53話 イレギュラーは起こりうるもの
こんにちこんばんは。
もしかしたら52話ちょっと一部を書き直すかもしれない仁科紫です。
眠いので……また、明日にでも……。
それでは、良き暇つぶしを。
何用かと気になりながらもニコニコと微笑み続けるメルフィーナさんを見ていると、やがてメルフィーナさんは口を開いた。少し申し訳なさそうな顔をしていることから、やはり相手への配慮が出来る女性のようだ。
「ごめんなさいね。急に話しかけたりして。貴方の言う通り、私はメルフィーナ。白組の応援団長なの。
貴方の活躍が気になって、ちょっと挨拶をしたかったのよ。」
「えっと、私はエンプティです。……やはり、目立ってましたか?」
やってしまったかと思いながら首を傾げると、頷くメルフィーナさんに益々やらかした感が募る。
いや、だってこんないい人そうな人からそういう風に言われちゃうんですよ!?絶対にやらかしじゃないですか!
心の中でぎゃあぎゃあと喚いていると、メルフィーナさんが口を開いた。
「ふふふ。そこまで気にしなくてもいいわ。毎回そういう子は居るもの。
それより、少し応援団長としてお願いがあるのだけど、良い?」
「はい……?」
・
・
・
「はーい!それじゃあ、今から影を作るので皆さん準備してくださいねー!」
「「おうっ!」」
かけた声に合わせ、それぞれが思い思いに返事する。これから行われるのはあちら側にとってはとんでもない事だ。私がもしされた側なら、たとえ神様であってもキレている自信がある
本当にいいのかと真ん中のスクリーンを見る。そこには白39900-赤39658という文字が映っている。既に残り1分をきり、物凄い勢いで増えていく赤の数字に驚きながらも、やはり勝つためにはそうするしかないのだろうと決心が着いた。
思い直した私は魔力を込め、今までに行ってきた魔法よりもより強力なものを作り出す。
「行きますよーっ!〈影袋〉!」
「これでも喰らいなさいなっ!〈雷帝の鉄槌〉!」
「〈悪魔的芸術〉」
「〈大地の嘆き〉ってなぁっ!」
次々と魔法が影へと吸収されて行くが、まだ向こう側には送らない。空間に溜め込み、中で渦巻くエネルギーを逃さないようにする。
くっ……なかなかにキツイですが、まだまだ我慢です……!
最後の大詰めにと見知った2人が地面に広がる巨大な影に向かって技を放つ。
「汝らに深淵を見せようかってなぁ!〈血流砲〉!」
「派手ニ暴れてきナッ!〈符術:統合助長〉!〈符術:摩訶不思議砲〉!」
更に膨大になった力の奔流を妖華さんのお札が抑え、一纏めにする。いよいよ抑えの効かなくなる力をこれでいいと向こう側の籠の影に接続。吐き出した。
ドガンッと物凄い音が鳴り響き、籠が様々な色の光線によって包まれる。
そこへメルフィーナさんの凛とした声が聞こえた。
「〈家族強化:巨大化〉!黒!頼んだわよ〜!」
「グァッ!メルフィーナのため!」
行ってくる!と妙に人間臭い仕草で敬礼した大烏は未だに開いている影を通り、向こう側へと向かってしまった。
そして、既にボロボロになった籠に烏はとどめを刺す。
「〈うぃーんぐ、かったー〉!〈翼撃〉!」
透明な魔力の刃を翼に纏わせた烏は籠の縁を狙い、上へ下へと翼をうちつける。
初めはツルリとした表面を持っていた籠の枠が、次第にピシリピシリと音を立てていく。やがて、バリーンッと凄まじい衝撃と音を伴って籠は割れた。
途端に今まで大量に入れられていたお手玉があちこちに雨のように降り注ぐ。それを赤組の人達は呆然と見つめていた。
『試合終了〜!
見るまでもなく、白組の勝利です……!
最後まで見逃せない展開でしたね!』
『だな!まさか籠ごと破壊するとは……そもそも籠は破壊不能オブジェクトのはずなんだがな!』
困惑していながらもガハハと笑う声がし、決着に関しては運営に問い合わせることにしたようだ。
その間にもプレイヤー達は次々と観客席へと転送されていく。かくいう私も同様に空と一緒に神様たちの元へと戻されていた。
「ただいまです!」
「ただいま。」
「おかえり。良き戦いだった。」
「おかえり。2人ともよく頑張ったね。」
神様のねぎらいにふふーんっと胸を張ると、目の前の違和感を空が指摘していた。
「なんでガイアが体操服を来ているの?」
そう。ガイアさんは何故かオーソドックスな短パンの体操服を来ていた。長いふわふわの髪を下の方で2つの三つ編みに纏めたガイアさんはとても可愛らしい。
ブカブカの半袖にゼッケンで『がいあ』と書かれたそれはよく似合っていたが、急にどうしたのかと首を傾げる。そういったものを着るタイプには見えなかったからだ。
空の疑問にガイアさんは顔色を変えることなく口を開く。
「私が望んだ。」
「ガイアがあれは何だと聞いてきてね。
この祭りの正装だと答えたら自分も着ると言って聞かなかったんだ。」
「祭りに相応しい姿を選ぶのは当然。躊躇う方がおかしい。」
「いや、初めはあっちの方でって言うから流石に……ねぇ?」
そう言って神様が指さすのはスクリーンの方だ。そこにはまだラパンさんが映っている……って、マジですか?
ハッとしてガイアさんを見る。ガイアさんはいつもの顔よりも若干不貞腐れて見えた。どうやらよっぽど不服だったようだ。
「……動きやすい。羨ましい。」
「あー……。ガイア。人は肌を見せすぎないものなんだ。ボクと姉さんも肌は見せていないだろう?」
「?」
「あ。分かってないですね。これ。」
空の言葉にも首を傾げるガイアさんにこれはダメだなと察する。
ガイアさんも元神様ですからねー。貞操観念が結構緩いのかもしれません。
そんなことをぼんやりと考えつつ、スクリーンに目をやると丁度ラパンさんは画面外から紙を渡されているところだった。
『……あ。たった今、運営から連絡が入りました。
えっと、なになに……?
「今回の籠は特別性のため、破壊不能設定に出来ませんでした。しかし、破壊できるオブジェクトの中でもトップクラスの硬さを誇るため、今回はその努力に応じて作戦を認めます。
ただし、お手玉を入れたポイントは減少せず、籠の破壊ポイントを各ファミリアに追加させて頂きます」……?
……運営もまさかの事態に困惑しているようですね!』
『これはゼウスのねーちゃんの失態かもしんねぇなぁ。』
『そうなんですか?』
『おう。ねーちゃんが壁を作ったことで安心して籠を固定した。この事実が今回の事態を引き起こしたっつっても過言じゃないからな!』
『なるほど……。
今回は魔導の崇拝者の判断ミスという事ですね。』
ほおっと感心したように頷くラパンさんにユウナギさんはガハハと笑って話をしめた。
『まあ、こんな事言ってっと後で俺が締められそうだけどな!』
『ははは。相変わらずですねー。ユウナギさんは。』
クスクスと笑うラパンさんの横でガハハと笑い続けるユウナギさんはどうやら豪快な人のようだった。
まあ、漢って感じで人を惹きつける魅力があるんでしょうね。
スクリーンを見ながら考えていると、画面が変わった。どうやらこれから第二競技が始まるようだ。
『それじゃあ、これから第二競技、200メートル走を始めるわよ。実況はサルーラ・サラサーティ・フルフラリーが。』
『解説はポセイドンのサブマス、アカツキ・春風が担当するよ。僕の解説、ちゃんと皆聞いてね?』
花が咲くような微笑みを浮かべるアカツキさんに周りから黄色い歓声があがる。どうやらこの人も人気があるようだ。
サルーラさんの隣に座るアカツキさんは可愛らしい少年だった。柔らかそうな桃色の髪にクリっとした大きなタレ目を縁取るのは、バサバサと音を立てそうな程に長い桃色のまつ毛。大きな明るい緑の瞳はキラキラとしていて綺麗だ。柔らかそうな頬はふっくらとしており、触り心地が良さそうだとぼんやりと思った。
少しぶかっとした7分袖の上着に大きめの手袋と華奢な体を強調するような服装をしている。
まあ、端的に言うと小悪魔的な美少年ってところですね。
「この競技は神様とガイアさんが出るんですよね?」
「うん。この競技はガイア向きだから。きっと見ていて楽しいよ。」
空の説明にどういう事だろうかと首を傾げていると、神様とガイアさんから声をかけられ、揃って姿が消える。
恐らく、下に転移したんだろう。眼下には沢山の人が黒い点のように見えていた。
「おー。これが人がゴミのようだっていうやつですね。」
「いや、それ言っちゃダメだからね?姉さん。
神様のこともゴミだって言っているようなものだよ?」
渋面の空に首を傾げたが、空の言葉にハッとして頷く。
「確かにそれはいけませんね。神様は神様なので!」
「ああ。やっぱりそうなるんだ……。」
何処か遠い目をした空に何か間違えたかと思ったが、きっと気のせいだろう。知らないフリをして競技の説明を聞く。
『この200メートル走。通常の200メートル走ではないのは当たり前だけど、2人で参加するというところがミソよね。』
『そうだね。1人は走者、もう1人は妨害者に分かれて行う競技だから見応えも十分!ただ走るだけなんて言えないレベルで毎回白熱するんだから!』
『そうね。その分、注意事項も多いわよ。心して聞きなさい。』
その後、サルーラさんの説明は以下の通りだった。
・一斉に走る人数は20人。初め以降は20秒事に走り始める。
・妨害者はペアの走者と同じ組の走者が通る前に罠を設置し終えること。
・設置できる罠は1人につき3個まで。
・発動されなかった罠は永続的に残り続け、初めにランキング外のファミリア。次にランキング下位から順に走り始める。
・罠は地面か空間に設置すること。
・地面に罠を設置する時は半径1m以内、高低差は2.5mまでとする。
・罠の発動後の持続時間は10秒。
・20人中上位3名がポイントを得ることが出来る。
因みに、空を飛ぶのはやはりダメらしい。200メートルをきっちり走らなければならないため、純粋な足の速さと勘の良さが問われるとの事だった。
確かにこれは面白そうですけど、危なそうですね。神様が止めるのも……あれ?でも、玉入れの方が酷かったような……。いえ、様子を見なければ分かりませんね。
頭を軽く振り、聞き手に戻る。どうやらもう少しで始まるようだった。
『これ、人気なのはいいんだけど時間がかかるのよね。』
『見てる方は飽きないけどね。
さーて!そろそれ時間だよ!今回はどんな楽しい姿が見れるのかな?楽しみ!』
『それじゃあ、第1走者、準備をお願いね。』
『このピストルが鳴ったらスタートだよ!』
『『よーい、ドンッ!』』
こうして二つ目の競技が始まった。どうなるか楽しみですね!
次回、200メートル走
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。
〜2022/03/28 00:56 感を勘に訂正しました。〜




