73話 強敵は楽しむもの
こんにちこんばんは。
進まない……三千字にしたい気もするが、4千字のままがいいのか悩む仁科紫です。
ストック欲しぃ……。
それでは、良き暇つぶしを。
心配していた攻略は思いのほか順調に進み、前を行く神様に従って進むと不思議と順調に進めた。
迷う様子すらない事を不思議に思い、理由を神様に尋ねると、どうやらスキルのおかげらしい。尚、何故かその時、空とガイアさんは訝しげに神様を見ており、アイテールさんに至ってはガハハッとだけ笑っていた。まあ、私は流石神様だと思いながら後ろに続いたが。
そうして歩いた頃、遭遇したのは一匹のカンガルーだった。そのカンガルーはやはり頭が鷲になっており、これも口のところが嘴になっているのかと考えるとちっとも可愛くない。……頭の全体を覆う被り物を被っている方が可愛く見えるってこれ如何に状態ですね。
なんとも不思議なこのダンジョンの敵相手にそんな事を考えつつすぐさま糸を張り巡らせる。試しに魔力糸を伸ばしてみたが、カンガルーは軽く跳ねることで簡単に避けてしまった。更にカンガルーは空中を漂う魔力糸へと数回パンチを決め、魔力糸の魔力を散らす。
その動きは正にボクシング選手と言っても過言ではない。
「わぁ。凄いですね。あの動き、向こうで出来たらチャンピオンにでもなっていそうですよ?」
「実際のカンガルーもパンチ力は物凄いと聞くね。でも、流石にあそこまでボクシングっぽくは無いかな。」
「元々は上から下へと振り下ろされるものですからねぇ。……そう考えると、あのカンガルーはどうやって前へと突き出す進化をとげたんでしょう?」
カンガルーを見ながら神様と2人でそんな事を話していると、何やらカンガルーの目に炎がともった。動物園感覚で観察されているのが気に食わなかったのかもしれない。
こちらへと大きく跳ねて繰り出されるパンチに空が蹴りを合わせる。
「グォッ!」
「よっと。姉さんたち。ここはボクが相手してもいいかな?」
空は笑顔でこちらを見ているが、その実、目が笑っていないように見える。冷え冷えとした雰囲気からも有無を言えず、ただ首を縦に振った。
な、何か怒らせるようなことを言いましたっけ……?
疑問に思いつつも後で確認しようと今は空の戦いを見ることにする。
「はぁっ!」
「グゥオッ!」
二度、三度と何度も蹴りと拳が交差する。その度に凄まじい衝撃が起きた。それは互いに魔力を拳や脚に纏っているが故の当然の結果だとも言える。
寸分違わず打ち合うその姿は予め打ち合わせをした結果のようにも見え、まるで演武のようだ。
しかし、いつまでも続くように見えたその演武は呆気なく幕を閉じることになる。
「〈死んで果実が咲くものか〉!」
「グァアアッアッ!」
互いに今までよりもより威力の増した蹴りと拳がぶつかり合った。今までとは違うのはカンガルーがその衝撃に耐えられず、吹き飛ばされたことだ。
「グァアッ……!?」
そこへ更に空が追い打ちをかける。宙で一回転し、かかと落としを振り落とした。
「ナイスファイト。楽しかったよ。」
「グァア……。」
空の言葉にカンガルーも親指を立て、まるで健闘をたたえるかのような穏やかな顔で消えていった。
そこでふと悟る。あれ?これってもしかして、強者を不躾に観察していたからこそ空が怒っていたのではないか、と。理解して直ぐに空の元へと駆けつける。こういったことはすぐさま謝った方が後腐れがなくていいのだ。
「空ー!」
「ん?どうしたの?姉さん。」
不思議そうに首を傾げる空に一瞬この考えが間違えだったらという不安が過ぎった。しかし、空なら間違えていても笑って許してくれるだろうと言葉を紡ぐ。
「ごめんなさい!彼は闘いに生きる方だったのに、それを侮辱するような事を言ってしまって……。」
「ああ。その事。別にいいよ。姉さんなら分かってくれるって知ってたから。」
やはり空はにこやかに笑って許してくれた。その事にホッとしながらも、私と話していた神様はどうするのだろうかとふと思った。まあ、空が神様に辛辣なのは今更ですよね。
その考えを打ち消し、先へと進もうと声をかける。その間に空が神様を睨んでいるように見えたのはきっと気のせいだろう。
「やれやれ。人の子はややこしい。」
「うむうむ!ワシのように生きれば良いと思うのだがな!」
「……弟はもっと考えるべき。流石にない。」
「ハハハッ!相変わらず姉殿は手厳しいな!」
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そうして時折出てくる相手を倒しつつ先へと進む。
カンガルーにせよ、その後に遭遇した敵にせよ、そこまで苦戦するものでは無かった。
結局、ここの何処が苦戦したのかが分からないでいると、それは現れた。
「ガォオオッ!」
いや、正確には聞こえた、か。近くで聞こえたはずの声の主を探して辺りを見渡すが、どこにも見当たらない。
戸惑いながらも警戒を緩めず、魔力糸を空中にはる。すると、魔力糸の上に何かが乗っている感覚がした。恐らくそこにいるのだろう。そう考え、その場所を狙って魔力糸を伸ばす。
「ガォッ……!」
しかし、それは声の主に届かず、空を切る。どうやら相手は移動してしまったようだ。尚も感じる反応にその場にはいるようだと理解し、反応のある部分の魔力糸を粘着質なものへと変化させる。
すると、異変を感じたらしい声の主は離れようとするがその場から移動できず、唸り声をあげた。
「グルゥッ……!?」
そこを逃さず魔力糸で包み込む。逃れられるはずのない相手は何を思ったのかそれ以上抵抗らしい抵抗をせず、ただ魔力糸で包まれるがままだ。
その様子を不審に思いつつも空に声をかける。
「空!恐らくそこに……」
「否!それは幻だ!本体は既に離れておるぞ!」
「えっ……」
アイテールさんの言葉にハッとし、後ろから感じた風圧に慌てて後ろへと体をひねり、瞬時に作り出した翼で距離をとる。そこへ更に上から感じる風圧に何故上なのかと疑問に思いながらも神様のいる左側へと転がるように飛び込む。
「神様!キャッチお願いします!」
「分かった!」
神様の目の前へと落ちていく私を神様が手で覆うように掴む。片手で持った剣を無色透明なそれへと突きつけ、受け止めた。
「ハァッ……!」
「グルルゥ……。」
カキンッという何かが弾かれる音ともに神様が後ろに下がる。一定の距離を保って相手を見すえた。私からは見えなかったが、神様は視認しているように思える。
再び感じた風圧に神様はすぐさま上へと飛び上がり、躱す。その下にあった雲は何かに潰されるように掻き消えた。
「神様、相手ってもしかしてかなり大きいですか?」
「そうだよ。かなり大きいね。」
「あー……具体的にはどれくらいですかね?」
「うーん……。」
これくらい?と言って丸く円を描く神様からして、恐らくその辺に居るんだろう。それは下からほぼ垂直と言っていいほど上まで指さしている。
予想はしていたもののその大きさに驚いた。
うーん。どうしましょう?これ。
確かにこれが相手だったならばここで退散したゼウスファミリアの判断も納得のいくものだった。
「姉さん。どうしたの?」
どうしたらいいのか。そんな事ばかりが頭の中をグルグルと回っていると、隣りに空が来た。
そういえば、私って神様に掴まれたままだったんですね。
慌てて神様の手から飛び出し、神様の後ろに隠れる。
「空……これ、どうやったら倒せるのかなって……。」
「ああ。分かったよ。ちょっと待っててね。」
そう言ってどこへ行くのかと空を見ていると、向かったのは上空を飛ぶアイテールさんの元だった。
どうしてだろうかと首を傾げていると、何やらアイテールさんに話しかけている。暫くすると、空がアイテールさんを鷲掴んで……
「それ行けー!」
「ぶん投げたー!?」
「ガハハハッ!全力突っ込み!だなっ!」
投げられているはずのアイテールさんはただ愉快そうに笑っているだけであり、怒ってはいないようだ。
そのまま透明の何かへと衝突し、翼に纏った魔力を叩きつけた。
「ガァッ……!?」
「ハハハッ!もう一発行くぞー!」
旋回し、すぐさま纏った魔力を再び見えない敵へと叩きつけた。
「ガァッ……グルルゥアッ!」
しかし、相手もただ受けてばかりではない。旋回中のアイテールさん目掛けて風が飛んでいく。それをアイテールさんは楽しそうに笑ったかと思えば横に回転して躱す。
そして、すぐさま上へ宙返りして風の出元へと向かっていく。
「ガハハッ!ワシに立ち向かうとはその意気やよし!この技を受けてみよ!」
今度は翼ではなく嘴に魔力を集め、何も無い所へと叩きつける。
「ガァァ……。」
ドガンッという凄まじい音がなり、現れたのは首元に大穴があいた鷲頭を持つ巨大な獅子の体躯だった。
あまりの巨体に驚き、ついぼんやりと眺めてしまう。
って、え。
「え!?こんなに大きかったんですか!?」
「うん。そうだよ。本当にビックリするよね。」
「確かに。初めて見たら驚く。」
「ガハハッ!なかなかにガッツのある相手であった!」
淡々と頷く空とガイアさんにまるで知っているように頷くなと思いつつ、満足気に頷いてガイアさんの頭の上に乗ろうとするアイテールさんを見る。
アイテールさんはまたガイアさんによって叩き落とされ、下へと落ちていった。
また戻ってくるのを待つことになるであろうその様子に呆れながら神様を見る。神様は何処か優しげな表情を浮かべていた。
「……。あれ、まだ続けるんですね。」
「あー……うん。多分、ずっと会えてなかったから寂しかったんじゃないかな。しばらく続くと思うけど、見守ってあげて欲しいかな。」
そう考えてみると確かにこれは一種のじゃれあいのように見えるのだから不思議だ。
「ふふふ。そうですね。」
なんだか微笑ましくて思わず頬をゆるめる。その先には下へと落ちていくアイテールさんを見てやれやれと肩をすくませるガイアさんと横で苦笑する空がいた。
こうして75階層に潜む強敵の存在を認識しつつ先に進むことになった。
次回、もう最下層まで行ってもいいですよね?
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




