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47話 鍵は魔力に

こんにちこんばんは。

文字数的に長くなりそうだったので分けることにした仁科紫です。


それでは、良き暇つぶしを。

 無駄話は好まないのか、道案内だけを淡々とする声によって導かれた先。そこは鹿の右前脚に当たる部分だった。どうしてこんな所に?とは思ったが、声によるとまだまだ下の方が目的地らしい。

 声に従い、ふわふわと飛びながら降りていく。空は神様の元に留まることにしたのかここまではついてこなかった。恐らく、動けないという神様の事が心配だったのだろう。やっぱり仲良いですよね。あの二人。


 降りていくと見えている景色に違和感を覚え始めた。具体的には言えないが、なんとなく変な感じがするのだ。それは降りていくほどに強くなっていく。

 そして、ある一線を超えた時、世界は一変したのだ。

 赤く暗雲立ち込める空。禍々しい雰囲気を纏う太い鎖がジャラジャラと音を立てながら空間を漂う。巨大な鹿に巻き付き、動きを封じるそれはどう見ても良くないものだ。



「な、なんですか!?これ!

 どうしてこんな……!?」


『さあ?少なくとも私は知らない。

 私は皆を信じた。それだけだから。』



 意味が分からないと狼狽える私にここまで案内してきた声は淡々と答える。そこに感情はない。あるのかもしれないが、読み取れないのだ。

 だからこそ、その言葉は真実なのだろうと思えた。ただ、そうですかと一言告げ、何をしたらいいのかと問う。



『簡単。枷をとる。その資格を貴方は持ってる。』



 資格とは何かを問いたかったが、僅かに圧を感じた。恐らく、聞いても答えてくれないのだろう。

 ただ頷き、足につけられた鍵穴のある枷に目を向ける。これを外せばいいのだろうが、それよりも前に疑問が思い浮かぶ。



「あの。この鍵って……。」


『知らない。資格あるものは開けれる。……それだけ。』



 鍵穴があるのだから当然あるだろうと思った鍵は何処にあるのか分からないらしい。何処からか聞こえてくる声がその時ばかりは少し悲しそうに聞こえた。

 しかし、こうしてばかりも居られない。さて。どうしようかと鍵穴に触れようとする。



『待って!』



 反射的に手を戻そうとするが、その前に指先が鍵穴に触れてしまう。あっと思ったが、何かが吸われていく感覚と共に酷い疲労感を感じた。それでも何かを吸われる感覚にゾッとする。

 ど、どうしましよう!?えっと……多分、吸われているのは魔力なはずです。ならば、魔力を手から切り離し、離脱です!


 なおも触れた指先から吸われ続けているが、切り離した魔力が無くなった途端に吸われる感覚はなくなった。慌てて距離をとり、今も見ているはずの声に苦情を述べる。



「はぁ。はぁ……何なんですか!これ!危ないじゃないですか!」



 MPを見るとじわじわ回復しているものの、膨大な魔力のうち半分ほどが消え去っていた。

 ……こっわ!?怖すぎません!?この鍵穴!……ですが、この鍵穴に触れ続けている鹿さんの方が大変ですよね。


 ぼんやりとそんな事を考えていると、声が淡々と事情を説明し出す。



『注意点を話していなかった。

 この忌々しい鎖は力を吸収する。ここに入る前と同様。』


「……あの鍵と同じような原理ということですか。」


『鍵……それが必要?……多分。』


「そんなものあるわけないじゃないですか!」



 どうにもならない状況に苛立つ。資格はあっても鍵がなければどうにもならないのだから。

 鍵、鍵……。そういえば、あれは魔力を弾く性質を持っていました。魔力を弾くことに何か意味があるのでしょうか……?


 鍵穴に合わせるように魔力糸を調節。魔力の性質を反転、反魔力とでも言うべきものに変化……しようとするが、激しい抵抗を感じる。恐らく、この方法は無理矢理過ぎるのだろう。それでも成功させねば成せないことなのだ。

 ジリジリと減っていく魔力に焦っていると、今まで私のすることを黙って見ていた存在が口を開く。



『……それではダメ。

 2つの反発する魔力を完全に調和させるか4つの調和する魔力を混ぜるか。そうして出来るのが反魔力。』


「助言ありがとうございます。ですが、そういう事は知っているんですね。」


『……当然。我らはずっと見てきたのだから。』



 ぽつりと呟くように言う声から何処か寂しそうなものを感じた。見てきた……という事は、見ている事しか出来なかったともとれる。きっと、長い間そうして過ごしてきたのだろう。

 いえ、今考えることでもありませんね。


 頭を振って切り替える。声の助言通りに光と闇の魔力を合わせるが、いつも通りでは影になってしまう。恐らく、どちらかに偏っている状態が影魔法なのだ。

 ……私には〈二極合成〉があるとはいえ、これは完全に調和させるものでは無く、ただ混ぜるだけのものだったというわけですか。まだまだ魔法は奥が深いですね。


 それからどれだけ時間が経ったのかは不明だが、短くない時間が経った頃。

 ピカっと魔力糸が輝き、その時が訪れた。



 《プレイヤー:エンプティは

  〈調和〉を習得しました。》



 確かに今までの魔力とは異なっているようだ。コントロールも自由自在という程ではなく、動かすことの出来る範囲がある程度決まっていると直感で理解する。

 でも、鍵を作る程度なら問題なさそうですね。



「では、行きますよ!」


『ええ。』



 声に一言告げ、魔力糸を鍵穴へと入れる。気分は泥棒だが、そこは気にしない。鍵穴に沿って形を変化させると、複雑な形ではあったがピッタリと重なった。それをカチリと右に回す。僅かな抵抗があったが、無事に開いた。

 解かれた枷が宙を浮き、右足は自由を取り戻す。



「ふぅ。出来ましたよ。」


『良かった。では、残りの4つも頼む。』


「デスヨネー……。」



 何故あと4つなのだろうかと思いつつも了承する。ここまで来たのなら同じことだ。

 ありがとうと返されたその声は何処か弾んでおり、目の前に薄らと人影が見えた気がした。



 ・

 ・

 ・



「よいしょっとあと一つですね。」



 4つ目に当たる右の後脚の枷を外しながら事実を確認するように呟く。

 あと一つは首元だと言われたのを思い出し、今までの苦労を思い出す。苦労という程の苦労でも無かったのだが、あまり鹿から離れてすぎては魔力を使えなくなるという助言を受け、上へ下へと長い脚を行き来し、鹿の胴体を縦断したりと移動が大変だった。

 しかも、魔力を気にして速度を緩めるとすぐさま声がかかるのだ。我慢もそろそろ限界が来ても良い頃だった。



『……時間かかりすぎ。』


「もー!付き合ってあげてるのはこちらなんですが!」


『移動ゆっくり。』


「これでも急いでいるんですが!?神様を待たせすぎる訳にもいきませんし!」


『人の子は分からない。』



 首を傾げる影に不満を隠すことなくムスッと影を見る。薄らと見えた人影は今や少し透けているぐらいになっていた。枷を外す度に力を取り戻すようで、どんどんと存在感が増していったのだ。……その分、口煩さも増したが。


 拗ねるように唇を尖らせるその影は大人の女性の姿をしていた。……もしかしたら小柄な女顔の男性という可能性もあるが、そこは今考慮する程のことでもないだろう。

 背中で波打つチョコレート色の髪は腰よりも長く、新緑の瞳は優しそうなタレ目になっている。少し眠たそうにも見えるが、まだ力が戻っていないからだろう。

 灰色の長いローブを着たその人には立派な鹿の角があり、額に痣のようなものがある。牡鹿は角が大きいという知識から考えて男性かと思ったが、正直分からないというのが本音だった。

 まあ、どちらでも構いませんけどね。



「どうして首が最後なんですか?」



 首の枷があるという場所まで戻りながら、ここまでいくら聞いても答えてくれなかった疑問を再び尋ねる。

 今回も答えてくれないかと思ったが、何を思ったのか影は口を開いた。



『……危ないから。』


「危ないから、ですか……?」


『そう。』



 それ以上は答える気がないのか私の方を見ない影にため息を一つつき、先を急いだ。


 暫くして辿り着いた鹿の首元。それはまるで首輪のように付けられていた。初めに通った時は見えなかったことから、何か条件を満たさなければ行けなかったのだろう。

 ただ、一つ気になることがあった。



「何故周りの空は赤いままなのでしょう?」



 私の疑問に答えることなく影はただ早くしろとばかりに枷を指さす。何処か切羽詰まっているようにも見えるのが不思議だった。

 なんだかよく分かりませんが、急いだ方が良さそうです。


 今までと同様の手順で鍵をさし、回した頃。空は血のように赤くなっていた。



「ふぅ。これでお願いは完了ですね。私は役に立てましたか?」


『ええ。これで()()()()()。』



 影は既に実態を取り戻し、これにて舞台は整ったとばかりに鎖が繋がる先を見る。まるでそこから何かが出てくるのを待ち受けるかのように。


 ジャラリと自然に外れた最後の枷。漂う鎖の数は3本。2本は前脚と後脚をそれぞれ繋ぐもの。では、残りの1つの先は?



「間に合った……?それはどういう」


「姉さん!早く逃げるよ!」



 問いかける前に空が来る。焦った空の様子に振り向くと空の後ろに神様もいた。2人とも目に見えて慌てている。よっぽどここから離れたいのだろう。

 その2人の姿を見て私もここから離れるべきかと思ったが、答えはその前に現れた。ガッシャーンッ!とガラスが割れるような音がし、何かが出てくる。

 それは巨大なロバの頭だった。



「ヒヒーンッ!」



 出てきたもののシュールさに二度見する。あまりにも予想外なその存在に呆然としてしまったのは仕方がないことだろう。



「え。か、神様!ロバですよ!ロバ!

 この鹿さんより大きなロバとかどれだけ大きいんですかね!?もはや馬では!?」


「いや、ロバはロバだと思うよ?プティ。」


「さすが姉さん。確かにあれはもう馬と言ってもいいよね。」



 私の言葉に冷静に神様がツッコミを入れるが、一方の空は全くもってその通りだと私に同意する。

 私としても冗談で言っただけに何とも言えない気持ちになったが、今更だろう。どうしようかと思っているうちにもロバの頭はブルブルと上下に振ることでこちらへと出てこようとしていた。



「いや、空君こそ何を言っているのかな!?」


『父こそ落ち着くべき。今はそういう状況ではない。』



 冷静な影……いや、今は女性とでも呼んでおこう。女性の声にハッとした神様は目の前の巨大なロバの頭を見て構える。それを見て空も構え、私も慌てて構える。


 こうして事態は急変し、決戦へと場面は移り変わっていくのだった。

次回、ボス戦


それでは、これ以降も良き暇つぶしをお送りください。

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― 新着の感想 ―
[良い点] ドロボウになりました~♪これで鍵を開け放題です。 次は巨大生物同士の決戦…戦闘機がないと戦えないのでは(笑) [気になる点] もし、馬だとしたら「ウマとシカの戦い」。つまり、「馬と鹿の戦…
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