54話 競走は派手に
こんにちこんばんは。
ギリギリのギリですが見直しが間に合わなかった仁科紫です。
それでは、良き暇つぶしを。
まずは第1走者がパーンっという破裂音と共に走り出す。一直線に引かれたトラックを駆ける走者達は現実よりも圧倒的に早く、もたもたしていると罠の設置も出来ずに終わりそうだった。みんなが皆オリンピック選手以上に早く走れるんですよ?本当にどうかと思います。
そこへ早速1つ目の罠が発動する。
「いっ……!?なんだこれ!?」
『早速罠に引っかかったようね。
かかったのはパーントゥファミリアのホズミ。15秒間そこで足を拘束されるのはかなりの痛手ではないかしら。』
『200メートルしかないからね。数秒の遅れでもとんでもない差がついてしまうのがこの競技の特徴だよ。
それに、これは増田ファミリアの罠だね。どんな場所でも拘束できるように訓練してるらしいから、これくらいはお手の物なんじゃないかな。』
『それ、どんな訓練よ……。』
呆れたサルーラさんの声を聞き流しつつ既にゴールした人もいる中、進んでいく競技を見る。
どうやら、ホズミという人は踏んだ場所から足枷が出てきて拘束されたようだ。他の場所でも炎の柱が上がったり、自分のペアが楽できるようにと防御の魔法を設置する者もいるようだ。もっとも、それをきちんとペアが踏めているかは分からないが。
「おー。やはり見ていて面白いですね。」
「妨害合戦だもんね。通る前に設置することってなっているから、直前に設置してもいいわけだ。それでもミスする時はするから……これ、意外と心理戦の面もあるんだね。面白い。」
そうして見ていると、全員という訳では無いが、大抵が真ん中を走ろうとするのが分かる。それが原因なのか罠も真ん中に多く設置されているようだ。寧ろ、端の方にある罠は発動されずに溜まっていき、通るにはかなり危ない道となっている。
魔力視で見えるから言えることですが、あそこ、1歩歩けば罠に遭遇するっていうレベルで酷いですよ……?
何度か走者が走り抜けた頃、案の定、端に一歩踏み出した選手はその場で潰された。
ぐぇっとカエルが潰されるような声をあげて地面とキスをする大柄な男性は相当悔しそうだ。
「うわぁ。あの罠、重力系でしたか。かなりエグイですね。」
「そういえば、罠に嵌めた側もポイントをゲットできるらしいよ。これは拘束時間にも反映されるみたいだけど。」
「へぇ。じゃあ、麻痺とか物理的なのってどうなるんでしょう?」
そう疑問に思った時だった。
タイミングよくシビレ罠にかかった走者がいたのだ。
「ぐっ……。」
『あら。今度はビリビリって……あの選手、不運に程があるんじゃないかしら。』
『黒闇天ファミリアのオーダ選手だね。
でも、彼の特性からすると……。』
ビリビリと痺れながらも前へと進むオーダという名前の男性は更に風の魔法の罠を踏んでしまい、吹き飛ばされる。
しかし、何故か途中で風向きが変わり、行先はゴール前へ。着地した男性はパッと走り出し、1位でゴールインした。
『スキル〈吉凶は糾える縄の如し〉だね。』
『あら。良いこともあれば悪いこともあるっていうことわざだったかしら。』
『そう。このスキルは発動すると悪いことが起きた後、必ず良いことが起きるんだ。だから、今回は最下位まで落ちたその反動で1位にまで挽回出来たわけだね。』
『正にこの競技向けね。そういえば、前回もこんな感じで逆転している子が居たわ。この子だったのかしら。』
『オーダ選手は毎回3位以上の結果を残している選手だよ。絶対とは言えないけど、可能性はあるね』
『毎回は凄いわね。』
感心するサルーラさんに同意する。
これだけの人数がいる中、毎回どんな相手と当たっても3位以上というのは間違いなく凄いことだろう。
「そろそろ神様の番でしょうか?」
「うん。神様ランキング外で参加しているファミリアは200程。これで9組目だから、そろそろのはずだよ。」
じゃあ、あともう少しですねと頷き、そんなにもファミリアがあるんだと感心する。
もう少し少ないと思っていただけに驚いた。
「結構居たんですね。」
「作るだけなら誰でも出来るからね。もっとも、大抵は神様ランキングに参加したいファミリアか強い相手と戦いたいファミリアぐらいしか参加しないんだけどね。この大会。」
「ああ。確か、個人の部があるんでしたっけ。」
「そうそう。同じチームになりたければ予めパーティを組んでいたらいいだけだしね。そっちの方が人は多いよ。」
なるほど。と頷いていてパッと下を見ると、神様の番になっていた。何度目かのピストルの音がなり、神様が走り出す。……が、一陣の風が吹いたかと思うと既に神様の姿はゴール前にあった。
周りはその事にすら気づかなかったのか、スクリーンの上部に1位ゴールのテロップが流れたことでようやく辺りはどよめいた。
『あら。もうゴールした方が居るようね。アルベルト・テオズ……。最近、ランキングに入ったカオスファミリアのサブマスターだったかしら。』
『物凄い速さだったね。
スピード、罠に触れない感知能力、最後に風魔法の罠を利用しての加速。ちょーっと本当に人間なのか疑問になっちゃうんだけど?そもそも、なんで罠が風魔法だって分かったのか僕は知りたいな。』
『ふーん?そこまでとなると上位ファミリアにもなかなか居ない人材ね。一体何処に隠れていたのかしら。』
注目を集める神様の一方でガイアさんも頑張っているのか、3つの罠がそれぞれの場所で発動したのが見えた。……ただ、ものがものなだけにとても目立っていたが。
「うわ!?なんだこれ!?」
「高ぇ……。」
「あれ……?罠は高さ2.5mまでよね!?なんでこんなに高いのよ!?」
それはもう終盤といったところで起きた。
罠を踏まれると同時にグワッと隆起する地面。それはどう見ても2.5mより高く、走者の行く手を阻む。しかも、それは一つだけではなく横一列に3箇所で起きたのだ。ただ一つ一つが個別に聳え立つのではなく、3つで一つの壁として走者の行く手を阻んだそれはもはや障害物競走の様にすらなっている。当然、15秒で消えるというルールに従い、消えるのを待つがなかなか消えないどころか消える気配すらない。
戸惑い始めた観客と走者に実況のサルーラさん達も慌て始める。
『……これは、どういう事かしら?』
『えっと、こういうのはデメテルの方が詳しいんだけど……。
あれは地面に隆起を促す魔法、なんだ。つまり、隆起するかしないかは本人の地面との親和性次第なんだよ。だから、本来はあそこまで巨大な隆起は作り出せない。
大抵は……そうだね。本当に小さな躓くくらいの起伏しか作れないはずだ。あれだけの事が出来るのはそれこそデメテルのマスターやサブマスター、それに準ずる人達くらいだろうね。』
『それは知ってるわよ。結論は?』
『つまり、あれはルール違反でもなんでもなく、使った人が大地の申し子とも言うべき人だったからこそ起きたイレギュラーってところかな。』
『……確か、玉入れでとんでもない事の引き金になった子もカオスファミリアの子だったわよね?』
『うん。カオスファミリア、今回のイベントのダークホースになりそうだ。』
残り79組を残しているというのに消えない壁に、走者はその前でだけ魔法を使っても構わないという新ルールが急遽出来た。尚、魔法を使わなかった走者には追加点があるらしい。
これは……爪痕を残しましたねぇ。ガイアさん。
「本気出しすぎたね。ガイア。」
「今頃除け者にされていなきゃいいんですが。」
「いや、多分、姉さんのその心配は無用なものだと思うよ。」
「え。そうですか?」
こくりと頷く空に首をかしげ、そういうものだろうかと考える。
競技を終えた神様とガイアさんは気づけば両隣に座っていた。
「ふぅ。ただいま。プティ。空君。」
「ただいま。」
「おかえりなさいです!2人とも凄かったですよ!」
「おかえり。ガイアは……ちょっと、やり過ぎだったかな。」
ニコリと笑っていう空に神様は苦笑し、ガイアさんは憮然とした表情で空を見る。本人としてはかなり不本意な結果だったらしい。
しかし、それからガイアさんは表情を一変させ、機嫌よくポケットの中から手のひらいっぱいに何かを取り出して見せてきた。
「ん。」
「お菓子、ですか?えっと、これは……?」
「捧げ物。」
「捧げ物……?」
意味がわからず首をかしげ、どういう事かと神様を見ると神様は変わらず苦笑していた。
一方の空はやっぱりと呟き、納得したように頷いていた。どうやら分かっていないのは私だけのようだ。
「僕がゴールした後、どうやらガイアはかなり人気者になっていてね。他のプレイヤーからお菓子を渡されて居たんだよ。」
「人の子はいい子が多い。彼らから貰ったものは私の力になる。」
「あ。これ、もはや養分扱いされてません?」
「旧神だからね。姉さんが思っている以上に彼女らは傲慢だよ。これが当然なんだ。」
空の言葉を不思議そうに聞くガイアさんは不思議そうなだけで否定しない。寧ろ、何を当たり前なことをと疑問に思っているようだ。
「エンプティ、食べる?」
「え。良いんですか?」
「良い。エンプティ、我らが父の子も同然。言うなれば家族。
ならば、私が貴方の力になるのは当然。遠慮なく受け取る。」
はいっと渡してくるキャンディーをリングに放り込む。コロコロと転がすまでもなくシュワーっと溶けていくキャンディーはいちごミルク味がした。
ふむ。飴玉なのにすぐに無くなってしまうのは情緒がないですね。
「ありがとうございます。美味しかったですよ。」
「そう。良かった。」
ほわっと笑うガイアさんに確かにこれは貢ぎたくなるのも分かるなと思った。
普段の無表情気味なガイアさんが微笑みによって包容力がさらに増すのだ。少女なのにこの包容力……間違いなく人気が出るだろう。
うんうんと頷いていると、神様の感心するような声が聞こえた。
「何時見てもプティの食事風景は凄いね。」
「分かってないね。神様。
あえてそこに何かを入れようとする姉さんの発想力がすごいのさ。」
相変わらずよく分からないことで言い争う二人だった。
まだ半分過ぎたくらいなんですけどねぇ。試合を見なくて良いんでしょうか?
次回、上位陣の競走
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。




