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68話 一人は成長の機会

こんにちこんばんは。

途中で違う視点を急に入れたので注意して欲しい仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 チンッと到着を知らせる音が鳴り、開いた扉の向こう側へと進む。すぐに目に入ったのはガラス張りの外に広がる街並みだった。この方向には高層ビルなどの高い建物は存在しないらしく、見晴らしがいい。



「おー!これは良いですね!街の端まで見えます!」


「こら。プティ。はしゃがないの。」


「姉さん。静かにね。周りに人が居るからさ。」



 2人から注意され、ハッとして口を両手で塞ぐ。辺りを見回すと確かに迷惑そうにこちらを見る数人と目が合った。静かに眺望を楽しむのがここのマナーらしい。



「ごめんなさい。神様。気を付けますね。」


「いや、良いんだよ。さあ、こんな所で立ち止まっていないで見回ってみよう。何か面白いものと出会えるかもしれないよ。」


「はいです!」



 神様に勧められた通り、窓の外に広がる灰色の景色を見渡しながら進む。ガイアさんは既にちょこちょこと走り歩きをしながら周りを確認しているようだった。

 傍から見れば小さな子が一生懸命になって下を覗き込んだり空を見ようとしているように見えただろう。実際に周りに点々と居る人々は微笑ましげにガイアさんを見ており、警戒している様子は特にない。

 私もガイアさんを見習い、不自然にならないようにぺたりとガラスに張り付きながら移動することにした。



「ぜっけーれすねー。」


「ちょっ!?プティ……!窓に近すぎるから!離れて!」



 慌てながらも声を潜めて注意する神様にムッとしながらも離れる。何故かこちらには訝しげな視線が刺さり、なんとも解せなかった。

 うーん。おかしいですね。どうしておかしなものでも見るような目で見られるんでしょう。どこからどう見ても可愛いお人形さんが窓の外を覗いているだけなのですが……。


 人によっては目をそらす者もおり、ますます解せないと口を尖らせる。



「姉さんはたまに常識がお出かけするからね……。」


「あ。今回は空君もそう思うんだ?」


「……流石にちょっと庇えない……。」


「うん。寧ろ、今までよく庇えていたと思うよ。僕は。」



 コソコソと話し続ける二人にもう知らないと単独行動をすることに決める。どうせそう広くもないのだ。一周回って戻ってきたら別の場所だったなんて事は起こらないはず。

 そう考えてまず姿を隠せるような椅子の下に入った時に人形を収納し、種族スキルである〈透明化〉を発動させた。恐らく、これで私の姿は見えなくなったはずだ。

 そして、このまま外へ出られないかと窓の隙間を探すが、やはりそう簡単には見つからない。ならば、より上へと向かうべく階段を探す。こちらはすぐに見つかった。エレベーターのある柱の横に関係者以外立ち入り禁止という張り紙の貼られた金属製の扉があったのだ。

 しかし、透明化はあくまでも透明になるスキルである。通り抜けるにはまた別のスキルが必要だろう。どうしたものかと待っていると、本当に運良くその扉が開いた。この機会を逃すものかと扉の向こう側へと進む。

 ……あっ。神様に一言言うべきだったでしょうか。……いえ。そうなんでも報告する必要はありませんよね。


 そう軽く考え、上へと続く螺旋階段を進んで行った。



「あれ?姉さんは?」


「その辺にまたへばりついてるんじゃない?」


「……そう、だね。そうだといいんだけど……。」



 ・

 ・

 ・



 螺旋階段を進んだ先。その先にはやはりまた金属製の扉が存在していた。ここを開けねば向こう側には行けない。しかし、独りでに開くというのもおかしな話だろうと扉の前で考える。というのも、向こう側からは話し声が僅かではあるものの聞こえるからだ。目撃者がいるのは流石に頂けない。

 ……ここは、私がやはりすり抜けを覚えるしかなさそうですね。


 まず、第一条件として扉をすり抜けられるような大きさになるか、空気のような存在になるか、だ。

 例えば……反魔力、とかですね。あれなら実際に存在する物体をすり抜けてしまいますから。……あれ?有機物をすり抜けるだけで無機物は無理なんでしたっけ。


 それはダメだとまた考え直す。

 小さくなったり薄くなったりするのは限界までしても到底この扉の隙間に入り込めそうにない。

 すり抜けられる物質……そう言えば、吸血鬼は霧になって通り抜けられるんでしたっけ。そういう伝承があった気がします。

 それなら……と、どんどん輪っかの魔力を散らすように存在を拡散させていく。広げすぎてもバラバラになってしまいかねないと一定の範囲から出ないように霧状の球をイメージしながら拡散させた。

 後は名付けでもしたら完全に技として確定できそうです。この世界の技名や詠唱というのは付け足したい能力を付加させるときに用いられると神様は言っていましたからね。

 うーん。そうですね。これでどうでしょう?



「〈とある伝承の怪奇(ヴァンパイア):霧化(ミスティック)〉!」



 キーンッと辺りに響くような感覚がした後、何処か世界から隔離されたような不思議な感覚に陥る。このまま目の前の扉もすり抜けられるという妙な自信の元、扉の向こう側へと向かった。



 《プレイヤー:エンプティは【伝承実(オカルティック)現者(リアラー)】を獲得しました。》

 《それにより、新たな特殊進化の欠片を手に入れました。》



 □■□■□■□■



「うーん。こんなものかな?」


「そうですね。流石アレクセイ様です。」


「思ってもないことを言うのはやめてくれ。先代マスターに比べれば僕はまだまだなのは知っているんだ。」


「ふふふ。そういう所が素敵なんですよ。驕ることなく自分を知っている。力ある方でそのような人は珍しいですよ。」



 ニコリと笑う優香を見て頬をかき、何に使うかも知らない警備システムを厳重に箱に入れ直した。


 ここはヘパイストスファミリアの本拠地。十二星地と呼ばれる空島のさらに上空に存在する島のうちの一つだ。そこは十一の地とも鉱山の地とも呼ばれていた。名前の通り、島全体が鉱山で出来ており、人々は地下都市を作り上げてそこで暮らしている。

 ヘパイストスファミリアの本拠地はその中でも中心に位置しており、巨大な砂山に沢山の穴を開けたかのような建物に存在する。

 先々代から受け継がれているこの場所は現マスターであるアレクセイにとっても特別な場所だ。



「優香さん。そろそろ教えてくれてもいいんじゃない?これは何に使われるの?……いや、正確には何を守っているの、かな。」



 苦笑するように問いかけるアレクセイに優香はいつもと変わらない笑顔を浮かべて首を振った。それは明確な拒絶に等しい。



「いいえ。それは承諾できかねます。」


「どうして?先代がこの地位に縛られたくないからと僕にマスターを押し付けてからもうそろそろ1年が経つよ。僕だって気づくことぐらいは出てくるんだ。

 例えば、君が……時々、僕に誰かを重ねて見ていることとか。」



 感情を揺らすことの無い優香を見つめてアレクセイはやがてため息をついた。こうなった時の優香が口を固く閉ざして話そうとしないのはアレクセイも経験上知っていたのだから。



「……仕方がないね。まだ待つよ。僕は待つ。だから、話せるようになったら教えて。」


「……はい。」



 ギィ……っと厳重な金属の扉を開いて出ていくアレクセイの後ろ姿を見届け、優香はため息をついた。それは普段浮かべる完璧な事務員としての顔はどこにも無かった。

 強いて言うなら、大人に近づいていく我が子へ抱くような寂しさを感じる愛情深いどこにでも居る女性の顔をしていた。



「……やはり、黙っているわけにもいかないわよね。それでも、私は……。」



 守りたい。声に出さず口を動かした時、異変は訪れた。先程までの静寂は掻き消え、騒音が室内に響き渡る。どうやら、例の場所に侵入者が現れたようだ。



「大丈夫。私は間違えていない。これは、あの人の願いだから。」



 覚悟を決めてモニターを見る。そこには一体の人形の少女と封印したはずの鷲の頭をもつ人の姿があった。



 □■□■□■□■



「ハーハッハッハッ!構えろ!

 向かってくるぞー!やって来るぞー!」


「ははは。そうですねー……じゃ、ないんですが!?アイテールさん!それ、どっちも同じ意味です!」


「む!?本当か!それはうっかりしていたな!」



 ガハハハハッと笑うこの男性はアイテールさんと言い、鷲の頭を被った筋肉がムキムキの陽気なおじさんである。

 尚、近くには巨大な薄青の瞳を持つ白金色の大鷲が鎖から解放され、今にも飛び立ちそうな姿で目の前のヒビ割れた穴を見つめている。


 それにしても大変だったと改めて出会うまでの過程を思い出す。

 あれは金属製の扉を通り抜けた時の事。



「よいしょっと。ふむ。通り抜けるというのはなんともまた不思議な感覚がするんですね。」



 独り言を呟きながら開けた空間を見ると、そこは一本道の通路が存在していた。その先には巨大な門が存在し、真ん中辺りにやはり何かのカードをはめ込むような四角い穴があいている。

 ガイアさんのときと同様に何か落ちていないかと見回すが、特に見当たらない。それならと門の横に立つ2人組を見る。こちらを認識していない2人は好き放題に話していた。



「ここって何の部屋なんだろーな?」


「知らねぇよ。でも、優香さんの依頼だしな。何か意味があるんだろうよ。」


「それもそうか。優香さん、めっちゃ美人でカッコイイしな!」



 ケラケラと笑い合うあの二人が鍵を持っているとは到底思えないが、どちらにせよ扉を開けるのに邪魔である。撃退した方がいいだろうと拡散した魔力を糸へと変換し、2人を芋虫状態にした。



「ぎゃぁっ!?」


「なんだ!?これ!?」



 この時重要なのは反魔力でぐるぐる巻きにすることだ。魔力だけでは切られてしまう可能性を否定できませんからね。ふふふ。これで触れることも出来ず、ただ何かに拘束されている感覚だけを感じて動けなくなるのですよ。


 得意げに上から藻掻く2人を見ていると、そこへギィッと音を立てて後ろの扉が開き、出てきた男性はぎょっとした顔で2人を見た。



「なんで寝転んでんだ?」


「いや、これなんかに縛られてるみてぇなんだよ。」


「どうにか出来ないか?」


「2人揃ってマジかよ。ったく仕方がねぇなぁ。」



 グチグチと言いながらも2人に近づいていく男性を見てこの人が責任者っぽいなと感じた。それに、何やら胸ポケットに青白く光るものが見える。恐らく、あれが今回の鍵だろう。

 そう判断して胸ポケットへと糸を伸ばし、中のものを拝借する。



「あっ……!それは……!」



 宙を浮くカードを目で追い、慌てる男性を糸でぐるぐる巻きにして動きを留める。そのまま放置して鍵を門の凹みに入れると重厚な両開きの門は開いた。

 そして、中に居たのは巨大な鷲だったというわけですね。その後はガイアさんの時と同様に鍵を外し、今に至ります。

 因みに、扉は私が入ると同時に消えました。なので、出ていくこともままならないんですよねぇ。

 どうしたものか。そう思いながら穴の向こう側から覗く赤い鎧を見たのだった。

次回、この鎧どうしよう。


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 怪盗プティちゃんが大活躍♪ミッションクリアーです♪ だから言ったでしょう、ちゃんと見てないと(・・;) [気になる点] 暗躍している二人。さて、神様。此処からどう動くのかな?(もう手遅れ…
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