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私、神様推しです!〜信者(自称)の恋模様〜  作者: 仁科紫
序章 記憶喪失な私と神様
8/212

8話 水難はよくある事

こんにちこんばんは。

疲れた時は甘いもの!…というより、チョコレートが食べたくなる仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 ドボンッとなんの抵抗も出来ずに水へと落ちる体。そして、想像よりも重かったこの体はゆっくりと。だがしかし、確実に水底へと沈んでいく。


 んー。どうしましょう?これ。…面倒臭いですね。ここらでボーッとしておくとしましょうか。


 沈む体もそのままにこの状況について思考する。


 何故、私は沈んでいるんでしょう。本当は魔力の糸でふわふわと浮き上がれることを私は理解しているのです。でも、何故だかその気が起きないんですよね…。


 そこまで考えてふと気づく。


 なんだか、神様がいないとやる気が出ないんですね。私は。

 神様のためならなんだって出来るのに、神様以外の事だとなんにもやる気が起きなくて…今だってそうです。

 水面の向こう側では本来なら憎らしく思うほどにケタケタと笑っている人魚が居るのに、怒る気力もない。多分、そのうち神様が見つけてくれるだろうなんて、楽観的な考えで居るんです。

 それに、思うんですよ。これも神様を試すための行動の一つなんだろうって。


 怒られるのは私?それとも彼女?

 心配はされるのか?冷たい目で見られるのか?


 さぁ、どちら?


 私は、どちらでも構いません。私を選んでくれないのは、見ててくれないのは、いつもの事…

 ……あれ?おかしいですね。記憶がないのですから、いつもも何も…。


 そう考えたとき、水面の向こう側で人魚さんが慌てた様子で扉の方を見たのが目に入った。

 どうやら、神様が来たようですね。


 そちらに気を取られ、考えていたことは大きな手に持ち上げられる感触と共に消え去って行った。



「やっと見つけたよ。大丈夫かい?」



 …心配の言葉が先ですか。乙女心は分からずとも、優しい方なのは間違いないんですよね。それが個人的に気に食わないのですが。

 という事で、早速惚けるとしましょうか。



『あれ?何か心配するような事でもありましたか?

 私はそちらの人魚さんと戯れていただけですよ?』



 ふふふ。人魚さんには協力して頂いたようなものですからね。ここで彼女が怒られるような立ち回りはしないのです。


 なんでもない事のように振る舞ったが、神様は眉をひそめた。



「いや、あっただろ?ウンディーネに落とされて溺れそうになっていたんだからな!

 …はぁ。あれは戯れと呼ぶには行き過ぎた行為であると僕は思うんだけど。随分と寛大な心を持っているんだね。君は。」



 荒い口調になっていることに気づいたのか、途中でいつもの話し方に変えて問いかけた神様は気づいているのだろうか?

 隣でウンディーネと呼ばれた彼女が寂しそうな顔をしていることに。いや、きっと気づいてはいないのだ。だから、そんなことが言える。


 あぁ。神様。貴方は随分と罪作りな方のようです。あんなにも可愛らしい子が貴方を慕っているのにそれにも気づかないとは。

 だから…私はこう言いましょう。



『ふふふ。お友達になったんです。これくらいの悪ふざけはよくある事でしょう?』



 魔力の糸を顔へと貼り付け、笑顔になれと念じる。

 神様はその顔を見て、目を見張ったと同時に何処か痛ましいものでも見るように私から目を逸らした。



「そう…友達、か。」



 僕は替えの服を取りに行ってくるよ。そう言って出ていった神様に思考をめぐらす。

 …どうして、あんな表情をしたのでしょう?神様の考えは時折私には理解できないのです。


 あと、そこの人魚さん?あなたまで驚いてどうするんですか。そこは平静な顔をしてくださいよ。説明がめんど…コホン。私たち、友達じゃないですか。やですねぇ。

 笑みの形を苦笑いへと変えつつ私は神様を待つ事にした。



「なんでかばう?」



 神様が居なくなると、人魚さんは気まずげに私を見てそう言った。

 理由…簡単な事なんですけどね。



『お友達が欲しかったのです。丁度いいなっと思いまして。』



 そう答えると、人魚さんはポカンとした後、ますますよく分からないという顔をする。

 うーん。分からないですかねぇ?本当にお友達になりたいだけなんですが。



「イジワル、した…。」


『そうですね。でも、構って欲しかったんですよね?』



 その言葉にビクリと肩を揺らした人魚さんは俯くと、こくりと首を縦に振った。



『意地悪してでも構って欲しい。そう思う程に追い詰められていたのであれば、追い詰めた人の方が悪いのです。

 それを怒るほど私は狭量ではありません。誰にでもあることですから。』



 私、実は彼女が寂しそうにしていたことを知っていたんですよ。何せ、私は見てしまいましたから。扉を少し開けて中の様子を見ていたとき、キラキラと輝く鱗にも目が向きましたが、それ以上に水球を巧みに操る彼女の表情に惹き付けられたのです。


 それはそれは……恐ろしいほどの無表情でした。


 私にイタズラを仕掛けるときはあんなにも嬉しそうな顔をしていたのに、ですよ?それで分かりました。元々感情豊かなこの子が無表情になるほど、彼女は追い込まれていたんだろうと。

 だから、今回の件は文字通り水に流すことにしたのです。


 思考から戻ると、目の前に居るはずの人魚さんが静かすぎることに気づく。どうしたのかと前を見ると、うるうると瞳をうるませた人魚さんがいた。

 え。何か泣かせるようなことでもしましたか?



「い…」


『い?』


「いいひと!ともだち、なろう!なりたい!」


『わかって、ちょっ…!?わっ…!』



 そう言って私に飛びついてきた人魚さんと共にジャッバーンッ!とバスタブの中へ再び戻ることとなった。


 ふふふ。でも、こういうのも悪くないですね。


 今度という今度は自力で浮上し、水中から顔を出した人魚さんと2人で笑いあったのだった。



「……随分と仲良くなったんだね。」



 その声に驚いた私と人魚さんは開いていた扉の方を見る。そこには、冷たい微笑みを浮かべた神様が立っていた。

 …ん?もしや、神様は拗ねてらっしゃる…?ふーん?へー。ほー?……ふむ。



『そうなんですよ!神様!私たち、更にとっても仲良くなったのです!

 ね?ウンディーネさん!』


「えっ。」



 いや、そこは普通に頷いてくださいな。

 急に話を振られて驚いた様子の人魚さんにもう一度、念押しに問いかける。



『友達になったんですよねー?』


「う、うん。ともだち。」


『ほら!お友達になったんですよ!』



 その私たちの様子に神様は胡乱な視線を寄越す。



「本当…?君がそう思ってるだけなんじゃないかな?念押しの圧が酷かったけど。」


『本当ですって神様。

 それより、私、濡れちゃって動けそうにないので神様がこちらに来て貰えますか?話しにくいので。』


「それよりって…まぁ、確かに君が動いた方が酷いことになりそうだね。良いよ。」



 話しかけにくいと理由を付けて近くへと来てもらうと、私は早速行動を移した。

 それは…もちろん、魔力糸を神様の左腕に巻き付け引き寄せ、神様をびしょ濡れにするのですっ!



「ぅわぁっ!?」


『こちらへおいでませ!神様!』



 その結果、私の唐突な行動にどうすることも出来ず、神様はバッシャーンッ!とバスタブに引きずり込まれることとなった。

 あ。もちろん、怪我しないように角度には気を使いましたよ?相手に怪我をさせてはそれはもうただのイタズラではすみませんからね。


 慌ててバスタブの中で体勢を整えた神様は私たちとお揃いのびしょ濡れだった。

 わぁ。水も滴るいい男とはこういう事を言うんでしょうね。普段の神々しさに艶があってちょっと色っぽさ?みたいなのがある気がします。



「ったく…何するんだ。」



 苛立ち混じりにそう言った神様を見て私は満足気に心の中で笑う。



『ふふふ。神様もお揃いですね!びっしょびしょですよ!』


「お揃い…はぁ。そうだね。お揃いだ。」



 まさか、君にびしょ濡れにされるとは思わなかったよ。そう言いながらも僅かに上がる口元を私は見逃さなかった。

 やはり、一人だけ仲間外れなのが気に食わなかったのでしょうね。分かります。仲間外れはダメなのです。…多分。記憶にはないんですよね。そういう認識があるだけで。

 むぅ。早く戻らないですかねぇ。記憶。不便で仕方がないですよ。



「へぇ。良かったね。ウンディーネ。」


「うん!みずでね…」



 そう考えながらも、意外に仲のいい様子で話している人魚さんと神様にちょっと嫉妬する私でした。

 仲良いんですよねー。2人とも。人魚さんなんてさっきまであんなにも不貞腐れていたのに、もう機嫌良さげに話してますし?案外、私って損してるんじゃありません?と、言いますか、損してるの、私だけじゃありません!?この形にするのに結構苦労したと思うんですけど…!


 ……はぁ。まあ、お友達が出来ただけでも良しとしましょう。何やら面倒くさそうな2人も仲良くなったことですし、オールオッケーですね。…いえ、やっぱり、私は良くないですが。敵に塩を送る?送った?気分なのですよ。まったく。

 …ん?何故に人魚さんが敵…?んー。よく分かりませんね。きっと気のせいです。



 ・

 ・

 ・



 ニコリと笑顔を浮かべる神様を目の前に私は黙りを決め込む。それでも、尚、神様は私を見つめ、問いかけに対する答えを飽きることなく待っていた。


 ……ハイ。現在進行形でお説教なうのエンプティです。何故にこの状況になったかと言いますと、先程のびしょ濡れ事件が原因なのです。

 いえ、正直、あれは私が悪いのではなく、大人気なく怒ろうとしていた神様が悪いと私は思うのです。

 しかしながら、それを言うとお説教はもっと長くなるだろうと推測した私は黙りを決め込んでいた訳なのですが…それで稼げる時間など、大したものではないのですよねぇ。



「それで?どうして僕まで巻き込んだのかな?」



 水で濡れていた全身を魔法という便利なもので乾かした神様がそう尋ねる。


 因みに、私は軽く乾かされた後、『この服なら水に入ろうなんて思わないだろう?』と、言いながら神様の手によってリボンやらフリルやらがあしらわれたそれはそれは汚しにくい服装へと着せ替えられた。

 ……乙女心的にアウトですが、神様的には完全にお人形の着せ替えの気分なのでしょう。なんの躊躇もなくパッと服を剥ぎ取ると、何処からか出したブラックブルーのゴスロリ服をサッと着せ、後ろの留め具をはめて着替えは完了したのでした。

 ぐぬぬ…完全敗北なのです…!


 と、はい。まあ、現実逃避はこの程度にしまして、神様はさっきからこの調子なのですよねぇ。

 うーん。いい加減、この状況から脱したいところではありますし…素直に言いましょうか。


『だって…神様、寂しそうだったのです。

 仲間はずれはダメなのですよ?』


 目を伏せて、ポツリと零すように呟く。その様子を見た神様は、言葉を詰まらせてそれ以降、静寂が空間を支配した。


 ……きっまっず!!なんですか!?この何も話せないなんとも言い難い空間は!

 あ。因みに、人魚さんとはお風呂場でお別れしました。もともと、水場の近くでしか現れることが出来ない子のようです。世の中は不思議で溢れていますねぇ。



「……はぁ。仕方がないね。」



 目を伏せ続けていると、神様もこの不毛な時間はどうかと思ったのか、頭上からそんな声が聞こえた。



『あ!やっと諦めてくれましたか!?』


「何でそうなる…。もうちょっと、話し合おうか?」



 あっ。どうやら違った模様。今度こそ怒った様子の神様は暫く、お説教から開放する様子はありませんでした。…私、悪くないのですがねぇ。

次回、ようやくステータス公開


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。


〜2021/11/13 11:23 てすをですに訂正する誤字報告を適用しました〜

自分の首を絞める誤字…(´;ω;`)

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― 新着の感想 ―
[一言] 誤字があったので、更新3回追加・・・・・・・・
[良い点] 無事、お友達になりました。…無事に? 水も滴るイイ男ならぬ、神様になれて良かったですね♪ [気になる点] このウンディーネさんも、やっぱりエンプティちゃんと同じ訳アリみたいですね。 [一…
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