5話 人形は飛ぶもの
こんにちこんばんは。
ほんと、感情表現、分かんない…な仁科紫です。
本日こちらが2話目の登校となっております。
お気をつけてお読みくださいませ。
それでは、良き暇つぶしを。
『さて。それじゃあ、早速始めようか。』
街案内から再び裏通りにある人形屋に戻ってきた私たちは今、向き合って座っていた。
…まあ、座高の都合により、私は机の上。神様は椅子の上なのですが。
ぐぬぬ…大きさが違うというのはなんだか気に食わないですね。
『神様!身長を要求します!』
『う、うん。しんちょう…?急にどうしたの?
それよりも今は体を動かす方法の習得をした方がいいと思うんだけど…?』
神様の戸惑った声で考えていたことが口から出ていたことに気づく。正しくは思考が漏れていたとでも言うべきだらうが。
はっ!まさか聞こえていたとは…!これではまるで子どもみたいです。落ち着けー。落ち着け私ーなのです…。
心の中でそんなことを唱えつつも、にこりと神様に笑いかけるつもりで話しかける。勿論、からかう事は忘れずに。
『はい。そうですね。神様。何せ、神様のお言葉は絶対なのですから…!』
『いや、何でそうなるの!?
え。神様ってただのあだ名なんだよね?僕を崇めるとかそういう意味の神様じゃないよね!?』
『えー。どっちでしょうね?』
ふふんと、機嫌よく笑うと神様は勘弁してとばかりに項垂れた。
あはっ。良いですね。なんだかとっても楽しくなってきましたよー!
神様の反応に気を良くした私はニヤリと笑う。
『まあ、冗談なんですが。』
『なんだ…って、冗談なんだね!?本気かと思ったんだけど!?』
『あははっ。神様は素直ですねぇ。
からかいがいがあって実に良きです。』
『君は良くても僕は良くないよ…。』
クスクスと笑う私を恨めしげに睨んだ神様はちっとも怖くなかった。それどころか、欠けていたものが補われていくような充足感を得る。
ふふふ。もっと私を見てくれたら良いのに。…おっと。睨まれてこんなことを言うなんて変態みたいですね。決して私は変態じゃありませんよ?ええ。どちらかと言うと、私は少しばかり性根が歪んでいるだけなのです。
まあ、別に構いません。綺麗なだけの人間は居ないと知識が言っていますから。それよりも問題なのはお話が脱線していることですね。素早く戻してしまいましょう。
『さて。いつまで脱線しているんですか?
そろそろ神様の言う体の動かす方法について教えて欲しいです。』
『誰のせいだと思っているのかな。誰の……!』
『はて?』
神様の切実な訴えに対して咄嗟にとぼけようかとも思ったが、ふと思いついたことがあった。
…あ。ここはとぼけるよりも肯定した方が面白そうですね!
そう思い直した私は首を傾げつつも頷く。
『私のせいですね!』
『分かっているなら、少しは素直に話を進めようという努力をしてもらえるかな!?』
『嫌ですねぇ。神様。私ほど神様に対して素直なものはおりませんよ!
ほら、素直に!自分の欲望に従って話を進めております!』
『あー…。そういう事じゃないんだよなぁ…。』
はぁっとため息を零した神様は肩を落としつつもようやく諦めがついたのか、自分に言い聞かせるように呟いていた。
『まあ、良いか。いや、良くはないんだけど良いとしよう。うんうん。この子はこういう子だ…。』
ご理解頂けたようで何よりですね。ふふふ。あぁ。満たされます。この感情は一体、なんなんでしょうか。
一瞬、理解できない感情に気を取られつつも、何やら話し出そうとしている神様の言葉を一言一句逃さないように耳を傾けた。
『これから説明するのは、君にはまだ早い技術だ。すぐに出来るとは僕も思っていない。
だから、君もそんなに身構えずに聞いてくれ。君が満足に動けるようになるまでは僕がサポートするからさ。』
『え!?という事は、神様。私がずっと動けなければ永遠に神様と一緒に居られるというk…ぃたっ!?』
今の言葉が見逃せないくらいにはふざけ過ぎたらしい。神様からデコピンを貰ってしまい、痛くもないが反射的におでこを手で押えてしまう。……心の中で。
いや、だってサポートしてくれるんですよ!?
今の言葉はつまり、無制限に私を介護してくれると言っているも同様じゃないですか!これに乗らない手はありますか?ありませんよね!?
誰に訴えているのかもはや分からないが、心の中で叫んでいると、神様の窘める声が聞こえた。
『こーら。冗談でもそういうことを言うんじゃない。
君はこれからこの世界でたくさんの人と出会うんだ。僕にばっかり構っていたら出会いが減ってしまうよ?』
おや。神様にとってはどうやら親切心からの言葉だったらしいですね。
…私にとっては突き放されたも同意なのですが。
そう思うと同時に、心に冷たいものが落ちる。波紋となって拡がるそれは、理由は分からずとも酷く恐怖を覚えるものだった。
波が収まりきる前に言葉がするりと心の隙間をぬって口から溢れ出る。
『神様は…』
『うん?なんだい?』
目を伏せて言葉を紡ぐ私に、優しく促すような目と穏やかな声音で神様は聞き返した。
…そういう、そういう所ですよ。神様……。
出会って1日も経っていないが、優しい人だというのはすぐに分かった。何せ、初対面だというのに私を見る目が優しすぎたのだから。
だからこそ、何をしても許して貰えそうでついつい甘えてしまう。分かっていた。からかうと言い訳しながら、ずっと神様を試していたことは。まるで、幼い子供が大人にイタズラをして試すかのように、何処かで叱られるのではないかと戦々恐々としながらもやめられずにいたのだ。
でも、初めて神様は私を叱った。つまり、彼の線引きはここなのだ。彼はずっと私を傍に置いておく気はない。そうとも取れる彼の線引きにますます不安が波をかきたてる。
『神様は、私がいない方が良いですか?』
口から出た言葉にしまったと思った。そもそも、出会って数時間の人形に宿った何かが言うような言葉ではない。
それでも…何故か、問わずにはいられなかったのだ。
本当に、どうしてなのかは自分でも分かりませんけどね。
思いを言葉にして落ち着いた心で苦笑する。さて、神様はどのような返答をするのか。
やや間を開けて神様は口を開いた。くしゃりと歪められた顔に目を惹き付けられる。
『そんなわけないだろ。じゃなきゃ…』
いつもとは違ってぶっきらぼうではあったものの、確かに私の不安を否定するその言葉に信じられなくて聞き返す。その言葉の続きが気になったのもあった。
『え…?』
ところが、その途端にハッとした神様はまるで何事も無かったかのようにいつも通りニコリと笑って言葉を続けた。
『なんでもないよ。
そろそろ時間も結構経ってしまったし、始めてしまおう。』
その態度を不可解に思いながらも、どこかホッとしたように安堵の息をついた私がいた。しかし、それには目を背けて気付かないふりをして相槌をうつ。
賢くない子は嫌われちゃいますからね。深くは聞かないのです。
『そうですね。ところで、どんな移動手段なんですか?
この体が動くところなんて想像もつかないんですけど。』
『うん。それなんだけど…』
神様の説明によると、人には人の移動手段があるように人形には人形の移動手段があるらしい。
立って歩くだけじゃないんですねぇ。…車みたいなものでしょうか?
『具体的にはどういうものなんです?』
最終的な形が分からなければ想像も出来ないと尋ねてみる。
『具体的に…そうだね。言ってしまえば、飛ぶんだよ。』
『……はい?飛ぶ、ですか?』
『そう。飛ぶ。』
返ってきた突拍子もない言葉に思わず聞き返してしまった。それぐらいには全く想像がつかない方法に考え込む。
……飛ぶ?ふむ。神様のお言葉を疑う訳ではありませんが、飛ぶ…所謂、心霊現象のせいにされがちな人形の移動方法を私にしろということでしょうか?不思議な移動手段ですねぇ。
確かに、それは一日二日で出来るものではないでしょう。そもそも、どんな原理があれば人形が飛ぶなんてことになるのかも不思議で仕方がないですし。
『どうやってですか?』
『うーんと、この世界では誰もが魔力を持っているんだけど、それを操って、かな。』
自信なさげに言う神様に少し不安になったが、それよりも魔力という言葉が気になる。
魔力、ですか……私の持つ知識によると、架空の存在。所謂、ファンタジーと呼ばれる物語の中でのみ存在する謎の力のようですね。という事は、やはりここは元々私という存在がいた場所ではないようです。
…ゲームの中の世界説が濃厚になりつつありますねぇ。もしくは、ファンタジー世界に転生。とはいえ、記憶喪失で知識だけあるって何それ感が凄いですけどね。
そんなことを考えつつも、相槌をうった。
『魔力ですか?…私にもあるんですよね?』
『勿論だよ。血の流れと…って、君は人形だったか。君の場合は魔力が集まりやすい場所…脳や人で言う心臓に当たるところを意識してみてくれ。』
どうやら、魔力とは人間で言う急所に集まりがちのようだ。
それはそうと…なんでこの人は私を人と間違えかけてるんですかね?アイムアドール!私は人形なのですよ?ほんと、不思議な方ですねぇ。
次回、飛びます!
それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。