62話 応援合戦は盛大に
こんにちこんばんは。
応援合戦ってどんなのだっけ?ってなった仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
『さて。いよいよランキング上位12位の出番ね。』
『今回も楽しそうな方ばかりですね。……ふふ。我らが愛しのマスターは今回もちゃんと素敵な衣装を選んでくれるでしょうか。』
もはや隠す気すらなさそうな捕食者の目で言う優香さんの声を聞き流しつつ神様に対して腕を組む。既に観客席まで戻ってきており、周りからはなんだなんだと視線を向けられているが、そんな事は気にしない。こちらの声は遮断しているのである。気にする必要もないだろう。
あえて作った綺麗な笑顔で神様に笑いかける。そこには当然、温度はない。
「神様♪私、一つ申し上げたい事がありまして。」
「う、うん。なんだい?」
「神様。今回という今回はそろそろ私も怒っていいと思うんですよ。ふふふ。」
「うっ。……ごめんなさい。」
素直に謝る神様に、今度はこちらが気まずい気持ちになる。それはもちろん、あんな宣言を衆人環視のもとしてしまったからで。私とて流石に分別というものはあるだけに、今回はやり過ぎたと思っていた。
……まあ、良いですか。だからこそ、今回の件を神様のうっかりの件とで打ち消しって事にしてくれないかと思っているわけですし。とはいえ、やはり言い出しづらいですね。
しかし、こうしてまごまごしていても仕方がないと腹を括り、神様をキッと睨むように見て口を開く。
「なので、先程の悪酔いと合わせてちゃらという事にしていただけませんか!?」
「え」
「えー。姉さん。甘いよ。すっごく甘い。ハイミルクのチョコレートで作ったチョコレートケーキにチョコソースかけるより甘いんだけど。」
「それ、どんな例え方……?」
「そこ、気にするところじゃないでしょ。神様?」
苛立ったように空から睨みつけられ、素直に頷く神様。どうも今日は大人しいなと思いつつ、ちょっと待ったをかけることにした。
「空。私はそこまでは望んでいないんですよ。それではただの甘えん坊になっちゃいます。世の中は親しき仲にも礼儀あり、なんですよ?」
咎めるように空を見ると、空は少し考え込んだ後、なんとなく言い出しにくそうに口を開いた。
「……姉さん。貴方が欲しいものをボクは知ってるんだ。だから、神様にはそれに応えられる人になって欲しい。その為には今のままじゃダメなんだよ。
だから、ボクは神様に厳しく接するし、ダメ出しだってする。それってダメなことかな?」
下から覗き込まれるような感覚にうっと息を詰める。妹からの、上目遣いでのおねだり……叶えない方がおかしいですよね!?
即断即決した私はその言葉の意味を深く考えるよりも先に結論を言葉に出していた。
「良いですよ!空、貴方がしたいようにしてください。
貴方は私の妹なのですから、存分に姉に甘えれば良いのです!」
「良かった。それじゃあ、ボクは神様に用があるからちょっと席を外すね。」
「へ?」
溢れ出た言葉は誰のものだったのか。有無を言わさない勢いで空は神様を連れていき、後には私とガイアさんだけが残った。
「何だったんでしょう……?」
「さぁ?愛は専門外だから。」
そう言って興味なさげに競技を観戦し続けるガイアさん。しかし、その言葉に興味が湧いた。
既に競技は終盤に入っており、不思議の国のアリスの格好をしたアレクセイさんの違和感の無さにあちこちから歓声があがっていたが、そこはどうでもいい。自然と言葉が出ていた。
「ガイアさんって大地の旧神なんですよね?なら、自然と大地の上で生活するもの達に愛情を覚えたりしないんですか?」
「愛情……。慈愛なら覚える。しかし、私は旧神。故に個体に対する愛情は持たない。だからこそ、専門外。
そういうのは我が兄が詳しい。私は関与する気は無い。」
何処か遠くを見ながらそう言ったガイアさんはそっぽを向いた。どうやら、あまり触れたくない話題だったらしい。失敗したと思いながらもガイアさんの言葉を分析する。
つまり、ガイアさんは全体に対する愛情を持っていても個人に対する特別な愛情は持たないんでしょうね。……もしかしたら、持てないのかもしれませんが。
我が兄という事は、ガイアさんのお兄さんに愛の神様がいるのでしょうか。あまり仲がいいという訳では無さそうですけど。
そんな事を話しているうちに一位がゴールする。一位はメルフィーナさん、二位はトアさん、三位はヘルメスのサブマスターのクラウドさんだった。
メルフィーナさんはフリルのたくさんついた黄色いミニドレスに花のステッキを持つ魔法少女のようなコスチュームを着ていた。因みに本人はあらあらと微笑んでいたが、目は笑っていなかったとだけ言っておこう。
メルフィーナさんの活躍は何より、あれだけ暴れていたロバがメルフィーナさんを乗せた途端に従順なロバになったことだ。メルフィーナさんの職業は結魂者であるらしく、そのスキルの一つに〈動物指揮(愛)〉というものがあるらしい。それによるものだろうとは優香さんの言葉だった。そこで2位と大きく差をつけれたのは言うまでもない。
そして、最後の関門であるお題は食べたいけれど食べれないもの、だった。てっきり食べ物を持ってくるかと思いきや、それで連れてこられたのは何故かヘラのサブマスター、アル・マキナという青年だったのだ。
え?人……?となったが、本人が言うには食べたいくらいに可愛いけれど流石に食べるのは無理でしょう?との事だった。勿論、否やの声が上がることなくゴールしたのは言うまでもない。
トアさんの衣装は真っ白なウェディングドレスだった。走りにくそうだったが、メガネをつけていないためか普段のキツさやちj…コホン。衣装のちぐはぐさが無くなり、ごく普通の綺麗な女性になっていた。……本人は恥ずかしそうだったが。
尚、お題は将来絆を結びたい人だった。因みに、この世界で結婚することを絆を結ぶというらしい。
結婚したい相手を聞かれるなんて可哀想だなと思ったらディボルトさんでしたよ。意外性がまったくなくてブーイングが起きたのは言うまでもない……と、言いますか、それ以上にまったくディボルトさんに脈がなさそうすぎてそっちの方が涙を誘っていましたね。私も涙腺が……なんてことは無く、ただ頑張れと応援することにしました。
哀れまれるのは惨めですから。それなら応援するほうがマシなのです。
クラウドさんは王子様のような服装をしていた。普段のピエロのお化粧がないクラウドさんは一瞬誰かと思うほどに印象が違っていた。何処にでも居そうな茶髪に茶色の瞳。長身のクラウドさんは男装がよく似合っていたため、てっきり男性かと思っていたら女性だったらしい。秘密だけど秘密じゃないことというお題で暴露していた。
何故か、この組のお題はたいてい秘密の暴露系だったんですよねぇ。まあ、毎回恒例のようですが。
その後、赤組と白組による応援合戦が始まった。
出場者は応援団長が所属するファミリアの人達であるため、実質、ゼウスファミリアとヘラファミリアの対決とも言える。
『最後の騎馬戦の前に応援合戦です!楽しみですね!』
『そうね。前回はゼウスが勝ったのだったかしら。
やはり空を飛べるというのはそれだけで華々しくて魅力的よね。』
うっとりと言うサルーラさんにラパンさんは苦笑して頷いていた。サルーラさんには少し夢見がちなところがあるのかもしれない。
まずは赤組。それは凄まじい銅鑼の音から始まった。
ドォーンッと腹に響くような音にビクリと肩をふるわせ、音の出元を探す。
しかし、それよりも早く空を影が覆った。
「これより!我ら赤組の応援を開始する!」
「我らの一挙手一投足!見逃さないように!」
見ると、揃いの軍服に赤いマントを身につけた50人ほどの集団が三列になって空を飛んでいる。その中から前に出てきた2人組はディボルトさんとトアさんのようだ。
ここまで離れていれば聞こえてきそうにもない指を鳴らす音が聞こえ、三列に並ぶ人たちのうち、最後列の人達が地面へと降りて楽器を構え、トアさんの指揮で演奏を始める。
それはどうやら流行りの曲をアレンジしたものであるらしく、ノリのいい曲に合わせて空に残った3分の2の人達が分裂したり集まったりとする様はまるで鳥たちのダンスのようだ。
どうやら、飛行機雲のように動く度にできるカラフルな雲が宙に花や文字を作ったりと見ていて飽きない。
「凄いですね。」
「そうだね。ゼウスファミリアはいつも空を舞台にしているんだ。あまり見られないから珍しさもあって結構人気なんだよ。
それに、年々洗練された動きになってきて見応えがあるんだ。」
「ふーん?それなら次のヘラファミリアの応援も楽しみだね。」
「ええ。楽しみ。」
礼をして空へと飛んでいく集団に何処から戻るんだろうかと思いつつ、アナウンスを聞く。
『今回も素敵だったわね。また見たいわ。』
『そうですね。特に一斉に宙返りをした所が見所だったのでは無いでしょうか。あれ程に統率がとれているのもゼウスファミリアならではと言えるでしょう。』
『うんうん。その通りよね。ああ。私もやってみたいわ。』
『ははは。そうですね。今度、見ていてあげますから、やってみて下さい。楽しみにしていますから。
それでは、次は白組の応援です。』
切り替えるようにそう言ったラパンさんの声と共に辺りが暗闇に包まれる。急な出来事に戸惑いの声が聞こえてくるが、すぐ様にパッと真ん中が照らされた。
そこにはメルフィーナさんがいた。一つ礼をして後ろを振り向く。そして、スポットライトがパッパッパッとついた。照らし出されたのは黒い烏に白い狼。そして、桃色の魚の尾を持つ女性。その周りには点々とバイオリンやヴィオラ、ピアノなどの楽器を持つ人達がいる。
メルフィーナさんがスっと息を吸い、歌い出した。それに合わせて女性がハモリだし、烏に狼が声を合わせて音楽を作り出す。更に楽器を合わせる人達。
それは楽しげなメロディであり、つい踊り出したくなるような気分にさせた。
フィールド全体が明るくなり、照らされたそこにはたくさんのもふもふ達が居た。
そう。もふもふ。
二本足で立つ猫に犬、猿、兎と様々な動物たちが手にタンバリンや木琴、小太鼓、カスタネットと様々な楽器を持っている。その様は正に癒しだった。
タヌキとキツネがかけっこし、ピアノの上に何匹も集まったハムスター達がお饅頭のようにかたまっているのが凄く可愛い。
自由に伸び伸びと過ごす動物たちの音楽祭は終始和やかな雰囲気出終わった。
『相変わらず可愛かったですね!もふもふ!』
『というか、あれだけテイムしている方がおかしいのよ。流石、獣の女王なだけはあるわ。』
どうやらメルフィーナさんは獣の女王と呼ばれているらしい。呆れた様子のサルーラさんにラパンさんは苦笑いしている。
それだけあの光景は珍しいものであるらしかった。
「そういえば、この勝敗ってどうやって決まるんですか?」
「ああ。運営の方で点数は付けるよ。使われたスキルに魔法、完成度なんかで決まるかな。
まあ、実質、そこまでのポイント差は生まれないよ。」
なるほどと納得した所で、いよいよ最後の競技が始まるというアナウンスが流れた。
ラスト、頑張りますよ!
次回、騎馬戦
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




