67話 歴史は色々あるもの
こんにちこんばんは。
説明会っぽいのが続いて申し訳ない仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
「え。ダンジョンに入れない、ですか……?」
「はい。申し訳ありませんが、現在、謎の空間が発見されたという報告により、神様ランキング12位以下の方には立ち入りをご遠慮して頂いております。」
丁寧にぺこりと下げられた頭に何も言えなくなり、結局冒険者ギルドから外へと出ることにした。
「あーあ。どうしようか。コレ。多分、先を越されちゃったんだよね?」
「……違う。寧ろ、あの子の存在感は弱まってる。」
「それって、つまり命の危機とかですか……?」
「いや、彼らを消滅させる程の力はまだ無いはずだ。だから、考えられるのは結界を強めたか、封印を強めたかのどちらかだよ。」
なるほどと納得しかけてピタリと止まる。今、少しではあったがまず間違いなく不自然な点があったはずだ。
力はまだ無いはず……?その言葉は相手を知らなければ出てくるはずがない。
ジトっとした視線を神様へと向け、ジーッと見つめる。またこの人は私に隠し事かと思いながらも話してくれるのではないかという希望を込めて見つめた。……が、それは残念ながら叶わないらしい。
私の視線を受け止めた神様は慌ててそっぽを向き、取り繕ったかのような笑顔を浮かべたからだ。
「どうしたの?プティ。」
「いーえ。ただ、神様はヘタレだなと思いまして。」
「えっ。……うーん。ちょっと、僕は秘密にしなければならないことが多いだけだよ。ごめんね。教えられなくて。」
申し訳なさそうに下げられる眉を見て虚しさを覚えた。……今は、知らないフリでもしておいてあげましょうか。
やれやれと肩を竦めて話を戻す。とにかく、今はこれからの行動について話す方が有意義だろう。
「どうします?これから。」
「それなら、気になるところがある。」
「よし。じゃあ、ガイアの道案内について行こう。」
「そうだね。」
トントン拍子でガイアさんが気になっているらしい場所へと向かうことになった。さて。どちらへ向かうのかと思い、ついて行く。冒険者ギルドがあった場所は下町から抜けてすぐの場所であり、街の中心からは外れたところにあった。そこからガイアさんは迷うことなくより賑やかな方へと進んでいく。
途中には大きなショッピングモールや高層ビルなんかがあり近代的だ。天空の街に比べて都市としても発達しているのだろう。道行く人々も何処か近代的な服装が多く、下町とも言えた町外れに比べれば小綺麗な服装の人が多かった。
「そう言えば、空島に街は10あるんですよね?それぞれの街でやはり文化なんかも違うのでしょうか?」
「ああ。そうだね。基本的に街は独立しているんだよ。何処もそれぞれの街には代表者が居て、それぞれに街を収めている。」
「更に言うと、彼らは争うことも無いんだ。なぜなら、街ごとに守るものがあるからね。そうでしょ?神様。」
「あっ。うん。そうだけど……。」
話そうと思っていたことを横からとらないで欲しいと拗ねるように言った神様に苦笑いをうかべる。きっと、これから説明しようとしてくれていたんだろう。
それにしても、独立した街、ですか。どうしてそれぞれに国を作らなかったのでしょう。土地が少ないから?いいえ。そうでなくとも土地と民と統治者が居れば国はできます。ならば、国を作らなかった理由があるはずなのです。
好奇心から神様を見て手を挙げる。質問をするのだから、手を挙げるべきだろう。実際にすぐさま手を挙げる私に気づいた神様はどうしたのかと私を見た。
「なんだい?プティ。」
「はい。どうして国ではなく街なのですか?」
その問いには神様と空が顔を見合わせ、何やら互いに首を振ったり押すようなジェスチャーをしたりとしている。
前を進むガイアさんは我関せずと前を歩き続けているが、少し鬱陶しそうに視線をやった。
「面倒臭い。ここは我らが父が答える。」
「……はぁ。分かったよ。
まず、大前提としてこの空島は昔から神様信仰が根強く残っている地なんだ。誰もが何らかの神を崇め、奉り、信仰する神を心の中に軸として持つ。そんな人々が生きているんだよ。」
「……なかなかに、それはカルチャーショックですね。
いえ、どちらかと言うと前時代的とでも言うのでしょうか。」
返ってきた答えの断片に相槌を打つ。それは正しく宗教と共にあった前時代のあり方だった。現在、それらの宗教はほぼ全ての地域において形骸化され、本当に神という存在を信じているものは極一部でしかないだろう。
僅かな驚きとともに神様のお話の続きを聞く。
「まあ、そうかもね。
でも、そうやってこの世界の人達は生きているんだ。その影響ははかりしれない。」
「例えばどのような?」
「この世界の人々は世界の頂点に王ではなく神を据えた。といえば、どう思う?」
ジッと向けられる視線に考え込む。それは前時代的である前に、人という特性を考えると想像しづらい事だったのだ。
どの時代にもそれこそ例え神を崇める時代であったとしても、必ず人を統べる存在というのは居たのだから。
教皇とかがいい例ですよね。うーん。……でも、その方法が無いわけではありませんね。それこそ、神様の奇跡を目の当たりに出来るような、そんな……ん?ファミリア、神様ランキング……ああ。なるほど。そういうことだったんですね。
「だからこその神様ランキング、ですか。」
「……よく、分かったね。」
「姉さんだからね。当然だよ。」
「ふふふ。それ程でもありません。
ここからは推測になりますが、この世界で旧神の方々は政治のような事をしていたのではありませんか?人々が迷わないように導いたり、争いごとをおさめたりといったようなことを。
その過程で何かが起こり、旧神に変わって上位ファミリアが土地を統べるようになったってところでどうです?現在は代理の方が行っているようですけどね。」
ニコリと笑って神様を見る。そこには苦笑する神様の姿があった。空は得意げに胸を張り、ガイアさんは驚きのあまりに立ち止まって私の方を見ている。全ては私の想像でしかないが、あながち外れではなかったらしい。
「あはは。うん。大体あっているよ。
ただし、この街を作ったのは彼らではなく、後のファミリアだと言っておこうか。これは結界の一つでもあるからね。
とはいえ、今の上位陣でその事を知っている人は限られているよ。全員が全員、そうでは無いから穿った見方はしないようにね。」
「なるほど。確かに、アキトさんがこういったことに加担するようには見えませんでしたからね。だからこそ考えにくい話だったんですが。
……つまり、彼らというのは一部のファミリアの事ですね。」
「凄い。ほぼ当たってる。これなら説明は要らない。流石、我らが父の愛し子。」
いつもの若干眠たげな瞳をキラキラと輝かせて私を見るガイアさんの視線になんとなく気まずく思いながら愛想笑いを浮かべた。
「ガイアさんにそう言われると嬉しくなりますね。ありがとうございます。」
「感謝される程でもない。むしろ、胸を張るべき。」
「そうだよ!姉さんは凄い!
ちょっとした情報からそんな所まで分かっちゃうんだから!」
キラキラと輝く二対の無邪気な目にさらされ、気まずいどころか目を逸らしたいようなそんな気持ちにさせられる。
うっ……純粋すぎません?ねぇ。この2人、純粋すぎますって!私の薄汚れた心にはちょっと辛いものがありますよ……!
「ははは。まあ、頑張れ。プティ。」
どうやら、神様は私を救う気はないようですね……!
ぐぬぬと心中で歯ぎしりし、この状況に耐えながら先を進んだ。
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そして、辿り着いたのは真ん中にある巨大な電波塔だった。
「ここですか?」
「ええ。ここ。一番気配が強い。」
そう言ってガイアさんは電波塔を指さした。しかし、何処にもおかしな所は見受けられない。魔力視にも特におかしなものは見えないようだ。
「へぇ。地下なの?」
「いいえ。……これは、上からだと推測する。」
ジッと上を見て視線を固定する。その先には何も見えないが、ガイアさんには何かが見えている……いや、見えていなくとも感じるのだろう。彼らは兄妹だと言っていた。兄妹と離れ離れになる感覚というのは分からないが、いいものでは無いだろう。そして、一人であるという感覚もまた……。
「ガイアさん。辛くないですか?」
「……?何が?」
「姉さん。ガイアにはその手の感情はないからね。気にするだけ無駄だよ。」
首を傾げるガイアさんにあれっと戸惑っていると、空から助け舟が入る。そういうものだろうかと不思議そうに私を見るガイアさんを見て考え直した。
そういえば、ガイアさんから感じたのは怒りだけだったのだ。悲しみではなく怒り。それは明らかに封印を施したであろう相手へのものだった。
つまり、意外と兄妹の心配はしていない、という事でしょうか。
ならばと早速どうやって向かうかを提案する。
「この電波塔は部外者立ち入り禁止ですか?」
「いや、展望台までは行けたはずだよ。そこから上は流石に許可がいるけどね。」
「それなら、とりあえず展望台に行こう。そこから外に出られないかも考えてみよう。」
展望台へと登るために中へと向かう。両開きの自動ドアが開いたその先には受付とエレベーターがあった。
受付には金髪の女性がおり、声をかけなければエレベーターを使用できないようだ。
「あの、こんにちは。」
「いらっしゃいませ。展望台にご用ですか?」
受付嬢らしく綺麗な笑顔を浮かべながら話しかけられ、言葉に詰まる。うっ……。マジで人見知りを拗らせてんですが!?
どうしようかと一人慌てていると、神様が前に出る。対応してくれるようだ。
「ああ。そうなんだ。今から登りたいんだけど、行けるかい?」
「はい。お一人様につき銀貨8枚です。」
「じゃあ、4人で32枚だね。大銀貨3枚と銀貨2枚。これでいいかな?」
「大銀貨3枚と銀貨2枚ですね。丁度頂きました。
尚、一時間経過以降戻っていらっしゃらない場合、係員が直接お声掛けする事になっております。ご注意くださいませ。」
それではごゆっくりという声と共にエレベーターへと案内される。
展望台というボタンを外から押した受付嬢は閉まっていく扉の向こう側で薄く笑顔を浮かべ、頭を下げた。
次回、展望台へ
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




