伝承実現者】
効果:数ある伝承のうち、1つでも実現したものを称える称号。伝承として伝わる能力を一日に一度使用できる。
【翼を得しもの】
効果:持たざるものが持つものへと変化した姿。翼を出し入れ出来るようになる。
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確認してため息をつく。やはりいつもながら進化とはおかしなものだと。
というか、大きくなった理由とか書いてないんですよね。そもそも、私がニケに願った神様の隣に立てる人という条件を満たしていない気がするんですが?少女ですし!そこは150cmくらい欲しかったんですが!
苛立ちからムッとした顔でステータスを見ていると、横から空が覗き込んでくる。
「へぇ。こんな感じなんだ。」
「はいです。でも、不思議な感覚ですね。私達が地面に足をつけているというのは。」
横に立つ空をしげしげと見る。朝から歩くのにさえ四苦八苦していた私とは違い、空は初めからスタスタと歩けていた。そこが誇らしくも悔しく、姉なのにと思わなくもなかった。
まあ、空の方が器用なんですから仕方がありませんよね。因みに、苦労した理由は想像以上に体が重く感じた為です。散々歩いていたのに今更?とか考えてはいけません。
誤魔化すようにそう考えを締めくくり、頷く空の横で微笑んだ。
そこへ奥からガイアさんとアイテールさんがやって来る。賑やかな様子で入ってきた2人はどうやら何かを言い争っているようだった。
「次はへメラ。これは確定事項。」
「否!ニュクスであるべきだ!」
「何故。末妹から助けるのは道理。」
「それもそうだが、あのニュクスだぞ!妹の方を優先したと知られれば……!」
何を想定したのか、ブルブルと震えるアイテールさんにガイアさんは冷たい目を向けた。どうやらアイテールさんにとっての恐ろしい事はガイアさんにとってはそうでも無い事のようである。
そんな2人の言い争いに興味が湧き、何のことについて話しているのか尋ねてみることにした。恐らく、次に解放する旧神について揉めているのだろうが。
ニュクスと言えば夜の神様で、へメラと言えば昼の神様ですからね。神様について少しだけお勉強して来たので知っているのです。
「次に解放する旧神について話しているんですか?」
「そう。ニュクスとへメラは双子。でも、ニュクスが姉だと言い張っていたから末妹はへメラ。だから、へメラから助けるべき。」
「しかし、だ!ニュクスと言えばあの傍若無人さで有名だ!何故妹より先でなかったのかと言いかねん!」
「ニュクスは姉。姉ならば妹の幸せを優先する。」
「否!それはへメラの性質だ!へメラはニュクスの幸せを願う!ならば、やはりニュクスが先であるべきだ!」
2人の話は平行線を辿り、どうにも決着がつきそうにない。困りきり、空の方へと目線を向けると空は何処か上の空で斜め上を見ていた。
「空、どうしたんですか?」
「……え。あ。ごめん。ちょっとぼーっとしてた。
なんだっけ?」
心配になり、もう一度尋ねてみたが、なんでもないと言うだけでそれ以上は話そうとしない。仕方がないとため息をつき、ガイアさんとアイテールさんの話をした。
「どうにかなりませんかね?あれ。」
「無理だと思うよ。姉さんが止めてきたら。」
どこか投げやりなそれは実際のところ、本当にそう思っているらしく、空が関与する気はないらしい。頼られているのかなんなのかは分からないが、とりあえず空の言う通りにしてみようとしたとき、店の扉が開いた。
カランカランという軽やかな音と共に入ってきたのは神様だ。どうやら用事とやらは無事に終わったようである。
「ただいま……って、何してるの?」
鷲と少女が向かい合って目を三角にしている様は珍しく、不思議に感じたらしい。神様は不思議そうに二人を見た。
「別に。相容れない事を再確認しただけ。」
「なんと!ワシも同様なり!こんなにいけ好かないとは思っていなかったぞ!」
フンッと2人は互いに別方向へとそっぽを向くと、揃って奥へと歩きだし、また目線があう度にそっぽを向いて歩き出す。実は仲良しなのかもしれない。そう思うくらいには息があっていたのだから見ている分には面白かった。
「何があったの?」
「実はですね……」
説明を求める神様に先程の出来事を話すと、やはり苦笑いを浮かべた神様はそういう事かと合点がいったようだった。
「神様は事情を知っているんですか?」
「いや。そこまで詳しくはないんだけど、そうなるかもしれないとは想像していたんだ。」
まさか本当になるとは思っていなかったけどね。と言う神様にそういうものかと頷いていると、空が呆れたようにため息をついた。
「で、どうするの?具体的な解決案も出てないでしょ。」
「そうだね。じゃあ、2人の解放を一気にするのはどうかな?」
まるで簡単な事であるかのように言う神様に目を丸くする。流石にそれは無理だろうと考えていると、何故か空も頷いていており、更にギョッとする。
「えっ。なんで頷いているんですか!?」
「出来るよ?姉さんと神様が別行動をしたら確実にね。」
「それもそうですが……。」
穴を塞ぐのも予め神様から刀を渡されてさえいればどうにでもなる事に気づき、どうしたらいいのかと狼狽える。
しかし、それも言った本人によって覆されることとなった。
「まあ、でも僕が関与するのだけは避けたいからね。この案は無しにしよう。」
「でも、それ以外に案は無いんですよね?」
確認するように神様を見ると神様はやはり頷き、それならばどうしたらいいのかと考える羽目になる。
でも、双子、ですか……。
「双子なら同じ場所に封印されていたりしないんでしょうか。ずっと一緒に居るような仲良しさんだったんですよね?」
流石にないだろうとは思いつつも希望的観測が口から溢れ出る。本当に仲良しだったかは知らないが、妹側が姉の幸せを願っていたというのなら有り得そうだと思ったのも事実だった。
しんと静まりかえる空気にあれ?と首を傾げ、神様たちを見る。神様は目を見開き、空はニコニコと楽しそうに笑っていた。神様は分かるが、空のその笑顔は一体どういう意味なのだろうかと思っていると、止まっていた時間が動き出す。
神様は私の脇をつかんで持ち上げ、空は変わらずニコニコとしていた。
「そうか!その可能性があったか!街と街の間に結界がある可能性!それを僕は見逃していたんだな!」
「姉さん!流石だよ!そんな事、誰も思いつかなかったんだから!」
嬉しそうに神様は私を抱えてクルクルと回り、それを空がニコニコと笑って見ている。とはいえ、あくまでも仮定の話であることをこの2人は忘れていないだろうか。
まあ、なるようになりますかね。
そんな投げやりな想定で3回目となる旧神の解放劇は始まったのだった。
次回、3つ目のダンジョンへ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




