69話 慢心は隙の元
こんにちこんばんは。
遅刻しまして申し訳ないと思っている仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「まあ、何にせよ、だ。向こうからやって来るのは違いない。しかし、お主一人ではきつかろう?だからこそ、ワシが手を貸してやろうと思うのだが。」
「いいえ。私がやります。……まあ、正直、片割れを呼ばないとキツそうではあるので、防御はお願いしたいのですが。」
「うむ!任せろ!それくらいはお易い御用だ!」
相変わらず大きな声で笑うアイテールさんを放置し、向こう側から顔を出した赤色の鎧を見る。目が赤く光るそれは片手に鎖を持ち、もう片手に剣を携えていた。ヒビ割れからは腕が伸ばされており、下半身は見えていない。
どう戦うのかはいまいち掴めないが、片手の鎖は首輪に繋がっており、元々は門番の役目を持っていたのだろうと想像する。
うーん。どうしましょう。また大怪獣バトル勃発でしょうか?でも、多分この鎧さんは近距離攻撃をすると思うんですよね。そうなると流石に不利ですし……。
考え込んでいる間にも巨大な剣が振り下ろされる。それは大鷲が嘴で受け止めて逸らしたことで直撃することは無かったが、凄まじい衝撃により吹き飛ばされそうになる。
んー……仕方がありません。ここはやはり空を呼ぶしかないでしょう。
((あー。テステス。空さん空さん。大変申し訳ないと反省しておりますので、お返事ください。))
((……ん。姉さん!やっと繋がった!今何処にいるの!?))
((え。えーっと、謎の空間……ですかね?))
えへっと誤魔化すように笑いながら言うと空の声が低くなり、問い詰めるような口調になった。さすがに誤魔化されてくれなかったらしい。
((……姉さんが優秀なのは知ってるけど、勝手な行動は危険だよ。今からそっちに向かうから待ってて。))
((うっ。……分かりました。待ってますね。空。))
それきり切れてしまった念話を不安に思いながらも巻き込まれないように鎧の動作を見て適度に動く。
先程のように吹き飛ばされそうになってはかないませんからね。
そのやり取りが10回ほど行われた頃。何も無いこの空間に空と神様、ガイアさんが現れた。
空と神様は何処か疲れきった顔をしているが、ガイアさんは平然とした顔で突っ立っている。そこへアイテールさんが暑くl……コホン。嬉しそうに駆け寄った。
「おおー!我らが父と姉ではないか!元気にしておられたか!?」
「うるさい。アイテール。」
「ハハハ!相変わらず姉殿は気難しいな!」
「アイテールが単純なだけ。面倒臭いから話しかけないで。」
ツンとした態度を崩さないガイアさんに尚も気にせず笑っていられるアイテールさんは凄い精神力の持ち主だろう。
尚もガハハと笑ってガイアさんに話しかけ続ける。
「そう言って、強がりなのは相変わらずだな!それでこそ大地の母だな!」
「ふんっ。そういう貴方こそ面倒臭いまま。何時になったら距離感を覚える?」
「むー?そうか?普通だと思うのだが……。」
不服そうに互いを見合う二人の間にはバチバチと火花が走っているようにも見える。仲が悪いという訳では無いが、相性がそこまで良くないのだろう。
それはそうと、現実逃避をしていた思考をそろそろ戻すべく神様と空を見た。
見たところ、2人は笑っているように見える。……が、雰囲気からして間違いなく怒っている。
こう、目の奥に炎を感じるんですよねぇ。うーん。逃げられませんし、ここは素直に謝っておきましょう。
「えっと、何も言わずにここまで来てしまってすみませんでした。つい目の前に壁があると乗り越えたくなってしまいまして……。」
ぺこりと頭を下げ、神様たちから目をそらす。今、どのような表情をしているのかが怖くて言い訳めいたことを口にする。
ど、どうしたらいいんでしょう。このままという訳にはいきませんし……!
焦った頭でどうしようと考えていると、やがてどちらからかは分からないが、ため息が聞こえてきた。そろりと顔を上げて2人の様子をうかがう。2人は苦笑いをしていた。
「まあ、プティだからね。居なくなったときにこうなるのは考えておくべきだったよ。」
「ボクも……。姉さんの位置は把握出来るからって気にしなかったのがいけなかったんだ。ごめんね。」
肩を落としてシュンっとする空に慌ててそんなことは無いと首を振り、私こそと謝る。そこから謝りあいが始まったが、途中で神様に止められた。そろそろ大怪獣バトルをどうにかしなければならないだろうという話によって。
「それで、あれはガイアのときと同じでいいの?」
「まあ、いいんじゃないかな。はい。刀。」
ポンっと渡された見覚えのあるものに慌てながらも受け取り、そういう事ならと空に声をかける。
「では、あれをしましょうか!」
「オッケー。せーの!」
「「〈相称合体!〉」」
半分に折れた輪同士がくっつき、一つの個体になる。その間に光となり混ざりあった人形は人と同じ大きさへと変わった。
「紫光の女王、紫光白神黒美混沌女帝!略してカオスクイーン!です!」
「いや、違うでしょ。ディージィーに決まったの、忘れたの?姉さん。」
「えへへ。つい、ですよー。」
「全く。」
空に呆れられながらも少し違う気がする衣装をよく見る。今回はスカートの部分が減り、短パンの見える部分が全体の4分の3ほどにまで広がっている。むしろ、スカートはただの飾りに見えるレベルだ。
うーん?これは何か意味があるのでしょうか?
首を傾げようとして、やはり動かない首に空は不思議に思っていないんだと実感する。空にとってはこれが当然なのだろう。
ということは、空に聞いた方が早いですね。
((空。どうして衣装が少し変わってるんでしょう?))
((今回は近接よりの戦闘になりそうだったからね。ボクよりのステータスになるように調整しておいたよ。))
((なるほどです!))
どうやらその辺の調整は空にとって簡単なものであるらしい。どこか誇らしげな空に心の中で拍手を贈りつつ刀を構える。
つまりは、あの鎧の剣を受け止めて払い、奥へと押し込めばいいのだ。
「では、行きますよ!」
「りょーかいっ!」
宙を蹴り、鎧へと接近する。丁度大鷹の嘴から剣が弾かれたところで割って入り、剣を受け止めた。
そして、刀を滑らせて剣を弾いたところで剣を握る手を蹴りあげる。かなりの衝撃を受けたのか、肩から上へとあげられた腕を更に奥へと押し込むべく前腕を鎧に垂直になるよう回し蹴りをした。
「グァッ……!」
後ろに倒れそうになりながらも尚、踏ん張ることによって押しとどまる鎧に更に追撃をしようと接近するが、その前に鎖が飛んでくる。
慌てて体を捻って回避をしたが、途中でクルリと戻ってきた鎖に足が当たった。
「いった……!」
「流石に、そう簡単にはいかないか。」
衝撃で飛ばされる感覚と共に僅かな痛みを感じた。もっとも、これが僅かで済んだことが信じられず、思わず首を傾げたが、やはり空にとっては想定内だったらしく、憎々しげに呟いただけだった。
((空。どうしますか?))
((このまま押し切ろう。神様の刀があるから、そう時間はかからないはずだよ。))
その言葉に心中で頷き、体勢を整え終えた鎧が振り下ろした剣を刀ですくい上げるようにして受け止める。
ガキンッと衝突し、一瞬の膠着の後、奥へと押し込むと、鎧は堪らず後ろへと下がる。何処にそれ程の力があったのかと自分でも思いながら、尚も追撃すると相手がバランスを崩し、背中が反った。
「グッ……!?」
「これで終わり!ですよ!」
今が好機と刀を扇へと変化させ、上から下へ一振りする。
ビュゥンッ!と吹いた風に堪らず鎧は飛んでいき、後はヒビ割れた空間だけが残った。そこをチクチクと扇から針へと変化させて縫うと、何も無い空間へともどった。
これで一仕事完了ですね。
ホッと一息つき、神様の方を見ると神様も何処かホッとした顔をしていた。どうやら心配させてしまっていたらしい。少しばかり申し訳なく思いながらも相性合体を解き、神様の元へと飛びつく。
いざ、神様のお顔の元へ……!
「……っと、そうはさせないからね。」
「なんと!初めて阻止されたんですが!?」
ぐぬぬと悔しさから神様を見ると、少し呆れた後に優しい顔になった。穏やかに私を見守るような視線は少しくすぐったかったが、それだけ心配させたということだろう。甘んじて受け止める事にする。
「本当に、無事で良かったよ。」
「えっと……心配をおかけしてすみませんでした。」
「いいよ。でも、その代わりにお願いを聞いてくれないかな。」
「……はい?」
戸惑いからの言葉だったが、肯定と見なされたようだ。ニコリと笑った神様からは何やら嫌な予感を感じ、パッと離れようとするが、首根っこを掴まれて逃げ出せない。バタバタともがいていると、フッと笑う気配を感じた。
「……えっと、なんですか?」
「報連相をちゃんとする事と、顔に張り付くのを辞めること。いいね?」
有無を言わさないような圧力に頷きかけるが、ちょっと待ったと留まる。
「……は……いいえ!神様!どうせなら1つであるべきですよね!?なんで2つもお願いがあるんですか!?」
「あー。バレたか。どうせならどっちも約束してくれたら良かったのに。」
「はぁ?神様のくせに姉さんになんて事をお願いしようとしてるの?有り得ないんだけど。」
「相変わらず当たりが強いのはなんで!?」
こうして無事に2人目の旧神、アイテールさんを解放することに成功したのだった。
神様って抜かりが無さすぎるんですが!?
「ふむ。仲良しはいい事だな!」
「うるさい。」
「ガーンっ!?」
次回、ダンジョン潜ってみよー
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




