66話 目標は次の街へ
こんにちこんばんは。
何個か書きたいことがあるとどう進めるか悩むことに気づいた仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
体育祭イベントから数日が経った頃。
私たちは次の街へと訪れていた。
「おー。ここが不浄の街ですか。なんと言うか……」
「想定通り空気が澱んでるね?」
「もー!正直に言い過ぎですよ!そこは下町の雰囲気だとでも言うべきです!」
「どっちも同じことでは。」
私と空の言葉の応酬にボソリと呟くガイアさん。それらを苦笑して少し離れたところから見る神様の4人で歩を進める。
そこは確かに下町とも言うべき街並みだった。とはいえ、真ん中に行けば行くほどに発展しているらしく、高層マンションやビル、電波塔のようなものが見える。
流石にシャッター街は怖いですよねぇ。……ハッ。今、神様にピトッと張り付いていても何も言われないのでは……!?……まあ、今はやめておきますか。
ここに来るまでは街と街の間に存在する森を抜ける必要があり、そこを無事に通過してきた後なのだ。と言ってもそこまで大変な相手は居なかったが。
なんでも神様が言うには、下から来るプレイヤーはこちらの敵を全て倒せるレベルになってからでないと来れないようになっているらしい。理由は知らないが、その説明をしていたときの神様は真剣な顔をしていたため、何か複雑な事情があるのは分かった。
「ところでガイアさん。ここに本当に居るんですか?」
「当然。ここにお人好しの弟がいる。……気がする。」
「曖昧だね。まあ、良いけれど。ボクもそろそろ耐え難かったし。」
「流石に目立ちすぎたからね。仕方がないんだけど。」
実はこの移動にはただ他の街を見たいと言うだけでなく、不都合な事から逃れるという意図やガイアさんの意向があった。
それは2時間程前のこと。
「もー!嫌です!私、お外に出ません!」
大会が終わり、私たちは一躍ときの人となっていた。……が、それは喜ばしいことばかりではなかった。理由は単純である。外に出れば誰彼構わず話しかけてくるのだ。
初めの頃は丁寧に対応していたが、それも何十回と繰り返されれば嫌気がさす。はっきり言って鬱陶しかった。
それにより、今までは取り繕えていた外面も見事に剥がれ、人見知りを拗らせていた。
「まあまあ、そう言わないで。プティ。直ぐに皆飽きるって。ほら、人の噂も七十五日って言うだろう?」
「75日もあれば次のイベントが来ますよね?
また目立つ自信しか無いんですが!?」
なんとか誤魔化そうとする神様の言葉にますますカチンときた私は目を三角に釣りあげて反論する。なかなか収まりそうにない私の怒りに神様は頬をかいてどうしようか戸惑っている様子だった。
え?そこはイベントで加減をしろと?いいえ!断じて私は加減なんてしませんから!なんなら、神様の名を広めるためにも大活躍をしてみせます……!
とはいえ、やはり声をかけられるのは……と、心の中で葛藤していると、空がにこやかな笑顔で爆弾を落とした。
「ふふふ。姉さん、大丈夫だよ。今日声掛けてきた人達は皆ピックアップしてあるから、なんならファミリアごと潰せるよ。」
「待って。そ、空君?それは流石に大袈裟すぎるから、ね?やめよう?」
「はぁ?これくらい姉さんのためなら普通なんだけど。寧ろ、あの人達、無礼すぎて見てらんないよ。ほんと酷い。アイドルにだって人権はあるのにさ!」
ぷりぷりと怒る空に神様はどうしたものかと頬をかいた後、反論するのを諦めたようだ。何かないかと考え、ひとつの結論を出す。
「あ。そうだよ。ここに居るから声をかけられるに違いない!人の少ない街へ行かないか?隣の街なら人気もあまりないからのんびり出来るはず!」
「うん。気分転換にも良さそうだね。どうかな?姉さん。」
「む……。分かりました。確かに、それならまだマシそうです。」
少し考えてから首肯する。実際のところ、そろそろ違う場所も見てみたいという気持ちがあったのもあり、提案事態に否やはなかった。
「ガイアさんも行きますか?」
その流れでこの問いをするのは当然と言えただろう。しかし、ガイアさんからはなかなか返事が返ってこなかった。というのも、何やら真剣な表情で考え込んでおり、聞こえなかったらしい。
そういえば、大会が終わってから時々何かを考え込んでいる節があったんですよね。聞いていいものか……。いえ、気になりますね。よし。聞きましょう!
気になるものは気になるのだと俯いているガイアさんの肩にそっと触れる。そこでようやくガイアさんは私の方を見たのを確認し、口を開く。
「ガイアさん。何か悩んでるんですか?」
「……?旧神が悩むことは無い。
あるとするなら自身の領域を超えるか否かの思考のみ。それは我らにとって悩みではない。寧ろ、楽しみですらある。
故に、気にされるほどのものでは無い。」
淡々とはしているものの、強い意志のこもったその目を見て理解する。彼女はただ事実を述べているだけなのだと。
……とはいえ、気になるものは気になるんですよねぇ。
その考えを読み取ったように空がガイアさんに話しかけた。
「ねぇ。ガイア。キミが何を考えていたのかをボクは知りたいな。」
「どうして?」
「視点を変えることは思考の豊かさに繋がるからだよ。ガイア。生き物というのは一人一人考え方が違う。だからこそ、人は視点を変え、視野を広げるために複数人で問題を共有するんだ。その方が早く解決出来ると知っているからね。」
微笑みをたたえて話す空にガイアさんは少し考え込み、迷うように躊躇いながらもやがて頷いた。
「……人とは小さきものだと思っていた。
叡智には程遠い。故に過ちを犯す。しかし、群れるからこその知恵がある。ならば、願う。考えを聞きたい。」
ガイアさんの素直な言葉に頷き、何について考えていたのかを聞いた。それはまず間違いなくガイアさん一人では結論を出せないような事だった。
「えっ。つまり、ガイアさんのような人が他にもいるんですか?」
「恐らく。私だけにしてはあのバカの封印は手が込んでいた。何より、姉を見なくなったのも私と同じ理由だったなら分かる。」
何処か怒りを滲ませたガイアさんにそれ程までの相手なのかと眉をひそめる。正直、ガイアさんが怒っている姿が想像できなかっただけに、よっぽどの事なのかと改めて考えた。
もしも、他にガイアさんのような方がいるのなら……。
思い出すのは禍々しい鎖に繋がれる巨大な鹿の姿のガイアさん。それは到底許せるものでは無いと私は感じた。だとするならば……私がするべきことは一つですね。
「分かりました。助けに行きましょう!」
「……危険だよ。プティ。僕は良いとは言わないから。」
「どうして?危険が伴うとき、神様は絶対に良いとは言わないよね。ボクはその度にキミに失望しているよ。神様。それは本当に姉さんのためなの?それとも、自分の保身のため?
ねぇ。姉さんもそう思うでしょう?」
透明な瞳で私をまっすぐ見る空は少し怖かった。言葉に詰まり、おろおろと視線を外してしまう。
「え、えっと……。」
「こら。空君。君の方がプティを困らせてるじゃないか。嫌われても知らないよ。」
そこでハッとしたのか、空は慌てた様子で私に抱きついてきた。そして、捨て猫のような不安げな目で私を見る。
「ね、姉さん…。ごめんなさい。そんなつもりは無かったんだ。お願い。ボクは、姉さんに捨てられたらボクは……」
「大丈夫ですよ。空。私は空を愛していますから。捨てられるなんて言わないで下さい。ね?絶対にそんな未来は来ませんから。私たちは一心同体でしょう?」
あやすように微笑み、空の顔を見ながら声をかける。縋り付くように腕の力を強める空の背中をさすり、頭を撫でた。
そうして空が落ち着くまでよしよしとしていると、やがて恥ずかしそうに顔を俯かせた空はおずおずと口を開いた。
「え、えっと、姉さん。そろそろ離してもらっても、いいかな……?」
「えー?私はこのままでも良いんですよ?空。」
「うー……。……ごめんね。姉さん。」
ニヤニヤと腕の中におさまる空を見ていると、そこへ咳払いが聞こえた。
「あー……そろそろいいかな?」
「むー。仕方がありません。
それでですけど、ガイアさんのお仲間?を助けるのは確定で良いですよね?」
ニコリと笑って神様を見る。神様はうっと言葉を詰まらせたあと、やがて息を吐き出して口を開いた。
「分かったよ。プティの願い通り、助ける。これは確定でいいよ。
あと、仲間じゃなくて兄妹だよ。」
「そう。我らは兄妹。……ただ、今はその気配を感じない。」
「え?全員?」
「ええ。」
肯定するガイアさんに全員かと尋ねた空の言葉から空はガイアさんについて私よりも多くを知っているようだと察する。
まあ、気にすることでもありませんね。空のことは信じているので。
「ガイアさん、一つ聞いても?」
「何?」
「そのご兄妹は何人……何柱いらっしゃるんですか?」
「人でいい。現在、我らは神ではないから。
私を含めて11人。この世界の旧神は12人。一人は我らが父。故に省く。」
ああ。そう言えばこの人も神様だったんだと改めて実感しつつ、11人も居るのかと考える。
もしガイアさんと同じように封印されている人が居るとして、それは何処だろうかと。……まあ、私はこの世界には不慣れですし、思い当たる場所がないか神様たちに聞くこととしましょう。
「場所の目星とかついていますか?」
「……大体。私と同じように我が兄妹達を封印するには広大な場所が必要。故に、地下か上空である可能性が高いと考える。」
「なるほど。それなら、同じように他の街のダンジョンにいる可能性が高いね。」
「同じ街にいる可能性は無いんですか?」
「姉さんの考え方も分かるけど、流石に大きさがね。
深さを変えたとしても神としての力が反発しあって異常気象とかが起きるから流石に無いよ。」
それなら納得だと頷き、早速近くの次の街へと向かうことにした。恐らく、その街に存在するダンジョンにも封印されている可能性が高いだろうからと。
「……我らも、そうだったなら何か違ったのか……。」
話し終えた後に神様の店を出る。立ち止まったガイアさんが何処か遠くを見て呟いた声は私に聞こえることは無かった。
こうして今に至り、不浄の街のダンジョンへと向かうことになったのである。
次回、ダンジョンへ行く前に
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2022/04/05 11:35 買って→勝ってに訂正する誤字報告を適用しました。〜
ご報告ありがとうございますm(_ _)m




