63話 騎馬戦は果敢に
こんにちこんばんは。
誰かやる気を注いでください……な仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
応援合戦も終わり、いよいよラストだと浮き足立った雰囲気の中、アナウンスが流れる。
『もう間もなく騎馬戦が開催されるわ。
出場人数は各ファミリアにつき3人から4人までよ。選手は予め誰が馬役をするのか決めておきなさいね。』
『サルーラはともかく私は出場準備があるので、後は任せしましたよ?サルーラ。』
『当たり前よ。活躍、楽しみにしているわ。』
笑い合う二人を横目に見つつ、神様たちと最終確認をする。今回の騎馬戦は人数的にも全員で参加予定だ。
そこで問題なのは、誰が騎手をするのかだった。空と私が合体した姿とガイアさんが神様の身長に合わないため、どうするかで意見が割れたのだ。これにはかなりの時間論争したが、結局はこうなった。
「……えっと、本当にこれ、大丈夫なのかな…?」
「ノープロブレム。私は重くない。」
「ボクだってこのくらい余裕だよ。」
「神様が重いわけありませんよね!」
「いや、何その絶対的な信頼感!?」
結論から言うと、神様が上で私が前、ガイアさんが後ろという構成だ。正直私は不安しかないが、そこは言うまい。
まあ、神様を果たして持ち上げることが出来るのかということに関してはやってみたら意外と出来たのだ。深くは考えないでおく。
恐らく、空のステータスが反映されているんでしょうねぇ。
『いよいよ始まるわよ。最後の戦い、騎馬戦が!
実況は流石にもうお馴染みかしら?サルーラ・サラサーティ・フルフラリーよ。』
『解説はポセイドンのサブマスター。アカツキ・春風だよ。よろしくね。』
『というか、最後の解説が貴方だなんて意外ね。ポセイドンはサブマスター抜きで頑張るのかしら。』
『うっ。……まあ、僕はこの種目に向いていないからね。それよりも種目のルール説明に入るよ。』
若干落ち込んだようだが、アカツキさんは切り替えるように首を振って顔を前に向ける。
そして、始まった説明は大まかには普通の騎馬戦とそう変わらないルールだった。
『今回の騎馬戦では騎手が手で取った相手チームのハチマキの本数によってポイントが加算され、騎手のハチマキが取られた段階で失格となるわ。』
『また、ポイントについては今スクリーンで表記されている通りとなっているよ。確認しておいてね。』
アカツキさんの声に従い見てみると、新しく表示された画面に次のような事が書かれていた。
1位、2位 10000点
12位から3位 1000点
50位から13位 300点
100位から51位 200点
200位から101位 100点
400位から201位 80点
600位から401位 40点
800位から601位 20点
神様ランキング外 10点
よくよく確認し、私達は取られたとしても20点であることを把握する。ランキングが上位になるに連れて徐々に責任が大きくなるのかと思った。
1位と2位ってことは応援団長が所属するファミリアという事ですからね。ポイントが一番……というか、他に比べて圧倒的に高くても納得です。恐らく、バランスの都合上というものなのでしょう。
『それから、生き残った場合も追加点があるわ。そっちは全員100点で変わらないわね。』
『つまり、どちらも500組が参加するため、全員が生き残れば5万点貰えるわけだ。奪われても奪われるまでに数多くのハチマキを手にしていればそれは加点に入るから、じゃんじゃん奪っちゃってね!』
『あと注意事項だけれど、手でハチマキを奪うときに掴み合いはダメよ。叩き落とすか魔法で妨害なさい。』
『また、騎馬がバラバラになった場合も失格とするよ。しっかり置いていかれないように後ろの人は気をつけてね。……前回、僕はそれで失格になったしね。』
はははっと笑うアカツキさんの顔には何処と無く哀愁が漂っていた。ああ。置いていかれたんだろうなと少し可哀想なものを見るようなそんな空気が流れたあと、更に注意事項は続いた。
わざとぶつかりに行き、騎馬を崩した場合や殴ったり叩いたりといった攻撃行為は失格。また、魔法で他者を完全に寄せつけなくしていい時間は2秒まで。それ以上は同様に失格となるらしい。
「つまり、魔法で相手の足止めをしている間にハチマキを取るのはありですか?」
「そうだね。この場合、完全に寄せ付けないっていうのがネックかな。要は、最後の1分とかになって全員が全員守りに入っても面白くないだろう?」
「なるほどです。」
つまり、ある程度の盛り上げを見せるためのルールであるらしかった。制限時間は20分。最後の競技にしてはあまり時間がかからないもののような気がしたが、一番盛り上げを見せるというのだから楽しみだ。
そうして待機していると、何故か横にアキトさんが来た。どうやらアキトさんは騎手を務めるらしい。その下にはサブマスであるドリーナさんとその他に二人程の男性がいた。
「よう。嬢ちゃんにノーn」
「あはは。おかしな所に来るね?アポロンのマスター。こんな所に来てどうしたんだい?」
親しげに話しかけてくるアキトさんの声に被せて神様が話し出す。どうやら、二つ名を言われるのがよっぽど嫌だったらしい。
何かに気づいたようなアキトさんは少し考えたあと、スマンっと片手を上げて謝っていた。
「というか、アキトさんは下ではないんですね?意外です。」
「うんうん。アキトったら女の子に担がせるなんて流石にボクは引くよ?」
男としてどうなのという声にアキトはおどけたようにやれやれと肩を振り、反論しようとする。そこへ更に聞き覚えのある声がかかった。
「ハハハ。ソレは仕方がナイことなのサ!
基本、騎手はマスターがするものだからネェ?」
ケラケラと笑う声の元を見ると、そこにはすっかり疲れ切った様子の騎馬の人達と相変わらず愉快そうな妖華さんが居た。
「決まり事?ならば、我らもする。」
「違ぇよ?ただの慣例でしかねぇし、そもそも適用されるのも12位以上の奴らくらいだ。」
「ソウソウ。全くもっテ面白くナイよネ?」
妖華さんに尋ねられ、言葉に詰まっているとそこへまた新手が……って、どれだけ声かけられるんですかね!?私たち!
心の中でツッコミを入れながらも目線だけを声の方へと向ける。それは後ろの方から聞こえたため、今の体勢では体を向けられなかったからだ。
「ふふふ。とは言っても、やはりマスターを騎手にする所は多いわね。やっぱりリーダーの意見の方が喧嘩しなくて済むじゃない?」
朗らかなメルフィーナさんの声にそういうものかと頷いていると、見えたその姿に驚いて二度見する。
そこには長袖の体操服を来たメルフィーナさんの姿があった。
因みに、ズボンは長ズボンである。実に健全でいいと思った。流石に、不健全なのはお腹いっぱいだっただけになんだか癒されますねぇ。
浄化されるような気持ちでメルフィーナさんや妖華さん、アキトさんが話している姿を見ていると、作戦を立てようという話になっていた。
その話を私が聞いていいのかと思っていたら、私たちを巻き込みたいからここでするのだと言われ、首を傾げる。残念なことに空は不思議に思わなかったのか、実際には首は横に動かなかった。しかし、その後に続いた作戦を聞いて驚く。
「……え?えぇえええええええっ!?」
「まあ、そうなるよね。」
「うん。そんな事だろうと思った。」
「否やはない。実に合理的。」
「えっ。……合理的なのは分かりますが、流石に空耳ですよね!?も、もう一度言って頂いても!?」
一人だけ驚いている状況を少し恥ずかしく思ったが、そこは譲れない。しかし、改めて聞いても現実が変わるわけはなかった。
「驚くのも仕方がないわね。
貴方たちに囮になって欲しいのよ。」
「あー……何度も言って頂くことになり、申し訳ないです。でも、囮、ですか……。」
他の3人が賛同している中、私だけ戸惑っているのもおかしな話ではある。勿論、ガイアさんが言っている意味も分かる。分かってはいるのだが……。
今までの競技結果を見ても私たちの実力は現在のランキングよりも高い。しかし、ランキングが低いからこそ失ってもそこまで痛くない駒として扱えるのだ。更に言うと、騎手は神様である。まず間違いなくやろうと思えば返り討ちにだって出来るだろう。……問題は私たちが足であることだが。
何にせよ、軽んじられているが故の頼みではなく、信頼されているが故の頼みだというのは分かっているのだ。それでも、心情的に簡単に頷けるものでもなかった。どうしたもんですかねぇ。
((全く。姉さん。そんなに深く考えないで。せっかくのイベントだよ?))
((空……。でも))
((でももヘチマもないよ。せっかくだし、楽しもう?
こういう時こそ、神様のカッコイイところを見せてもらわないと!))
((……そうですね。))
何処か茶化すように言う空に苦笑しながらも頷く。確かに、空の言う通りこれはイベントなのだ。楽しまないと損というものだろう。
「分かりました。カオスファミリアはその提案をのみましょう。」
「良かったわ。よろしくね。」
少しホッとした様子で去っていくメルフィーナさんを見る。既にカウントダウンは始まっており、残り30秒を切っていた。アキトさんや妖華さんは既に中央に描かれている円の端ギリギリに立っており、私たちはその2つほど後ろにいる。
『それでは、3・2・1!』
『『競技、開始っ!』』
パンっとピストルが鳴り響く音ともに一斉に走り出す。そんな中、私たちは前を走るアキトさんを走り抜き、一番前に出た。私は魔力によるブースト、ガイアさんはステータスのゴリ押しによるものだ。
赤組の一番前には正に強者と言わんばかりにゼウスファミリアが居たが、その横を抜けて奥を目指す。
私たちの動きに釣られたか、ディボルトさんから一瞬手が伸びて来たが、それは神様によって弾かれた。
その後も急に現れた私たちにギョッとする赤組の横をすり抜け、時には手も伸びてくるが神様はそれを全て手で叩き落とす。怯んだ隙を狙ってはハチマキを奪っているようだ。
勿論、その間ただ走っているだけの私ではない。
魔力糸を神様の頭の周りにヘルメットのように張り巡らせ、固定する。これにより、神様のハチマキへと伸ばされる手を一時的に捕まえられるのだ。……まあ、結局保険でしかないんですけどね。
スピードを緩めることなく突き進むと、赤組の一番後ろにまで出た。そこにはまだ動けずにいる10組程のファミリアがおり、何処か油断しているように見える。どうやら、一番後ろだからまだ敵は来ないだろうと高を括っているようだ。
そこを狙って片っ端から突撃し、奪いに行く。相手はこちらに気づいた瞬間に慌ててそれを阻止しようと魔法を放ったり、障壁を張ったりするが全てガイアさんや神様によって破壊された。無防備に晒されているハチマキを神様が奪う。これで赤組の後ろは取れた。
「さて。ここまで順調だね。」
「そうですね。ここからは遊撃戦ですか?」
「せっかく後ろを取れたんだし、後ろから油断してる奴らを攻めようよ。」
「それ良い。そうする。」
あらかた意見が決まったところでまた走り出す。目指すは赤組の撹乱。さて、どこまで乱せるか楽しみですね?
次回、決着
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




