74話 攻略は進むよ少しずつ
こんにちこんばんは。
ようやく次で攻略を終われそうな仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
それから5階層分を降りること3回。90階層に到達した私達は雷が所狭しと降ってくる中、慎重に進んでいた。雷自体はアイテールさんの能力により全て弾かれるため、問題は無いのだが、雷が落ちた雲が敵となって襲いかかってくるのが厄介だったのだ。対処が面倒という意味で。
しかも、既に私はお荷物に等しくなっている。やはり徐々に強くなっていく敵相手に私の魔力糸は意味をなさなくなってきたからだ。それが悲しいとかは無い。もちろん、ある意味当然ではあるのだ。まだ私は3度しか進化をしていないのである。そう考えるとかなりついてこれた方ではあるとも分かっているのだから。
……うん。どうせ、神様達の方が強いのは今更ですし!……私は、魔法型ですし。強さはステータスに完全依存なので、ステータスさえあげれば多少は……多少は……!
「多少は神様のお力になれるはずなんですっ!」
「えっ。あっ、うん。大丈夫だよ。プティは十分力になってくれてるから。」
「あっ。」
慌てて口を塞ぐ。このうっかりもそろそろどうにかしたいと思いつつも今はそれどころではない。
何やら勘違いしていそうな神様に慌てて首を振った。
「ち、違うんですよ!私はただ、もう少しレベル上げをしたいなぁと思っただけでして!」
「うん?だから、違わないと思うんだけど……?」
よく分からないと言いたげな神様を見て今のやり取りを振り返る。
神様の力になりたい→もう少しレベル上げをしたい……うん。変わりありませんね。
どう言ったらこの気持ちが伝わるだろうかと考え、ふと思い至る。しかし、話し出す前に空が口を挟んだ。
「ちょっと。神様。うちの姉さんを虐めないでよ。」
「えっ!?虐めてないんだけど!?」
「ほら、イジメって虐めた側は気づいていないものだしねー?神様ったらヒドーイ。」
アリエナーイと全く感情の籠っていない茶化すような雰囲気すらある空の言葉に神様は頬をひきつらせる。
空がこの話を有耶無耶にしようとしているのを悟り、つい感動してしまった。本当に空はいい子だと空を見ると、空はこちらに向けてウインクをする。
やはりこちらの意図を察してくれていたらしい。
「それじゃあ、神様。先に進みましょう!後10層ですからね!」
ニコニコと笑って何も思惑などないのだとアピールしながら神様を背中から押す。戸惑った様子ではあったが、神様は押されながら先を進んだ。
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「聖なる大気の盾!」
アイテールさんが突き出した翼の先から薄い膜が広がる。
ここは既に95階層に達していた。尚、階層ごとに数字が視界の端に表示されるため、階層が分からなくなるという心配はない。
アイテールさんを肩にとめた神様は周りを警戒するように、グルりと辺りに視線を向けた。
「うん。これならあと5階層分くらいもちそうだね。」
「我が弟はこういうのだけ得意。」
「だけとはなかなかに辛辣だな!姉殿は先程からただ見て着いてくるだけではないか!」
アイテールさんの言葉にガイアさんはムッとするが、そっぽを向くだけだった。どうやらアイテールさん相手に何を言っても意味が無いという事らしい。
実際にガハハッと陽気に笑うアイテールさんに悪意は無かったようだ。言葉だけ見ると責めているように見えるのだがこの辺りは人柄によるだろう。
「こういうのを人徳って言うんですかねぇ。」
「いや、人徳っていうより諦められているだけな気もするけど。」
「あはは……。」
なんとも言えない顔で笑う神様の気持ちも分かると頷いた。何せ、空の言うことはもっともだからだ。
実際、言っても理解しなさそうなのは目に見えていますからね。
うんうんと頷いていると、そこへ風を切り裂くような気配が近づいてくる。正確な場所は分からないが、前方の上空から器用に雷を躱しながら落ちてきているようだ。
「アイテールさん。相手の姿を見せて頂けますか?」
「うむ!お任せあれだ!〈清浄の風〉!」
清廉な青く輝く風が切り裂く風へと衝突する。巻き付くように風を覆うとシュルシュルと剥がれていった。
アイテールさん、実は見えるように出来るらしいんですよねぇ。知ったのはついさっきですけどね。
それと同時にワシの顔を持つ烏が現れる。烏は周りの風が消えたことに驚いたのか、目を大きく開いていた。そこへ空が頭を狙って蹴りを入れる。
「カァッ……カァッ!」
しかし、烏は一度怯んだもののすぐさま体勢を整え直し、下へと落ちている空の方へと方向転換。空の背中目掛けて太い嘴を突き出す。刺さりそうなその嘴は飛び上がるように間に割って入った神様によって防がれた。
「ギャンッ!?」
「舐められては困りますよ!〈繭〉!」
大量の魔力糸を一斉に投げつけ、行動を阻害する。烏は全身に巻き付けられた魔力糸を邪魔そうに翼をはためかせ、纏った魔力で切る。しかし、残った魔力糸が烏に絡みつき、先程までの俊敏な動きを見せれていない。
ふっふっふ。私とて少しは学習しているのです!
胸を張り、ニヤリと烏を見ると忌々しげに光る瞳と目が合った。
あっ。これ、怒ってるやつです……!?
慌てて神様の後ろに逃げ、烏の視線を断つ。それでもなお感じる視線の鋭さにやってしまったと理解した。
「か、神様!ヘルプ!ヘルプです!」
「うん。いいけど、調子に乗るからだよ。プティ。」
「うぅ……若気の至りでした……。」
苦笑いする神様の背中にピタリと張り付き、離れないようにする。これならば狙われていても神様が全て対処してくれるという寸法だ。……まあ、人任せになるのであまり好きでは無いんですが。死ぬよりはマシ、ですよね……?
ピタリと張り付いたとしても神様は不満を言うこともないため、まあいいかと気にしないことにする。
すぐさま烏が上から強襲をかけ、それを神様が剣で受け止めて弾く。上に振り上げた剣を切り返して振り下ろした。烏は直撃だけでも避けようと翼を羽ばたかせようとするが、それを翼にまとわりつく魔力糸が邪魔をする。
「カァッ!?」
「〈景斬〉」
景色が斜めに滑る。その感覚と共に烏の姿が横にズレた。
「カァ……?」
不思議そうな烏の声を最後に烏は落ちていった。気づかないほどに自然に斬られたという事だろう。
その事実に感心しつつ、神様の顔に飛びつく。角度的に厳しかった為に僅かに上にずれたが、仕方があるまい。
額に張り付いた私に神様はまたかと肩を落とした。
「プティー?約束は?」
「あれ?それは独断行動をしないというやつでは?」
「……ああ。そっちだっけ。」
「わぁ。悪い大人だー。どさくさに紛れて騙そうとするなんて。」
「騙すって……人聞きが悪くないかな!?」
何やら反論している神様をスルーし、コクコクと頷く。神様の頭に張り付いているせいで頭突きを何度もしているようになってしまっているが、そこは考えない。
日頃のちょっとした恨みなんて篭っていないのだ。
神様が乙女心を知らないこととか理解していないこととか!別に気になんてしていないんですからね!
思い出して頬を膨らましつつ神様によってベリっと剥がされる。それにもますますイラッとしてさらに頬を膨らませた。
「ムー!」
「むーじゃないから。ほら、先に進むよ。結構時間がかかっちゃってるからね。プティもそろそろ時間が無いんじゃないの?」
言われてハッとする。あまり時間が経っていないつもりでいたが、既に攻略開始から2時間半が経っている。そろそろ急がなければ規定のログアウト時間に間に合いそうにない。
3度の進化を終え、私はベッドから起き上がれるようになっていた。しかし、歩いていない期間が長かっただけに全身の筋肉が落ちているため、リハビリ生活が始まっている。その結果、ゲーム時間が制限され、リハビリの時間が代わりのように増えていた。
定期検診の時間が4時なんですよねぇ。遅れたらゲーム時間減らされますし……。リハビリもあるのにゲーム時間がこれ以上減るのは由々しき事態なのです。
そこまで考えを巡らせ、すぐさま神様から離れる。
「では、走りましょう!」
キリッとしながら言い、先へと急ぐ。神様は苦笑しつつも私の前を歩き出した。
「私達も行く。」
「だね。」
ガイアと空が頷きあい、エンプティ達の後に続こうとする。そこへまた下へと落とされていたアイテールが戻ってきて話しかけた。
「む?急ぎなのか?」
「ああ。今帰ってきたんだね。うん。そうなんだ。
姉さんはこの後用事があるようでね。そのためにちょっと急ぎ気味でクリアしようかなって。」
「おお!なんと!それはワシらも頑張らねばな!ワシは先に行って邪魔者を消してこよう!」
「狡い。私も行く。」
「ではゆくか!」
快活に笑ってアイテールは翼を大きく広げ、空へと浮かぶ。その背にガイアを乗せて飛び去った。
残された空は慌ててエンプティの元へと走った。
「ボクは必要ないだろうけどね。」
そんな事を呟きながら。
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「グルゥ……。」
倒れていく巨大な狼を見ながら、ふと私がどうしてここに居るのかと疑問に浮かぶ。というのも、目の前にある巨体に私は全くと言っていいほどに関与していないからだ。
ちらっと視線を狼の上へと向ける。そこにもう居なくなった巨大な鷲の姿を思い浮かべた。
「なんだったんでしょうね。あれ。」
「あー……やる気を出した結果なんだろうね。
多分、しばらくこの調子だろうから僕達は進むことだけを考えたらいいと思うよ。」
「はーいです。」
目の前の状況を少し振り返る。
本当に少し前のことだ。目の前に透明な何かが現れた瞬間、空からやって来た巨大な鷲によって空中へと攫われた。かと思えば物凄い勢いで叩き落とし、急に現れた土の壁に衝突させたのだ。あまりにもの衝撃に狼は一発で沈んで行った。
そして、ぼんやりと思ったのである。あれ?これって私がいる意味ってあるのかと。
「姉さん?変なこと考えないでね?彼らが居るのは姉さんが居るからなんだから。姉さんの力だと思えばいいんだよ。」
「空……。それもそうですね。」
当然のことを空に指摘され、俯き気味になっていた顔をあげる。離れたところを飛ぶ大鷲とその背中に乗る少女。少し先を歩く神様を見て頬を弛めた。あまりにも強力すぎる三者は心配も何も不安になる要素すらなくて。
今回くらいは任せてしまってもいいかもしれませんね。そう思えた。
こうして遂に100階層へとたどり着いたのだった。
次回、最終ボス
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




